エピソード 63
キィン!
「ラガントゥスって何が弱点なのぉ?!」
ガキィン!
「いや、聞いた事あるんすけど思い出せなくて・・・何だっけな」
ナイトが剣で切りつけ続けるけど、全然効いてない。
口から火を吹かれるのでラガントゥスの横に移動して気付いたけど、こやつラグサールより大きいな。
ラグサールは二メートルもなかったけど、このラガントゥスは三メートル近くありそう。
皮膚もナイトが言うように岩のような皮をしてるし、身体も重量級。
試しに私と同じくらいのパクパクしたフラワーちゃんを作ってみたら、噛みついて歯が折れちゃった。
ナイトも首のあたりを繰り返し斬りかかってるんだけど、キンキン弾く音しかしてないし。それ剣大丈夫?
「あ~ヤベぇ、また刃こぼれ・・・」
ほらやっぱり。
ヘブンは正面から威嚇して顔が横向かないように引き付けてくれてるけど、どうしたもんか。
カパッ
あ、また口開いた!ダメ!
咄嗟にラガントゥスの口の下に竹を生やすとグフォ!と変な声を出して口が閉まり横から煙が出る。
「そうだ!口の中に水ぶち込んじゃえば?!」
「まぁ火は吹けなくなるかもしれないですけど、どうやるんすか?」
「ワタクシがしてみましょうか?!」
言うが早いか、ヘブンがラガントゥスを見つめると・・・
バシャ~ッ!!
え、すごい!水魔法?!ヘブンがお水出してくれたんだ!
うん、辺り一面びっしょびしょ!何故っ?!
「ヘ~ブ~ン~!!なんで俺らまで濡らすんだよ!」
「あれぇ?やっぱり火以外は苦手ですねぇ」
あ~確かに火の魔法が得意って言ってたもんね。
あれ?
「ね、なんか鼻ら辺赤く光ってない?」
私たちと同じく水を被ったラガントゥスの鼻が、マッチやライターの炎のように淡く光っている。
「あっ!思い出した!鼻っす!弱点、鼻です!鼻を潰したり切りつけるとひっくり返って首の下の柔らかい皮膚を晒すんで、倒せるんすよ!」
「え、じゃあ今私が竹を下からはやしてそこ狙えばいいんじゃない?」
「いや、狙えます?」
じ~っとラガントゥスを見てみる。地面にピッタリくっついた首の弱点・・・うん、無理だね。
「よし、じゃあ鼻を攻撃すりゃいいのね!いでよ!インゲン豆ちゃん!」
足元からツルが伸び、私より大きな木が生える。そこに実ったのは一メートルほどの長さとふと~い厚みのインゲン豆。
あれ?インゲンってこんなに巨大だっけ?まぁいいか。
一つ手に取り、お祭りの射的のように構える。狙って狙ってぇ~。
ボンッ
うわぁ、思ったより勢いあるなぁ。一発目はラガントゥスを飛び越えて暗闇の中へ。
どんどん行くぜ!
ボボボボンッ
「グオオオオウ!」
連射できるようにインゲン豆にした甲斐もあり、数発がラガントゥスの鼻に当たる。
怒ったラガントゥスが口を大きく開き、中に小さな火が点る。
「今だっ!」
生やしたインゲン豆の中から、一つだけ作った真っ赤な実を取る。
ボボボボンッ
バシャ~ッ
「グオオオオオッ!」
このタイミングを狙うために、激辛インゲン豆を作っておいたのさ!
「ナイトッ!今なら火を吹かないはず!鼻を切っ・・・て・・・?」
ナイト、さっきよりもさらにびっしょびしょ。
「・・・へい」
すたすたとラガントゥスに近付き鼻を切りつけ、ひっくり返った所にトドメを刺す。
そういえばさっきまたバシャ〜って聞こえたような。
「火を吹かれると思ってまた水を出したら、今度はナイトさんの上だけに出ちゃいました〜」
テヘっと舌を出すヘブン。
「ヘブン、もう言われるまで水魔法禁止な」
ナイトが睨んでるけど、まぁ仕方ないねぇ・・・。
濡れたけど常春バングルを外せば寒くないし、着替えて干してたら朝には乾いてて準備バッチリ!
早速またお花の石探しを再開させて、早数時間・・・。というか、もう夕方。
あれぇ?石らしき物が全然無いんだけど。
「キトル様、これ道間違ってるって事ないっすよね?」
「そのハズだけど、無いねぇ?」
「匂いがわかれば何とかなる気もするんですけどねぇ」
まぁ方向音痴でもヘブンは鼻が利くもんねぇ。私はすぐ迷うけど。何か地図とかがあればな~。
ん?地図?
「それだっ!!」
「うわっ!何すか?」
「ナイト!モルドさんに地図貰ってなかった?!」
「あ~貰いましたね・・・でもあれ確か、疲れない道だけを示してくれるっていうやつじゃ」
そう言いながら自分のバッグの中に手を突っ込んで地図を取り出す。
バサッと広げた地図には、ピカピカと光る点と、赤い線が光ってる。
「ほら!やっぱり!」
「いやだから、これ疲れない道を示してるだけなんですって」
呆れたように繰り返すナイト。も~!わかってない!
「だ・か・らぁ!疲れない道だけど、その目的地は?!」
「え、だから・・・え?」
「『自分の思う目的地』までの疲れない道を示してくれてるんじゃないのっ?!」
「・・・え?まさか、え?そんな便利な事あります?」
「うわぁ、便利な道具ですねぇ!地図はよくわかりませんけど」
ヘブンも覗き込んで来る。
「どうせ見つけてないんだし、この通りに行ってみようよ!ねっ?!」
「・・・そうっすね、もしこれで見つかれば、この先も楽ですもんね!」
「うんうん、じゃ、よろしく!」
ナイトが、え?って顔をする。
「だって私地図読めないから!」
もうね、前世から地図はからっきし!
ほら、よく言うじゃん?女性は地図見れない人が多い、ってさ。どうしようもないよね~。
「・・・へいへい、ご案内しますね」
苦笑いのナイトの後ろに、私とヘブンが大人しく付いて行った。
「まず戻りますね〜」
あ、戻るんだ。
「で、ここを左に行って〜」
ほうほう。
「この先に・・・あるらしいんすけど」
ん〜?はるか向こうまで見渡せる荒野なんだけど・・・?
地図を見ながら右往左往・・・していると。
「あ、何かあるよ。こっちの方。わかる、っていうか、感じる?前の時と同じ感じ」
アルカニアであの石を見つけた時と同じ、呼ばれてるような、引き寄せられるような・・・。
ピタリと足が止まる。
「ここだ・・・」
ん?ここっ?!
「何もないっすね」「何もありませんね!」
二人で異口同音。
「え〜だってここなんだもん」
言いながら地面に手を付く。
ここだ。あっ!この下だ!!
「ヘブン!」「はいっ!」
「ここ掘って!」「はいっ!」
言われるがまま疑問も持たず一心不乱に岩と化した地面を掘り始めるヘブン。
素直過ぎて私が居ない時に騙されないか心配だなぁ。
壁画の部屋に入る時も思ったけど、フェンリルの爪って岩も削れるのすごくない?
「キトルさまっ!ありましたっ!」
お、やっぱり埋まってたのか。
「・・・ここのもデカいっすね」
ヘブンが掘り出した部分は二メートル四方ほど。
で、お花の形の花びら一枚分。
ん〜大きい。石ってかまた岩。
やっぱりここのも力込めたら小さくなるのかな?
もう暗くなってきちゃったけど・・・
せっかく来たんだし、使徒の使命、果たして帰ろうじゃないの!




