エピソード 60
「ヘブン、そっち行ったぞ!あっ!こいつ!降りて来やがれ!」
「ナイトさん、これ全部焼いちゃダメなんですかぁ?!」
「バッカ、こいつら高級品だぞ?!尾羽だけでもこのハンマー買い直せるぜ?!」
「タルゴのいう事は気にするない!危ない時は気にせず焼いていいぞい!」
「どうやって降りたらいいんでしょぉ~?!」
崖の上から見守ってるけど、みんな苦戦中。
遠くにいた時は真っ黒の雲のように見えた魔物鳥は近づくとかなり多くて、百羽以上は飛んでる。
グリンベルダさんがいるくらいの高さに、落下防止手すり付きの足場として大きな葉っぱを生やしたからそこで戦ってるけど、いかんせん武器がなぁ・・・。
「おいドワーフ組!何か飛び道具作れねぇの?!こいつら全然近付いて来ない!」
「材料がないとさすがに無理だぞい!」
「だからぁ、ワタクシが全部焼けばぁ~」
「やめろってんだろ!」
しょうもない喧嘩してるなぁ。
でも確かにこのままじゃらちが明かないし、何か作れないかな?
ん~と・・・あ、そうだ!せっかく豆の木なんだし!
右手をみんなのいる葉っぱの足場に向ける。
え~っと、補充出来た方がいいかな・・・?んや、とりあえず沢山作って使い捨てにしよう!
太い木の幹からぴょこんと芽が出て、スルスルッと伸び、葉っぱと共にパカッと黄色の花が開く。
「え?うわ、ビックリした!キトル様~!これ何すか~?!」
うるさいなぁ、今集中してるの!
パカパカパカッ。
いくつも花が咲き、しぼみ始め、花の根元が膨らみ、段々と大きくなり・・・
へい!巨大枝豆、いっちょ上がり!
枝豆かは知らんけど!
「その豆、花びらが付いてる所から取って、尖がってる方を鳥に向けて~!」
ドワーフ二人組が近づく鳥に向かって手を振り回してる間に、ナイトがしおれた花びらごと豆のさやを手に取る。いや、ナイトの両手に収まらないサイズだし、腕に取る、かな?
「狙いを定めたら、花びらを引っ張ってみて~!」
マシンガンのように持ったデカ枝豆もどきの先端を魔物鳥に向けて、花びらを引っ張る。
ポポポン!
可愛らしいポップな音と共に、強烈なスピードで飛び出した豆が魔法鳥にぶつかる。あ、一個外れた。
「ぬわっ!何じゃこりゃ!すっげぇ!キトル様っ!コレもっとやっていいっすか?!」
空っぽになった豆の皮を覗き込みながらナイトが喜ぶ。
「いいよ~!空になったら下に落としといて!いっぱい作るから!」
パカパカパカパカ。
どんどん花を咲かせてどんどん豆にしていく。
「やった!うはははは!」
大はしゃぎで鉄砲豆を打ち続けるナイトの様子を見てウズウズしたのか、
「わ、ワシもっ!ワシも使っていいか?!」
「オイラも!」とドワーフ二人も鉄砲豆を手に取る。
ポポポン!ポポポン!
楽しそうな音が鳴り響く中、鳥が落ちていくのシュールだな・・・。
かなりの量の豆は作っといたからしばらく持つでしょ。さて次は。
巨大豆の木の根元に向けて両手を出す。
ニュルニュルっと太くて先端の尖ったツルを木の幹に巻きつけながら上へ上へと伸ばし、みんなのいる位置よりもっと上の方まで成長させる。
うん、この辺かな。魔物鳥が沢山飛んでるくらいの高さで、グリンベルダさんが飛んでるすぐ上。
ここからは意識を集中させて・・・。
ブオンッ!ビュンッ!バシッ!
伸ばしたツルを鞭のようにしならせ、魔物鳥をみんながいる足場の葉っぱに叩き落とす。
「ヘブン!落ちてきたやつお願い!」
「了解しましたぁっ!」
グリンベルダさんには当たらないように気を付けて・・・
ブンッ!ビュンッ!
ん~集中してないとなかなか当たらないなぁ。
狙いを定めて・・・
ビュン!バシッ!
よっしゃ!二羽まとめて落とせた!
もう一回!
葉っぱの上では男三人が楽しそうに大笑いしながら鉄砲豆を撃ち続けている。
「よしっ!三羽連続〜!」
「ふん、ワシなんてさっきからずっと外してないぞい!」
「オイラの取った豆、四個入ってたぜ」
何の競い合いだ?
そのまま三十分ほど落とし続けた頃、仲間が減った事に気が付いたのか魔物鳥が離れ始めた。
「もう大丈夫、かな?」
呟いた声が聞こえたのか聞こえてないのか
「おい!残りも逃げずに来いよ!」
とナイトが叫ぶ。止めなさいってば。
危険なら倒すけど、離れて暮らしてるのはそっとしといてあげなさいな。
「使徒様ぁ~ありがとうございますぅ~」
さっきより少しだけ低い位置を飛び続けるグリンベルダさんからお礼を叫ばれる。
そうだ、こっちの問題がまだ残ってた。
「グリンベルダさん、ゆっくり降りてこられますか~?!」
「む、難しいと思いますぅ~!」
だよねぇ。ツタで捕まえてもいいけど、危なくないように下まで降ろすのは難しいな・・・。
下を覗き込んでみる。
さっきの豆の、空っぽになった皮が山積みになっているのが目に入った。
そうだ!
「みんな〜!降ろすよ~!捕まって~!」
崖の上から叫ぶ。
「えっ?!」
ブワッ・・・ス~ッ
言った瞬間、大きな葉っぱが下からの風で膨らんだかと思うと、そのまま勢いよく下に降り始める。
「うわぁぁぁぁ~・・・!」
「うぉぉぉぉぉ!」
「ぎゃぁぁぁぁ~!!」
「わぁ~っ!すごいです~!」
何か見た事あるな、コレ。あ、あれだ、遊園地のアトラクションのフリーフォールみたい。安全バーないけど。
地面に着く少し前に減速し、ゆっくりと空っぽの豆の皮の上に到着。
「し、死ぬかと思った・・・」
「宙に・・・浮いてたぞい・・・」
「・・・」
あら、タルゴさん白目むいちゃってる。大丈夫?
「キトルさまっ!これもう一回出来ますかっ?!」
ヘブンは絶叫系好きそうね~。いつかジェットコースターみたいなの作ってあげようかな?
「さ、早く降りて~!」
フラフラしながら二人が降りて、ヘブンがタルゴさんの襟を咥えて離れた場所に飛び降りる。
次に、目の前の豆大木の幹に向かって両手を伸ばす。
エスカレーターに使った葉っぱを縦一列に重ね、そのままフリーフォール葉っぱの上に落としていく。
よし、葉っぱのクッション出来上がり!これで衝撃は吸収されるはず!・・・されるよね?
う~ん、ちょっと不安だし、もうちょっと!豆の皮を覆い隠した葉っぱの周りを囲むように低い背丈の木を生やし、白い花が咲いたと思うと一斉に枯れる。
そのあとに出来たのは、真っ白の綿!葉っぱの中心に向かってお辞儀するようにゆっくり傾き、綿がもこもこと集まっていく。
よし、ここまでやれば十分でしょ。
上を見上げてグリンベルダさんに向かって叫ぶ。
「そろそろ降ろしますよ~?!捕まえるんで動かないでくださいね~!」
「え?!捕まえるって・・・きゃあっ!」
鳥を叩き落とし続けたツタを伸ばしてグリンベルダさんを捕まえる。
羽の部分は強く巻きつくと歪んじゃいそうだし、機械のリュックごとグリンベルダさんの体に巻きつける。
「うひゃあ、あははっ、こ、こしょばゆい・・・!」
「我慢してくださ~い」
集中して力を入れすぎないように、でも落とさないように、絶妙な力加減を維持しつつ、そっと下へと動かしていく。
少しずつ、少しずつ・・・。額を汗が流れていく。
半分を過ぎたあたりで、グッと重さが増す感覚。
上の方まで巻きついたツタが、飛行機械の重さに耐えきれなくなってきたんだ。
「そろそろ落ちます!衝撃に備えて!」
「えっ?!ひゃぁぁぁぁぁ・・・」
ボフ~ン!
柔らかな音がして、豆の木の根元に真っ白な綿がフワフワと綿が舞ってなんだかファンシーな光景。
「大丈夫ですかっ?!」
崖の下に向かって叫ぶと、数秒してから
「大丈夫ですぅ~無事ですぅ~」
と、か細い声が聞こえてきた。
はぁ~・・・良かった・・・。思わず後ろに倒れこみ、大の字になる。
全くもう。今回の私、大活躍なんじゃないの?




