エピソード 53
真っ暗アーンドとっても臭い・・・。空気がこもってるからかドヨンとした臭い。
神殿って言うから、豪華絢爛な祭壇的なのとか、ズラ~ッとロウソクが並んでるのとか想像してたんだけど、暗くてぜんぜん見えやしねぇぜ。
扉が開いてるからまだ入り口付近はかろうじて見えるけど、ちょっと進むと足元も見えないから歩くのもおぼつかなくなる。
「おい使徒様、何か明るくなるやつ生やせねえの?」
この声はタルゴさんだな?なんて生意気な言い方じゃい。
さっき門兵に疑われてた時、ボケっと見てるだけだったの知ってるからな?
でも確かにタルゴさんの言う事聞くのはムカつくけど、かといって暗いままじゃ動けないから何か作るか~。と思ったら。
辺りがパァァァとオレンジ色の光で明るくなった。
光の出所は執事さんの両手に二つのボール。なんか光る玉×二個。
「祭事の際、こちらの神殿が開かれる時は信者は皆コレを持って行きますからな。準備しておいて正解でした」
何て準備万端なの!何だろ?懐中電灯的なやつ?
「携光珠かよ。え、それシンルダ工房のフェイライトじゃね?そんなもん持ってきてたのか」
知らない名前が色々出てきたけど、つまりは光る玉ね。
タルゴさん、顔の下から光が当たって若干ホラー。
「しかしこの光量で使うとなるとあまり長時間は使えませんので・・・お早めに用事を済ませてしまいましょう」
最悪、私が光る草でも苔でも生やせば何とかなるけど、一応神聖な場所なんだろうからピカピカ光らせるのは控えたいね。
「あ、ワタクシが火を出しましょうか?」
ってヘブンも言いだしたけど、洞窟の奥で使うと死人が出るからやめましょうね~。
さて、かべ、壁、KABE。
光る玉を一つ受け取り、部屋の中を見渡す。
神殿って言ってたけど、そんなに広くは無いのね。
丸っこい部屋の真ん中に、石の柱がドーンと天井まで突き刺さってるんだ。ドーナツみたいな部屋。
手を上げ、まずはすぐ近くの壁に向ける。
光が当たって、壁の岩肌が暗闇に浮かび上がった。
うわぁ・・・これは・・・。
壁に描かれ、いや、書かれた・・・びっしりの日本語。
こ、これ全部読まなきゃなの・・・?
あ、よく目を凝らすと、所々剥がれ落ちたりかすれて消えてる部分が沢山ある。
は~なるほどね。
読めないし、筆で描かれてるっぽいし、壁に書かれてるから文字の大きさもバラバラで斜めになったりしてるし、ところどころ消えかけてるし、一面にびっしり書かれてるもんだから壁画に見えたんだ。
漢字なんて元々絵から文字になったって言われてたし、薄目で見れば壁画に見えなくもないかな。
「なんか・・・すごいっすね。細かな部分まで描かれてるというか・・・これ、何が描かれてるんですか?」
ナイト、上の方を見上げてるもんだから口が開いちゃってる。
えっと・・・あ、セレナさんの手記にあったお花の形の岩の事や、従者にも教えちゃダメって確かに書いてある。
「緑の使徒しか知ってはいけない内容、かな。ごめんね」
「あっ、そりゃそうっすよね。すんません」
うんうん、そういう素直なところは君の長所だよ。
え~・・・と、目の前の壁にはアルカニア王国での出来事や力を注ぐ岩の場所が書いてあるね。
ん?この使徒様はドワーフだったのか。そういえば王様ズが喧嘩小芝居してる時にそんなこと言ってたな。
ふんふん。
この時のアルカニアの王様はドワーフ嫌いだったけど、植物が生えなくなった土地を癒して国を救った事でドワーフ好きの王様になって、バラグルンとの交流が盛んになったんだ。へぇ~国と国との懸け橋になれて良かった、って書いてある。
文章も柔らかいし、その時々の風景や人々の様子が温かく思い浮かべられるような描写で、どこにも人を貶めるようなことも書いてない。
この使徒様はきっと優しい人だったんだろうなぁ。
セレナさんは・・・恋する陽キャの女子高生って感じだったけど。
下の方まで読み進めると、文字がちょっと歪んでかすれてる。
下の方だし書きにくかったのか。
『最後の・・・に力を与・・・が戻ると、ずっと霧に・・・リッド山が見えるようにな・・・くからある緑の無い道が続いてい・・・向かうことが出来・・・けないようになって・・・かないように伝え・・・シンナ湖・・・の上を渡れ・・・蓮の葉のよう・・・て、中心のハルラ島に大き・・・生えているから、そこに全・・・が咲いてこの大陸・・・穣が約束される・・・ら願いを一つ叶え・・・考えておくといい・・・張ってね。S.Y』
う~む。読めぬ。わからぬ。理解できぬ。
とりあえずメモっとくか。あとで探偵ナイトに推理してもらおう。
アルカニアの部分はメモらなくてもいいかな?充分緑が戻ったはずだし、もうあの国はミッションコンプリートでしょ。
ん~・・・ここの下のとこ、もうちょっとで読めそうなんだけどなぁ・・・。
指でちょっと擦るように触ると、壁の石?岩?がボロっと欠けて落ちた。ヤベッ。
元に戻せないかな・・・と思って、足元を見ると、大きい欠片や粉々になった破片。が、とっても沢山。
んん??これ、いくら何でも崩れすぎじゃない?WHYこんなに崩れてる?
こういう材質なの?千年以上経ってるから崩れて来てるって事?
つま先に当たってた大きな破片を拾って壁に当ててみようとしたその時。
「違う・・・どこにもない!ここじゃないのっ?!」
もう一つの光る玉を持って鳥人間の絵を探してたグリンベルダさんが大声を出したもんだから、慌てて破片を落としそうになった。危な~!
「どうしたんすか?」
私の様子を見て手が離せないと思ったのかナイトが聞きに行く。
「子供の時に見た壁画が、どこにもないんですぅ!」
どこにも?
って言っても、この神殿ホント狭いのよね。
前世で住んでたワンルームの部屋の倍くらい?いや、三倍かな?高さはかなりあるけど、床面積はそんなにない。
「神殿の奥でって言ってませんでしたっけ?」
うん、確かそんなニュアンスの事言ってた気がする。
「えぇ、確かそうだったはず・・・。親に連れられて、創造神アルカスの祝福を受けに来たんですぅ。でもこんな感じの部屋じゃなかった気が・・・絵画を見た時、この柱がある部屋の真ん中に立ってて。こんな壁画じゃなかったですしぃ。でも神殿はここだし、どこの壁にもそんな絵がないしぃ。どうしよう~」
う~ん、どうしようと言われてもどうしよう?
「見間違いか記憶違いなんじゃねぇのか?」
タルゴさんがめんどくさそうに言い捨てる。
「そんな事ありませんっ!あの素晴らしい神の技術を垣間見たから、あたしはこの道を志したんですよっ?!」
「んなこと知るかよ。じゃあ神様がもうやめて俺に嫁げって言ってんじゃねぇの?」
「神の意志に背いても、私はモノづくりを止めませんけどっ?!」
こらこら、喧嘩するんじゃない。
タルゴさんは仲良くなりたいんじゃなかったのか?
「とりあえず私は書き写す作業に戻るので、せっかく来たんだからこの部屋のどこかにないかもう一度探してもら」
チカッチカッ・・・プツン。
あ~あ~ほら、私の方の電気消えちゃったじゃん。
「ほら、使徒様に携光珠渡さねぇと困ってるぞ」
「うぅ・・・申し訳ありません使徒さ」
プツッ。
・・・どっちも消えちゃった。
開いた扉の向こうの明かりだけが部屋に差し込まれてる。
ん~どうするか・・・このまま私が苔かなんか生やして部屋中を光らせてもいいけど・・・。
「グウ~」
ヘブンのお腹が鳴った。
「・・・ここに着くまで結構かかったもんね。今日はこのくらいにして、また明かりを準備して出直そっか!」
「そうっすね。次はキトル様が迷子にならなけりゃもうちょっと時間あると思いますしね」
おい、うちの従者は毎回一言多いぞ。
さ~帰りこそは、迷子にならないように帰ろうじゃないの~。




