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緑の手のキトル〜極貧で売りに出されたけど、前世の知識もあるから全然生きていけます〜  作者: 斉藤りた
バラグルン共和国編

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エピソード 56

「・・・ですから、その時わたくしは、創造神アルカスの無慈悲さと、破壊の神モルティヴァの必要性を強く感じたのです。この世に救いがないのならば、すべてを無に帰した後にこそ救いが与えられるのだろうと」


何かブツブツ言ってらぁ。


執事さんの話は、昔立て続けに家族を失い悲しみに打ちひしがれて神様を乗り換えたとかなんとかかんとか・・・。


こっちは薄暗い中、さっきの穴の場所探すのに忙しいってのに。


多分すぐ後ろの壁だったと思うんだけど・・・


手探りで岩の壁をペタペタ。あ、ここら辺かな?


「緑の使徒様はまだお若いのでこの絶望する気持ちはわからないでしょうが、立ち直れることのない神の非道な行いを知ればきっとわたくしの言っている意味が理解出k」


「ねぇ、執事さんはここに閉じ込めて、私を殺すつもりだったの?餓死させようとしてたとか?」


「・・・いえ」


あら?熱く語ってたのにガン無視されてご機嫌ナナメ?


「もちろんわたくしは覚悟の上ですが、使徒様にはお力がありますので・・・そのお力で食べ物を作れば、前々使徒様と同じくこの中で生きていくのに困る事はないでしょう。おそらく数年はこの中で」


「それは良かった!!」


作業中に背後から襲われたんじゃ、集中出来ないからね!


すぐに手を出して、まずは、地面に光るコケ!


あ、ヤベ。蛍光灯レベルにランランと光るコケがモッサモッサと茂り出した!


まぶしっ!違う違う、こう、弱めのLEDくらいの柔らかい光が薄いコケに生えるの!


私の目線位までモリモリと育った激しい光がボンヤリした光になり、段々小さくなると床に張り付いて辺りを照らしながらゆっくり広がり始める。


よしよし。次に〜、四つの動くミニパクパクフラワー命名by私!


前に某ゲームの有名なキモ花作れたから、アレ動くように出来ないかな〜って思ったんだよね。


岩からピョコンと四つ芽が出てすぐに花が咲く。


手の平サイズの小さなあの花が前後左右に噛みつこうと動きながら、さらに根っこがウニョウニョ動いて・・・コレはとても気持ち悪い。


何か違うデザインにすれば良かった。


ミニパクちゃん達は、さっき見つけた穴のあった場所をどんどん掘り?食べ?進めて行く。


お、さっき崩れた衝撃で穴ちょっと広がってるね。


帰る時は楽に行けそう。


後は〜また崩れてこないように、岩の中にツタをを張り巡らせようかな?


「な、な・・・」


執事さんが背後で何か言ってる。


「七??」


「何という常識外れな・・・」


「え、いたいけな子供を洞窟に監禁する方が非常識でしょ」


はんっと鼻で笑うと、横のミニヘブンが見上げてくる。


「キトルさまっ?いたいけって何ですかっ?」


いたいけ、いたいけとは・・・何だろ?


コトバってムズカシイネ。


「し、使徒様の力は緑を産み、食物を作るだけでは・・・?」


「あ、やっぱりそう思ってました?私も最初はそう思ってたんですよね〜。でも実はこれが意外と使い勝手良くってぇ」


喋りながら穴の周囲にツタを貼り付けてこれ以上壊れないようにする。


穴の向こうからは「うわっ!またコイツっ!」ってナイトの声が聞こえてきた。


もうあっちまで着いたのか。ミニパクちゃん達働き者だなぁ。


さて、後は・・・


後ろを振り向き、


ピタ。


私の動きが止まった。


時も、止まったように感じる。


首を動かしてるつもりだけど、スローモーションのようにゆっくりとしか動かせない。


光りゴケが床を埋め尽くして、今いる場所が大きな洞穴のようになってたと気が付いた。


昨日の神殿よりもはるかに広く、その壁はドーム状で高さ三、四メートルはある。


ただ、大きさよりも。その壁に描かれていたのが・・・。


「日本だ・・・」


私の知ってる、日本の、どこにでもあるような、ありふれた風景。


マンションや家が建ち並び、アスファルトの道路には横断歩道とガードレール、信号もあって、車が走ってる。


歩いてる人や、青空を飛ぶ飛行機、遠くに見えるコンビニも、スーパーらしき看板も、全てが本物のように描かれていて・・・。


本当にそこにいるように錯覚するほど精巧な絵が描かれてる。


帰って来れた、そんな感情が胸の底の方から込み上げ、喉の奥がギュッと苦しくなる。


「キトルさま・・・涙が・・・」


気付けば光りゴケに座り込んだ私の頬を、ヘブンが心配そうに肉球で触れる。


あぁ・・・。


別にそれほど前世に未練なんて無いと思ってたんだけどなぁ。


親も死んでるし、友達とも疎遠だし。


家で仕事する以外は特に何をするでもなく生きてたから。


執着する物も、心残りもなかったはずなんだけど。


でも・・・私、あの世界が懐かしくて涙が出るほどには恋しかったんだ・・・。


「これは・・・神の国なのでしょうか・・・?」


周囲を見渡した執事さんが、呆然と呟く。


私が何も答えずにいると、執事さんも諦めたのか何も言わず、そのまま座り込んだ。


きっと前々の使徒様は、日本に帰りたかったんだ。


だからいつでも思い出せるように懐かしい風景を描いて、この部屋で過ごしていたんだろう。


きっと、私のようにここに座り込んで。


「執事さんはさっき・・・」


小さな声だったけど、私が口を開いたのでこちらを向いた気配がする。


「家族が居なくなる絶望はわからないって言いましたよね。でもあなたにも、世界が・・・自分の心以外の全てが、突然無くなってしまう気持ちはわからないでしょう?」


息をのむ音がする。


このくらいの嫌味は言ってもいいよね、神様?


まぁ私はね、こんな性格だからさ。まだいいけど。


ここに居た、とても優しかったであろう使徒様が・・・どんな気持ちでこの部屋を作ったのかを想像すると、また目頭が熱くなる。


悲しくて、切なくて、苦しくて、でも戻れなくて。


前世ではどんな人生を生きて、この世界に来たんだろう。


この人に会えたらよかったのにな。話をしてみたかった。無理な事はわかってるけど・・・。


どのぐらいの時間が経ったのか、どれだけ見ても飽きる事のない景色を眺め続ける。


ふいに、最初より広がった穴を這ってきたナイトが顔を出した。


「キトル様、大丈夫で、うわっ!何だここっ!・・・えっ?!キトル様っ?!えっ?!なんで泣いて・・・お前、キトル様に何しやがった!」


執事さんに剣を向け、わぁわぁと騒ぐナイト。


ナイトが来ていつもの調子が戻ったのか、さっきまで大人しかったヘブンまで「そうですよっ!ナイトさん!やっちゃってください!」なんて言ってる。


プッと吹き出してふと頬を触ると、涙が乾いてる事に気が付いた。


もう・・・ウチの子達は感傷に浸らせてもくれないんだから!


苦笑いしながら、軽くなった気持ちと一緒に立ち上がる。


剣を向けられ斬られそうになってる執事さんを、助けてあげなきゃね。


もう私は、この世界のキトルなんだ。元の世界も懐かしくはあるけど、私は大丈夫。


よし、まだまだやる事はいっぱいあるんだから!元気出していこうじゃないの!

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