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緑の手のキトル〜極貧で売りに出されたけど、前世の知識もあるから全然生きていけます〜  作者: 斉藤りた
バラグルン共和国編

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エピソード 62

いや~・・・うん。帰りは運んで、なんて曖昧な言い方した私も悪いけどね?


狭い通路で、少女を運んでいくって言ったらさ~、おんぶだと思うじゃん?


まさか肩に担がれる米俵スタイルで運ばれるとは。


狭い地下通路で降ろしてもらうのもアレだし我慢したけど、地上でヘブンに乗せられながら


「せめてそこはお姫様抱っこじゃない?」ってナイトに聞いたら、


「え?肩に乗せてもらうのが好きなんじゃないんすか?」だってさ!


座るのは好きだけど担がれるのは嫌いだよっ!


全く、女心のわからん従者だぜ。


んで、その日は結局寝込んで次の日。


我ら愉快な緑の三人組は今、セイクリッド山のある方向に向かって岩の街道をキョロキョロしながら歩いている。


前の使徒様、セレナさんの手記にあった『ドラム=カズンの壁画のある地下道から出て、セイクリッド山に向かって真っ直ぐ一日くらい』の場所にあるお花の形の石を探しているのだ。


と言いつつも、私はヘブンの背中に抱きつくように乗ってるんだけどね。


だって昨日の力仕事でまだ疲れてるんだも~ん。


「けど、キトル様ホントに良かったんすか?」


ナイトが岩で出来た街道の欠けた石を蹴飛ばして離れた場所に落ちてた石に当てる。上手いなぁ。サッカーとかしたらいい線いきそう。


「昨日の壁?」


「そうっす。ちょっとしか見えなかったし、変な顔してたじゃないっすか」


変な顔とは失礼な。


「そりゃめっちゃ気になるんだけどさ~。一応剥がれた部分の前後はわかったからいいかなって。あの壁だけ何故か剥がすの大変だったし」


「キトル様しか剥がせないですしね」


「あ、それなんだけどね。研究ドワーフさんの話ではあの周辺はどんどん枯れて剥がれてってるらしいよ!もうちょっと時間置いたらもっと見えてそうだし、大陸一周したらまた行ってみようよ」


ん?なんでナイトビックリした顔してるの?


「・・・そう、っすね。そうですよね!一周して、世界を救って、そのあと行ったっていいんすよね!うん!また行きましょ!」


なに?どうしたの?WHYキミそんなにウレシソウ?


「んふふ、キトルさまは世界をお救いになった後も、ワタクシたちと一緒に居てくれるんですねぇ」


え?!あ、そういう事?!


「え、そのつもりだったんだけど。違った?あ、でも、もし他にやりたい事があったら別にいいからね?」


「ないっす!」「ワタクシはずっとキトルさまと一緒がいいですっ!」


二人同時に大きな声。ん~愛されてるなぁ。


「まぁ一周して山に登ったらどうなるのかわからないしね。もしかしたら私が急に成長して絶世の美女になるかもしれないし!」


「・・・夢を語るのは自由っすよね」


とくだらない話をしながら一日歩いて、夕方。暗くなってきたし、この辺で今日は野宿だね。


「それらしき石は見当たらなかったっすね~」


と携帯用のコンロをセットしながらナイトがぼやく。


折りたたみ式の脚付き円盤の下に燃焼用の錬金薬包をセットし、点火するだけで使える優れもの。


「火ならワタクシが付けますのに・・・」とヘブンがつぶやいてるけど「全部炭になるからダメ~」と断られてる。


「もともとドラム=カズンから歩いて一日くらい、って言われてたしね」


と言いながら、おしゃれ可愛いリボンのバッグから生肉を取り出す私。


とっても違和感あるけど、時封じっていう時間停止機能が付いてるから便利なのさ。


このお肉は、もちろんこの前グリンベルダさんを狙ってた魔物鳥!買取屋さんに持ち込んで換金してもらった時に取り分けておいてもらったんだよね~。


だってあんまり美味しい美味しい言われると気になるじゃん?


ナイトが深めのフライパンを自分のカバンから取り出し、ぶつ切りにしたお肉を焼き始める。私とブランが買ったのとは違うお店で、ナイトもシンプルな魔法バッグ買ってたんだよね。


「ヘブンはお野菜あった方がいいよね~」と道端で作った葉物野菜や根菜もIN。


出来上がったのは、ドワーフ特製調味料で作った肉野菜炒め!そして何故か真っ赤。見事に真っ赤。


「ねぇ、これ何入れたの・・・?」


「あ、匂いで分かりました?この前の酒場で売ってたから買っといたんです。夜に行った時にキトルさまが食べてたステーキのソースにも使われてる、ドワーフの伝統的な調味料なんすよ」


あぁ、あのどデカいステーキ。あのソース、そんなに赤かったっけ?夜の酒場は薄暗かったし覚えてないや。


「って事は辛くないのか・・・大丈夫かな」


この体になってからまだ辛いの食べた事ないけど、多分耐性はなさそう。恐る恐る口に運ぶ。


「んんっ!美味しいっ?!え、すっごく美味しい!」


「このお野菜も美味しいですっ!鳥の味とソースの味がお野菜にしみこんでてたまりません~!」


鳥皮の部分はしっかり焼かれててカリッとしてるけど脂が乗っててプリプリ。身の部分は弾力があって歯ごたえがしっかりしてるんだけど噛んだ時に肉汁と一緒に旨味が溢れてくる。


そしてその脂と肉汁、旨味に絡んだこの甘みと酸味のあるソースがまた絶品・・・!


「ふっふっふ~。このソース、高価なんで普通は薄めて使うんすけど、そのまま使うとめっちゃ美味いんすよね~!ハネカゲのおかげで今金持ちなんで奮発してみました!」


ホントに美味しい!夢中で食べる私とヘブン。


「美味いっしょ?美味いっしょ?」ってナイトが聞いてるけど、答える余裕もなくモグモグ。


ナイトも諦めてモグモグ。無言のモグモグタイム・・・


ザリッザリッ


まだ食べ足りないけど無くなりそうってタイミングで、背後から変な音が近づいてきた。


「ね、ナイト、ヘブン」


「んぐ、ひゃい」


ザリッザリッ


「なんか音が聞こえるんだけど」


「何の音ですかぁ?」


ザリッザリッ


「ねぇ、近づいて来てるってば!」


後ろを見ても暗くて見えない。何っ?何なの?ホラーっぽくえ嫌なんだけど!


ばっ!と右手を出し、かざした方向の岩にぴょこっと芽が出る。そのまま伸びて・・・


ピッカ~!


「うぇっ!まぶしっ!」ヘブンは背を向けてるけど、ナイトは正面から光を浴びて目をつむってる。


名付けてチューリッピカピカ!チューリップ型のお花がこれでもかと白い光を放ってる。光の強さのイメージは工事現場にあるライト!


神殿では光りゴケ生やしたけど、こんな広々とした岩場じゃ光が足りないからね!


さて、さっきの音の正体は・・・


「ラグサール・・・?」


グラントからドラム=カズンまで、私たちが乗った馬車を引いてくれてたトカゲちゃん。


あれは飼われてたやつだけど、この子は野生のラグサールなのかな?そっと手を伸ばして一歩近づく。


「え、ラグサール・・・?あ、待って!近づかないでください!」


ナイトの声で手を止め、ササッと後ろに下がる。


が同時に目の前でラグサールの口が開き、その中に小さな火が点る。


「キトル様っ!」


あ、ヤバい。その瞬間、横からの強い衝撃で体が宙に浮いた。


私に体当たりしたのはヘブン。叫んで剣を抜いたのはナイト。そしてラグサールの口からは大きな炎。


ドシン!と地面の岩に身体を打ち付けたけどすぐ起き上がった。


「ヘブン!」


「だ、大丈夫ですっ!ちょっとかすりましたけど、フェンリルですから~」


そうなの?!フェンリルってそんなに丈夫なの?


剣を振って威嚇しながらナイトが大きな声で説明する。


「こいつはラガントゥスです!全身が黒ずんだ岩皮で覆われてて口から火を吹きます。ラグサールはコイツを家畜化させた種なんで、野生のラグサールってのは存在しないんすよ」


おおぅ・・・そうだったのね。イノシシと豚みたいなもんか。


「多分俺らの晩飯につられて来たんすね・・・。あとちなみに、さっき言ってたキトル様が食べたステーキもコイツっす」


マ・ジ・デ・エ?!それはあんまり知りたくなかった情報だなぁ。美味しかったけども。


食欲とトカゲっぽいのを食べる心の抵抗とで揺れ動く。


う~ん。大人しく帰ってくれるならわざわざ傷つけたくはないんだけど・・・。


チラリと横を見ると、ヘブンの首元のモフ毛の毛先が少しチリチリになってる。


「ヘブン、それ・・・」


「あ、ちょっと焦げてますねぇ。まぁ毛先だけですし!」


・・・私のモフ、もとい、可愛い可愛いヘブン君になんてことを!!


「ナイト、こいつステーキに決定」


「もちろんっす」


美味しく焼いて食べてやろうじゃないのっ!

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