エピソード 52
ドンドコドンドコドンドコドンドコドンドコドンドコ
「え~っと、ナイトさんや?」
「へい、何でしょ」
次の日のお昼、目の前には大きな火、ってか大炎上。
王城の中庭みたいな所なんだけど、そこの中央にあるレンガで作られた池みたいなところがゴウゴウ燃え盛ってて、ここに呼び出されるや否や火の目の前の豪華な椅子に座らされた。その横にはナイトが控える。
どこからともなく太鼓の音が聞こえ、ヘブンやノルグさんら一緒にドラム=カズンまで来たメンバーと、ドワーフ王や王妃様もいて、何故か・・・池を囲んで踊ってる。
踊りながら何かもにゃもにゃ言ってるけど、ハッキリ聞こえないのがさらに恐ろしス。
「これは何の儀式なの?私食べられちゃう?」
「え?言ったじゃないっすか、お祝いしてって」
「?!」
コレガオイワイ?!
「せっかくバラグルンにいるんだし、皆さんに協力してもらってドワーフ式のお祝いにしてみました!」
親指立てて超いい笑顔。えぇ・・・百パー善意のやつじゃん。
「炉誕の儀っつって、本当は成人とか節目の祝いの時にやるらしいんすけど、鍛冶の火を模した大きな焚火を囲んで、ヴォルグに感謝を伝えるらしいっす」
あれは呪いをかけられてるんじゃなくてお祝いと感謝の言葉だったのか。
「みんな何て言ってるの?」
「ヴォルグよ、炉を燃やし給え、魂に火を・・・え〜何だっけな」
ナイトが覚えてないって事はヘブンは言えてないな。
「このドンドコ鳴ってるのは・・・?」
「ドワーフがお祝いの時に使う伝統的な打楽器ですね」
「あぁ、ホントに使ってるやつなんだ・・・。あの踊りは?」
「あれは多分踊ってるだけっす」
ああ~言ってた言ってた、お祭り好きって言ってたぁ~。
これどうすりゃいいの?私も踊るか?!踊っちゃうか?!
ピタ。
突然ドンドコ鳴ってた太鼓の音がピタリと止まる。
あれ・・・私は踊っちゃダメだった?
みんなが集まり私の前に膝をつき、ドワーフ王が一人立ち上がって前に出る。
「我らは火を鍛え、鉄に命を吹き込む。緑は育たぬが、心の炉には芽が生える。汝に、この祝葉を贈ろう。今日、ここに炉の民の友として・・・おぬしの火が芽吹いた証じゃ」
そう言いながら、懐から赤い布を取り出す。
ん?これ何?プレゼント??
ドワーフ王がうやうやしく布を開くと、中から薄い金属で作られた葉っぱの飾り。
「これは?」
「神が与えし木に咲く祝葉、と呼ばれるドワーフの伝統工芸品だの。市民が持つ祝葉の素材は様々だが、これはシルヴァで作られておるので、王の賓客としての証明にもなろう。何かあればこれを出すが良いぞう」
シルヴァ?あ、これシルバーか!この銀色で慣れ親しんだ手触りと冷たさ。
へぇ~それは便利!桜餅に巻かれてるような綺麗な形の葉っぱは私の手に収まるくらいのミニサイズでとっても可愛い。
裏返すと、ピンが付いてる。あ、ブローチなんだ。さっそく胸元に付けて、みんなに見せる。
「えへへ、ありがとう!!大事にするね!」
って言ったそばからさぁ・・・
「コレをどうやって手に入れたっ?!」
「これは王族にしか授けられぬ選ばれし白銀だぞ!どこで盗んだ!」
盗人扱いされる神様の使い、爆誕・・・。
ファイアーお誕生会でみんなとお昼ご飯を食べた後、早速ナイトとヘブン、グリンベルダさんと執事さん、何故かタルゴさんも一緒に地下神殿に向かった。
ノルグさんはタルゴさんとの対決でグリンベルダさんのお手伝い役だから、お留守番。
一人用飛行機に使える金属を見つけるために、色々な金属を様々な配合で混ぜて、その固さや重さを試してみるんだって。
タルゴさんは「おいらはモノが出来上がるまで暇だから、ノルグ殿よりも嫁と仲良くなるんだ!」って付いてきた。
変な事しなけりゃ好きにすりゃいいけどさぁ。
しかし、この地下神殿への道のり。
グラントとのトンネルとは比べ物にならないくらい、細いわ分かれ道や横道が多いわ崩れかけてるわで、わざとか?ってくらい入り組んでて・・・
まんまと迷ってしまった。
いや違うのよ?途中でまた執事さんと色々お話しててさ、気付いたらみんないないからヤベッてなって。
執事さんにみんなを探してくるからここで待ってて、って言われて。
しばらく待ってたんだけど動いた方が早いかな~って歩いてったら、元の場所に戻れなくなっただけで。
・・・まぁつまり迷ったんだけど。
こっちかな~って思って進んだら、『進入禁止』って書いてある今にも崩れそうな壁の行き止まりだったり、ぐる~っと回って同じ場所に出たり、あっちこっちウロウロしたり戻ったり。
気付けばちょっと広い場所に出て、広場の奥には大きな扉と門兵が二人。と、なんか変わった装飾品を身に着けたドワーフさんが数人。信者の人?
あ、コレじゃね?って思ってその信者っぽい人に聞いたらまさに目的地の神殿ですって!
さすが私~と入ろうとしたら止められ、緑の使徒だって言ったら疑われ、挙句にブローチ見せたら泥棒扱いされ、剣を向けられてしまう始末・・・。
「人間の国ではどうだか知らんが、この国で窃盗は重罪だぞ!」
人間の国でも重罪だっての。
もう面倒だし、これ締め上げちゃっていい系?
手を出してトゲ多めのツルを生やそうとしたその時。
背後から信者の人たちの悲鳴。
「キトルさまっ!」
狭い通路から広さのある扉の前の広場に出て大きくなったヘブンちゃん、颯爽と登場!
私と門兵の間に滑り込み、大きな牙を見せながら低く唸る。
「我が主、神の使徒たるキトルさまに刃を向けるとは・・・許しませんよ」
っかぁ~!かっこい~いっ!!見たか!うちのヘブンを!!
どうよっ?!うちの子ったら可愛いだけじゃないのよっ!
思いっきり抱きついて、真っ黒モフモフの毛に顔をうずめて深呼吸。むっは~!
「キトル様!」
ヘブンに遅れる事数秒、ナイトが走り込んでくる。
後ろからはドワーフの皆様。
どうどう、とナイトがヘブンを落ち着かせている間に執事さんやグリンベルダさんが門兵に説明中。
それでも目を細くしてこっちを見てるから、神殿の門の根元からスルスルとツタを生やし、よくある観葉植物の葉っぱみたいなのが扉に絡みついた。
葉っぱの飾りがついた扉を見て、門兵が目を見開く。
「これは・・・まさか、本当に?だがこの小娘が・・・」
ホントだっての。そのヘルメットに花咲かせてやろうかしら。
と、執事さんが一人の門兵に近付くと何か耳打ちしてすぐ離れ、
「口を慎みなさい。この方は、王より祝葉を賜った神の使徒様ですぞ」
と広場に響くほどの大きな声を出した。
耳打ちされた門兵も残った一人も、後ろにいたギャラリーの信者も、全員ザっと膝をついて両手をクロスさせて両肩の前に付ける。
・・・あのポーズ、大神官さんもしてたなぁ。
立ち上がった門兵が一歩前に出て目を伏せ、胸にこぶしを当てて深く頭を下げる。
「・・・緑の使徒殿。先ほどの無礼、火にかけてお詫び申し上げます」
かけるなかけるな、そんなもん。
「神意に従い王意に従う。今ここに神殿への扉が開かれよう!御神意に選ばれし緑の使徒殿、ヴォルグの御加護と共に、お進みください」
ん~堅っ苦しい。とりあえず通っていいのね。
ギ・ギ・ギと木のきしむ音と共に扉がゆっくり開かれる。
よぉし、やっと辿り着いた!
セレナさんが言ってた壁画と、グリンベルダさんが言ってた空を飛ぶ人の絵、見せてもらおうじゃないの~!




