エピソード 59
「おい!そっち、もっと持ち上げられねぇのかよ?!」
「ちょっとぉ!あんまり引っ張らないでぇ~!」
「うむ、今日はいい風が吹いてるぞい!」
ドラム=カズンを出て三十分ほど歩いた小高い丘、というより岩山の上。
来た方向、ドラム=カズンの街が見える方は崖のようになっていて、ちと怖い。
なかなかの強風が吹き荒れる中、ノルグさん、グリンベルダさん、タルゴさんの三人は一人用飛行機械を飛ばすための準備に取り掛かっている。
ここに来るまでの山道は結構な急斜面で、地面は土でも砂でもなくゴツゴツした岩だし、筋肉痛明けの私にはハードワークすぎるので、ヘブン(大)に乗ってここまでやってきた。
ドワーフ仲良し三人組はえっほえっほと荷車を楽しそうに押してきて、到着するなりワイワイ騒ぎながら楽しそうに組み立てている。
なんか三人めっちゃ仲良くなってない?
ってかタルゴさんも普通に手伝ってるし。対決する相手が手伝ってもいいのか?
「ねぇナイト?」
ヘブンに乗って目線は三人に固定したまま、横に立っているナイトに話しかける。
「へい。・・・あ、何となく言いたいことはわかりました」
「だよねぇ?これ、対決としてはいいのかなぁ?」
「どうなんすかね・・・?本人たちは楽しそうっすけど」
執事さんが居た時は冷静に諭されて方向修正されてた気がするけど、執事さんが居なくなったからやりたい放題な感じ。
まぁ本人たちがいいならいいのか?
ヘブンから降りてこれから飛ぶ予定の空を見上げると、何か黒いのが頭上をクルクルしてる。なんだアレ。鳥?
「ねぇナイト、あれ何?」
ナイトが私の指さす方を見て目を細める。
「あれは・・・ハネカゲっすね」
「ハネカゲ?鳥?」
「一応鳥っすけど、魔物の鳥ですね。足は六本でクチバシに毒があって、翼の先端が鋭くてナイフみたいなんすよ。頭のてっぺんにいつも光ってる赤いツノが付いてて、体は黒くて尾羽だけが虹色をしてます」
それ鳥か?
「え、ヤバい鳥じゃん」
「でも身は高級食材で噛めば噛むほどうまみが出てくるし、毒抜きしたクチバシは珍味として有名で、虹色の尾羽はアクセサリーとかに加工出来て人気なんすよ」
ん?なら飛んでてもいいのか?っていうか食べてみたい。
「あ、でもそうか、今繁殖期か・・・。普通は近づかなければ危険はないんすけど、今気が立ってる時期なんすよね。しかも今から空飛ぼうとしてるわけだし、ちょっと良くないっすね」
「どうにかできないの?弓とか」
「弓はないっすけど、あれは群れじゃなく一匹だけだし、もうちょい下に降りてきてくれれば俺が倒し」
「あの鳥がいなくなればいいんですかっ?!」
ヘブンが食い気味に聞いてきた。
「いやヘブン、いくらお前でもあんなトコまでは飛べないだろ?」
「飛びませんよ?こうするんですっ!」
と上を向くと、目の前でゴウッという音と共に以前見せてくれたのの倍以上はある炎が立ち上る。
私乗ってるんだけどぉ?!
「な、なんだぞいっ?!」
後ろでノルグさんたちの声が聞こえた瞬間、ヘブンがふっと口を閉じる。
ひゅるるると風を切る音がして、ヘブンの目の前に真っ黒こげの物体が落ちてきた。
「どうですっ?!私にかかればあのくらいの高さは何て事ありませんよっ!」
ヘブンから降りてドワーフさん達に説明する。
「ハネカゲって危険な鳥がいたらしいんで、ヘブン君が焦がしてくれました」
「あぁ~・・・高級食材が・・・」
食いしん坊ナイトが、残念そうに真っ黒な鳥を持ち上げた。
諦めきれないナイトが食べられる部分がないか解体し、またガッカリしたその数分後。
「よしっ!」
暇だったから歩いた後に生えるザルクを飛び越えて更に重ねて生えさせ、いくつ重ねられるかという謎の遊びをしていた私の背中に声が当たる。
「出来ました!行きます!」
振り向くとグリンベルダさんが大きい機械のリュックを背負っている。
そこからビヨ~ンと左右に伸びた骨組みと、金属でできた羽っぽいの。
そしてその羽の直径、約十メートル以上・・・。
「いや大きさよ!!」
デカいんだわ!プテラノドンか?!何じゃこりゃ?!
前に落ちてきた時はこんなんじゃなかったよね?!
私のツッコミなんて耳に入っていないのか、タルゴさんは金属羽を確認し、ノルグさんは風を読む道具?の棒を空に向けてメモリの数値を見ている。
「よし!ええぞい!!」
ノルグさんの声と共に、ドラム=カズンの街に向かって走り出したグリンベルダさん。
え、ちょっと待って、そっちは崖の方じゃない?!
そのまま上に飛ぶんじゃないの?!飛び降り系?!失敗したら落ちちゃうじゃん!!
急いで後ろを追いかけるとグリンベルダさんの足が岩を離れ、そのままゆっくり下方へと視界から消えた。
「グリンベ・・・!」
崖の先端に着こうかとした瞬間、突風が吹いて思わず立ち止まりギュッと目をつむる。
すぐに目を開けた時、視界を盾に切り裂いたのは天に向かって飛び上がる大きな影。
顔を上げると、空を覆うように広がるグリンベルダさんの背中から広がった大きな羽。
・・・その大きさ、三十メートルほど。
「いやおかしいでしょっ?!」
なんでさらに大きくなってんのっ?!どうやったの?!
私の横ではノルグさんとタルゴさんがハイタッチしてる。
「うわ~、ホントに飛んでますねぇ・・・」
ナイトが眩しそうに目を細め、手を眉の上にかざして空を見上げる。
「あのくらいの高さだと、私の炎も届きませんねぇ」
何故か残念そうなヘブン君。グリンベルダさんは燃やしちゃダメよ?
空の上でゆっくりと大きな八の字を描きながら風に乗る、この世界初の飛行士さん。
「こりゃあ、認めざるを得ねぇなぁ」
と、タルゴさんが嬉しそうに呟く。
「しかし、この世界で初めての飛行機械の開発に携われたんだ、これ以上の誉れはねぇわな!」
ニカッっと笑って見せるタルゴさんの顔はとてもスッキリしている。
ノルグさんの方は・・・何故か目を見開き、強張った顔をしている。
「え、どうしたんですか?」
目線を追うと、グリンベルダさんの方に向かってくる真っ黒な雲。
「・・・ありゃあハネカゲの、群れだぞい・・・」
ハネカゲ?さっきの高級食ざ・・・危険な鳥?!
「えぇっ?!危ないじゃないですか!!早く下に降りて来てもらわないと!」
「・・・」
何かつぶやくノルグさんと、あって顔のタルゴさん。
「えっ?!何?!」
「考えてないかったんだぞい・・・飛ぶことだけを考えてて、降りる事まで気が回らず・・・」
「完全に頭から抜けてて、忘れちまってた・・・」
噓でしょぉ?!
っていうか、そんなの鳥が来なくても危ないじゃん!
「パラシュートとかはっ?!」
「パラ・・・?」
あぁ、もう!!私が居なかったらどうしてたのよっ!!
「ナイト!ヘブン!グリンベルダさんまでの足場を作るから、崖の下まで行って!!」
「「はいっ!」」
頼もしい仲間の声を受け止め、一歩前に出る。
岩山の崖の下を覗くと、丁度いい窪みがある。そこに向かって両手を出し、さぁ、生えといで!
思い描くのは、空の上まで行けそうな大きな大きなジャックっぽい豆の木!その太い幹には螺旋を描くように大きな葉っぱの足場を作る。
あ、でもこれじゃ階段だしダメだ。グリンベルダさんの所に着くまで時間がかかっちゃう。
じゃあ・・・あれだ!あの通信鏡のある塔の上まで登ったエスカレーター!葉っぱが階段状になり、上に向かって螺旋状に動き出す。
う〜ん、危ないから手すりっぽいのも付けとこ。サービス満点だね。
崖を滑るように駆け下りたヘブンの背中から降りたナイトが、こちらを不安そうに見上げたから親指を立ててサムズアップ!
なんか余計不安そうな顔した気がしたけど、恐る恐る乗ったナイトが「うぉぉぉぉ・・・何じゃこりゃ!すげえ!」って笑い出したし、まぁ大丈夫そうだね。
「ワシらも行くぞ!」
「おうよ!」
ノルグさんとタルゴさんも荷車から大きなハンマーと斧を取り出して肩に担ぐと、来た道から岩山を降りて行く。
おぉ・・・ドワーフっぽい・・・。
でも何か親分と弟子みたいだな・・・って、今はそれどころじゃないや!
高級食材ゲットと世界初の飛行士救出、やってやろうじゃないの!




