エピソード 6
集落に着いたら、元気いっぱいモリモリ働いてどんどん野菜や果物を作って・・・
そんな風に考えてた時期が、私にもありました。
いやあ、ナメてたね。
栄養失調の七歳児の体力。
まず辿り着けないっていう。
森の中と森を出てから、合わせておよそ二時間弱くらい?
平坦な道をただ歩いてるだけなのに、フラフラで立てなくなっちゃった。
「大丈夫かい?すまないねぇ、気が付いてやれなくて」
おばあちゃん元気だね・・・。
私は膝が笑ってるよぅ。
「ほら、水だ。飲めるか?」
イケメンから革袋?みたいなのに入ってるお水を手渡される。
ありがてぇ・・・ゴックゴックとのどが良い音を立てる。
は~生き返る。
「使徒様は抱えていくか。ばあちゃんは大丈夫か?」
「あたしゃ大丈夫だよ。昨日貰った果物食べてから調子がよくってねぇ」
心なしかおばあちゃんの肌もツヤツヤ。
「ったく、いつの間にか目も見えるようになってるしよぉ・・・そのうち俺より若返るんじゃねぇか?」
喋りながらひょいっとお姫様抱っこされる。
え、この格好で行くの?これはさすがに恥ずかしい!
「わ、え、ちょっと!他の抱え方がいいんだけど!」
「ん?そうなのか?」
すぐ降ろしてもらったけど、かといっておんぶは鎧みたいなのが固そう・・・あ!
「肩に座らせて!」
私の体小さいし、乗れそう!
背が高いから、周りも見えるし、いいじゃん!
「ん?こうか?」
左の肩の上に乗せてもらう。高~い!
「いいね!よっしゃ、出発だ~!」
「もう出発してるって」
イケメンが笑ってるけど、気にしな~い。
たまに降りて歩いたり、お腹空いたら野菜やフルーツ作って食べたり。
気分はピクニックだね。
「このペースならもうすぐだな」
イケメンの肩に乗って近くなった太陽の位置的にお昼過ぎ、多分二時か三時くらいかな?
「ほら、見えて来たぞ、あそこに・・・」
イケメンが指をさす方向に木で作った柵?の壁みたいなのと、その横に壁より大きな黒いの。
何あれ。
集落の目印的な?
「・・・魔獣だ」
まじゅう?魔獣か!え、あれが?
ってかここからじゃ黒い塊にしか見えないんだが・・・視力スゴくない?
「こんな昼間に出るなんて・・・わりぃ、使徒様、ちょっと降りてばあちゃんとここにいてくれ」
「え?どうするの?」
「依頼はないが、集落を襲ってるとなりゃ放っておけねぇ。討伐は無理でもせめて追い払ってくるさ」
「え、でも」
「大丈夫、こう見えても強いんだぜ」
「キトルを守ってくれるって言ったろう?危険だから、あたしらはここで隠れていよう」
二人とも何か真剣に言ってるけどさ。
「その魔獣?こっちに向かって来てるよ」
明らかに大きくなってくる黒い塊、いや、毛玉。
すごいスピードで、土煙が立ってる。
慌てて守るようにおばあちゃんが私を抱き、私たちを背に隠すようにイケメンが剣を抜いて構える。
おぉ、かっこいいな。
でもさ、その魔獣、見た感じただの大きな犬なんだけど。
しかもめちゃくちゃ尻尾振ってるよ?
「し!と!サ!マ~!」
・・・ほんとに危険か?
バサ~ッ!
すごい勢いのまま目の間で止まったから、すご〜い砂ぼこり。
「ゲホッゲホッ」
「あぁっ、使徒サマ、大丈夫ですかっ?!」
私たちの周りをグルグルと回る、喋る犬モドキ魔獣。
砂が舞うからやめなさいっての。
前世で見た馬よりはるかに大きいな。
「・・・害意はない、のか?」
イケメンが剣を持ったまま固まっちゃってるよ。
「ゲホッ。ね、あなた話せるのよね?私たちを傷つけたりしない?」
大きなワンコは鋭い牙を見せてショック!って顔してる。
何この子。
「とんっでもない!ワタクシが使徒サマの誕生をどれほど心待ちにしていたことか!」
おばあちゃんが頭の砂を払ってくれてる。
「ワタクシは先代の使徒サマに拾われ仕えていたのです!そして、また使徒サマが現れたらお助けするように申し付かったのです!」
おばあちゃんの手が止まった。
「そうなのかい?うちのばあ様からは魔獣の話なんて聞いたことなかったけどねぇ」
ワンコが胸?首?を張る。
「ワタクシが仕えたのはお役目を終えるまでのほんの数年間でしたからね!」
「前の使徒サマは死ぬまでそのお役目を果たしてたの?」
もしかして、私も死ぬまでずっと・・・?
「いえ、『もう充分でしょ~』と言われて街に向かわれましたので、その後の事はわかりません!」
ズコッ。
あ、そう。
人のこと言えないけど、結構適当な人だったのね。
「使徒サマの匂いがこの人間の所からしたので、すれ違わないように待たせていただきました!」
座ってブンブンと尻尾振ってる。
なんだか大型犬みたいで可愛い。
思わずふふって笑っちゃった。
「私もね、これからいろんなところに行こうかなって思ってるんだけど、一緒について来る?」
「もちろんですっ!」
「はぁっ?!」
喜ぶワンコと驚いた顔のイケメン。
「こんな魔獣連れて行くのかよっ?!危険かもしれねぇだろっ?!俺は嫌だぞ!」
「なんですとっ?!私が使徒サマにとって危険なはずがないでしょう!何ですかこの失礼な人間は!」
キャンキャンと騒ぐ二人。
っていうか・・・
「お兄さんは一緒に行くの?」
さっきのワンコと同じショック!の顔したイケメン。
もしかして気が合うんじゃない?
「お、俺は、ばあちゃんを連れて帰ればもう安心だから、一緒に行けるもんだと・・・」
「あ、いや、ダメなんじゃなくてね、一緒に行きたいとか何も言われてないか」
「イキマス!行きます!役に立ちますんで!ついて行かせてください!」
ひゃあ~!イケてる顔面が目の前に!手!私の手握ってる!
「い、いいよ!いいから、離して~!」
「よっしゃ~!」
ガッツポーズのイケメンと
「足手まといじゃないですかぁ?」
とジト目のワンコ。
頭の砂を落としながら
「使徒様ってのも大変なんだねぇ」
とおばあちゃん。
ホントだよぅ・・・。
イケメン改めナイトさんが先に行き説明し、集落には大歓迎で迎えられた。
ワンコはみんなが怖がるから柵の外で、待て!して座ってる。イイコ~。
さて、ここからは私の仕事だね。
集落の人たちからの期待と空腹の飢えた視線を背中にビシバシ感じるな~。
ふふん。何を作るか、実はもう考えてるんだよね。
「ナイトさん、肩に乗せてくれる?」
「ナイトでいいぜ、俺は立場もあるしキトル様って呼ぶからさ」
ん~様付けか~。
まぁ使途様よりはマシかな?
ナイトの肩に乗って入り口近くの木の柵の内側に手をかざす。
作るのはこの柵に合う南国風の木に、栄養たっぷり・胃腸に優しい・素早いエネルギー補給と三拍子揃った黄色くて甘いアレ!
そう、バナナ!
ニョキニョキ生えた木には「おぉ~!」と良い反応だったのに、バナナを見ると「おぉ・・・?」って微妙なリアクション。
やっぱりバナナ知らないか~。
ワンコだけは柵の外から
「おおっ!これはっ!」
って喜んでる。
ナイトの肩に乗ったまま、一本取ってぇ~、皮むいてぇ~、そのままナイトのお口にドーン!
「ンゴッ!んぬむぅ・・・」
モグモグ、ゴクン。
「何だこりゃ!うんめぇ!すげぇ甘いし、なんか・・・すげぇ!」
食レポ下手だね。
でも素直なナイトの反応を見た住民が我先にとバナナに飛びつきだした。
うんうん、いっぱいお食べ。
肩に乗ったまま柵の内側を一周してもらって、バナナの木で埋める。
最初の木の元に戻ってくる頃には、みんなお腹いっぱいになったご様子。
ワンコも柵の外から食べてたみたいで満足そうな顔してる。
と、ガッシリした体格の口髭のおっさんが近づいて来た。
確かさっき、長?オサ?って名乗ってた人かな?
「使徒様、何とお礼を言えばよいのか・・・これで皆生き延びる事が出来ます」
「あぁ、何のこれしき・・・ところで、今日はここに泊めてもらってもいいですか?」
思わず武士みたいな口調が出ちゃったけど、気にしないで。
「もちろんです!大したことは出来ませんが、最大限のおもてなしを・・・」
「明日は、畑に行きますから!」
「へ?」
オサさんがぽかんとしてる。
助けるなら、徹底的にやろうじゃないの。
アドバイスをいただいたので、読みやすいように行間を開けてみました。