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緑の手のキトル〜極貧で売りに出されたけど、前世の知識もあるから全然生きていけます〜  作者: 斉藤りた
バラグルン共和国編

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エピソード 61

「「「すいませんでしたぁ!」」」


崖の上に戻ってきた仲良しドワーフ三人組、ただいま土下座中。


一人用飛行機械に降下する仕組みを作り忘れて私に助けてもらったからなんだけど・・・。


土下座スタイルがなんか変。


正座でおでこを付けてるけど、手はグーだしハンマーと斧が差し出されるように置いてあるし。


「ね、これなんで武器出してるの?」


小声でナイトに聞く。


「えぇっと、確かナントカの誓いってやつで、ドワーフの最大限の謝意だったと思います」


出た。またドワーフの誓い。そんなに色々誓ってたら忘れるんじゃないの?


ふぅ、とため息を一つ着く。


「もういいですよ。立ち合うって決めたのも私ですし、売れそうな鳥もいっぱい手に入ったし」


そうなのだ。お金がないのだ。


野菜は自分で作れるけどお店で食べたり買い物したりするのにお金が必要で、この前の酒場でもナイトに払ってもらったの気になってたんだよね。


野菜や果物を売ればいいんだろうけど、世界を豊かにしようって使徒様がなんかみみっちい気がしてさぁ。


「こんだけありゃ、俺の剣も買い換えられますよ!」


足場にしてた大きな葉っぱに包んだ魔物鳥見てニッコニコのナイト。


持ってきた荷車に無理やり押し込んでる。


そういえばドルムンタ伯爵の所でもらった剣ずっと使ってたんだっけ。


「そ、それならワシにお前さんの剣を打たせてくれ!せめてもの償いだぞい!」


「あ、じゃああたしは固くて丈夫な合成金属を作りますぅ!」


「オイラも手伝うっ!」


・・・ホント仲良くなったな。


タルゴさんをじっと見て、聞いてみる。


「さっき、認めるって言ってましたけど、本当にいいんですか?空は飛びましたけど、私がいなきゃただの危険な発明でしたよ」


グリンベルダさんとノルグさんがハッとした顔をしてタルゴさんを見つめる。


しばらく考えた後、タルゴさんが口を開いた。


「いや、やっぱり認めるしかねぇよ。こんなもんを作ろうとした発想も、一人で作り続けた根性も、空を飛んだ度胸も、俺が思う立派なドワーフそのものだ。こんな女を家に縛り付けたんじゃ、ヴォルグにバチ当てられちまう」


へへっと笑うタルゴさんはちょっと照れ臭そう。


「やった~!」と抱き合うグリンベルダさんとノルグさん。


「それに・・・」


タルゴさんが続ける。


「嫁に貰うならこういう生意気なのより、大人しくてしとやかな方が俺は好みだってわかったしな!」


はっはっは!と豪快に笑う。


「んなっ!なっ!私だって、タルゴさんは好みじゃありませんからねぇ?!」


「生意気な女の良さがわからんとは、まだまだだぞい~」


ん~やっぱり仲良きことは美し・・・いや、やかましきかな、だな。この場合。


「キトルさまぁ~お腹空いたしそろそろ帰りましょう!」


グゥ~。


ヘブンのお腹からの訴えに、同調する我がお腹。


「そうだね、そろそろ帰ろうか」


「あ、そういえばあれはそのままでいいんですよね?」


と言いながらヘブンが崖の方に行きジャックな大木を見る。


「ん?いいんじゃない?この辺は岩だらけだし、私の仕事がちゃんと終わればザルクが生えてくるだろうし」


「あっちの方もですよ?」


ヘブンが鼻先で指す方・・・大木じゃなく、もっと低い木が豆の木の近くに点々と沢山生えてる。


「何あれ。あんなのなかったよね?私何かしたっけ?」


ナイトが横に来て目を細める。


「あ~あれじゃないっすか?たくさん撃った豆」


豆?・・・豆ぇ?!


「さっきの鉄砲豆?!もうあんなに育ってるの?!」


よく目を凝らすと、豆のようなものが沢山ぶら下がってる。


「鉄砲豆って言うんすか?あれ良かったっすよね~また今度ぜひ作っていただきた」


「何だと?!さっきの飛ぶやつかっ?!」


ノルグさんが落ちそうなくらいに前のめりになる。


「おぉ、あんなに沢山・・・!使徒様!ありゃあそのままにしといてくれ!あんな凄い仕組み、ぜひとも知りたいぞい!」


「え?アレが飛ぶかはわからないけど、出来るだけちゃんと食べてもらえるなら・・・」


「わかったぞい!ヴォルグに誓うぞい!」


も〜またすぐ誓う~。小躍りし始めた三人組を尻目に「まだですかぁ~?」と嘆くヘブンのお腹がまた鳴った。







「では炉の誓いはノルグによって果たされ、タルゴ殿は勝者の言う通りに十年間勝者に仕える事とする、とグラントにも使いを送るぞう」


王城に帰ってきて、王様に結果報告。ドワーフ三人は戻ってくるなり剣作りに走ってったから、謁見の間には私とナイトとヘブンだけが来た。


まぁ考えうる限り一番いい結果に収まったんじゃない?タルゴさんもノルグさんと仕事するのは楽しそうだし。


「さて使徒様、今後のご予定は?」


今後?今日はもう遅いし、明日の朝からはお花の石探しをする予定なんだけど。


「実はな、新たに見つけた壁画の調査をしていく中で、神殿の壁が剥がれている箇所が見つかり、その下にも何か描かれていたと報告を受けたんだぞう」


神殿の壁の下に?あっちに書かれてたのは文字だったけど、下には違う絵が描かれてるのかな?


「今日、まだ行けますか?明日からは緑の使徒としての仕事がありますので」


「おぉ、そうか。では魔法鳥を飛ばして伝えておこう」


ん~何が書かれてるんだろ。でも筋肉痛はもうこりごりだから、剥がしてまでは見なくてもいいかな。


王城を出てすぐに神殿に向かい、早速到着。


今度は下の線を見ながら歩いたから、私が先頭でも迷子にならなかったもんね!ふふん!


門兵さんは、前にお話を聞いたあの人。もう一人の監視が付いた人はいないみたい。


「使徒様!伺っております!どうぞ!」


うやうやしく扉を開けてくれる。


あ、今日光る玉持ってきてない・・・と思ったら、扉の隙間から漏れる明るい光。


「あ、現在研究者の方々が頻繁に入られるので、光炉珠が部屋の四隅に置かれているんです」


光炉珠?あ~前のより長持ちするタイプって事かな。


中には壁画のトンネル作りの時に会った研究者のドワーフさんが一人。こうやって見るとこの部屋は壁画の部屋より狭いのね。


「お、使徒様ですな、お待ちしておりました。こちらでございます」


左奥の壁の前に促される。


ホントだ、壁の一部が剥がれて文字が・・・


・・・え?


「我々には何が描いてあるのかわからない、という事は、おそらく使徒様に向けられたものではないかと」


・・・そうだね、これは日本語だもの。私に向けてなのは間違いない。間違いないけど・・・


壁紙が剥がれた場所に見える「さくら」の文字。


これは、植物の桜の事?


それとも・・・前世の私、大山さくらの事?


「キトルさま?」


ずっと抱っこしてたヘブンが心配そうに見上げてくる。


「大丈夫っすか?」


ナイトも顔を覗き込んでくる。


うん、仲間は頼んなきゃだよね。


「あのね、またあの壁を動かしてみるから、帰りは運んでくれる?」


「もちろんいいっすよ」「ワタクシは外に出たらお運びしますっ!」


二人の声に後押しされ、両手を前に出す。よし!


ぐ、ぐ、ぐ、と壁を動かしていく。やっぱり重い~!


ってかあっちの部屋のより重たくない?!気のせいっ?!


「おぉっ!」研究者さんが喜んでるけど今はリアクション出来ない〜!


少しずつ「さくら」の前後の部分があらわになっていく。


も、もうちょっと上まで・・・!


「あっ!」


足を踏ん張りなおそうと一歩前に出た瞬間に小さな欠片を踏んでバランスを崩し、力が抜けてしまった。


「大丈夫っすか?!」


「はぁ、はぁ、はぁ、だ、だいじょ、うぶ」


背中が汗でびっしょりになってる。


「あちらの壁画の間で作業をされていた際はもっと動かされていたのに、こちらではこの程度・・・何か違いがあるのでしょうか。材質や描かれている内容?これは興味深いですねぇ」


この人、私が目の前で倒れてるのに、まさに研究者だな。


「ね、書いて、あったの、見た?何て、書いてあった?」


息がまだ切れてる。


「いや、俺ら読めないっすよ」


・・・あぁ~そうだったぁ~!!うわぁ、ちゃんと見てないや・・・え?もう一回これやるの?


「わたくしは書き取りましたぞ」


研究ドワーフさんがメモを持ち上げてる。


「マジで?!良かったぁ~!ありがとう、研究ドワーフさん!」


「研究ドワーフ?ふむ、なかなか良い響きですな」


公認になった研究ドワーフさんから受け取った小さなメモ用紙。


そこには歪んだ文字で「吉野さくらより」と書かれている。


吉野さくら・・・


多分これって前々使徒様の名前だよね。


この人も、さくらさん・・・偶然?


私が大山さくらだったのも、何か理由があるの?


疲れた頭でグルグル考える・・・けど、答えはもちろん出ない。


もういいや!とりあえず、おんぶで上に連れてってもらおうじゃないの!

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