エピソード 50
「モルチバ」
「違います、モルティヴァです」
「モルティーバ」
「伸ばさず、ヴァ」
ナイトの発音講座、難しす。
『・・・話を続けて良いか?』
王様が言った事をまとめると、『ルシオ・ドレイク侯爵を引き続き拘束して聞き取りを続けていたが、あまりにも不可解な言動を繰り返すからお屋敷を捜索したところ、緑の使徒様の特徴を記した書類とモルティヴァ信者である証拠が見つかった。おそらく情報が回ってるから気を付けて』という事らしい。
「ルシオさんって誰ですか?」
「キトル様、ドルムンタ元伯爵に毒を差し入れした人ですよ」
ナイトが耳打ちする。
あ~・・・何か居たね、覚えてる、覚えてるよ。
「王様、私そのモルさんって神様知らないんですけど、その信者だとなんでダメなんですか?」
だってドワーフも二つの神様信じてるわけでしょ?
『?!』
王様、お目目もお口もまん丸。
「陛下、失礼します。キトル様はその生い立ち故、神々についてもほぼ無知な状態で・・・つい先ほど創造神アルカスと火と鍛冶の神ヴォルグについてお教えしたばかりなんです」
お、さすがナイト、ナイスフォロー。ナイトフォロー。ナイッフォー!
『そうか、そうであったな・・・モルティヴァ神というのは破壊と再生の神で、しばしば創造神アルカスの対の存在として語られる神だ。この神の信者は創造神の行う世界の創造を邪道とし、破壊された世界こそ再生する価値があると考えておる。つまり、キトル様の行う緑を生み世界を癒す行為は間違いだと主張しておるのだ』
へぇ~まぁ神様が色々いるならそういう考えもあるわな。
『ただ破壊の神とは言えど退廃的な考えではなかったはず。それに神の使徒たるキトル様にはどうやっても敵わぬのでな。おそらく直接危害を加える事はないだろうが、それでも何かしらの干渉はあるだろう。・・・しかし、我が国にモルティヴァ信者はほぼ居ないのだが、まさか貴族に居たとは』
「ワシの国には結構おるのぅ。モルティヴァは年月をかけた破壊と再生を教義の主とするんじゃ。寿命の短い人間には向いとらんのだろう」
ずっと黙ってた長髭ドワーフ王が口を開いた。
『ドワーフの王よ、鋼の盟友たる貴王に対し、火打石の礼も交わさぬまま言葉を進めてしまった非礼、深く詫び申し上げる』
あらま、王様ってば王様っぽい!
「よいよい、ここにはワシらしかおらぬ。堅苦しいのは無しだぞう」
『そう言ってもらえると助かる。こっちも貴族連中がおると面倒でのう・・・お、そうだ!先ほど話してたこちらがキトル様の兄君でな!この子がまたとても良い子でなぁ!』
ズイ~っと前に押し出されたブラン、ビックリしてる。
レオンおじいちゃんだけじゃなく王様にまで気に入られてたのね。うちのブランはとってもイイコだからね~。わかる、わかるよ。
「ねぇ王様、そのルシオッサンがモルガミサマの信者だったとしても、私の情報持ってただけなんですよね?じゃあ何かする前だった可能性とか、そもそも別に何もするつもりもなかった可能性もあるんじゃないんですか?」
「ルシオッサン・・・!」
ナイトが後ろで声を殺して笑ってる。何がツボに入ったの?
『うむ、これは尋問官の推測だが・・・おそらく緑の使徒様の噂を聞いたルシオ侯爵は、噂の出所の近くのドルムンタ元伯爵にキトル様が現れたら足止めをするようそそのかしていたのでは、と。だが結局ドルムンタ元伯爵が、その、あのような短絡的な考えだったので失敗に終わったのではないか、と言っておった』
ほ~う?あのキモおじキモキモ事件にそんな裏事情が?
ま、もう終わった事だしどっちでもいいけど。
『それに、モルティヴァ神の信者は千年に一度の世界が枯渇する時こそ、それを受け入れる事で再生が待っている、神に一番近づける時だと考えておる。これを邪魔するキトル様をそのままにするとは思えぬのだ」
「ん~と、じゃあとにかく、誰かが私の邪魔してきたらやり返したらいいんですね!」
『・・・まぁ、簡単に言うとそういう事になるのぅ・・・』
シンプル・イズ・ザ・ベスト!
『キトル?陛下が心配してくれてるんだから、ちゃんと気を付けなきゃダメだよ?僕も、みんなも心配してるんだからね?』
「はぁ~い。兄さんが出てくるのはズルいなぁ〜」
「ブランさん!もっと言ってやってください!!」
ナイトうるさい。
「あ、そういえば兄さん、前にレオンおじいちゃんの所から学校に通うかもって言ってたの、どうなったの?」
『あっ!そうそう、僕も、第二王子殿下とパール様と同じ学校に通えるようになったんだよ!って言ってもまだ学力もマナーもないから、家庭教師の先生に合格をもらったら、なんだけどねっ!』
う~ん、青春。ニコニコブランが鏡越しでも眩しいったらもう。
「のう、そろそろいいかの?アルカニアの王よ」
長髭ドワーフ王様・・・カッコ悪いしドワーフ王でいいか。
ドワーフ王が話を割って入ってきた。
「これまでは緑の使徒様が現れていなかったから追及はせなんだが、もう良いであろう。先代の使徒様から遺されたものとは何なんだぞう?」
遺されたもの?
『それは以前からお伝えしていた通り・・・使徒様にしか読めぬ書物、それのみである』
「そんなはずがないぞう!今代の使徒様の知識や発想・・・先代の使徒様からの書物に書かれていただけでは説明しがたいものだ!何か、神の遺物そのものがあるはずだぞう!それを、形に出来るのは我がドワーフのみであろう!」
ん~?なぜ私の目の間で私の話をする?
んで、私の知識や発想って何の事だ?
「多分、ノルグさんたちに話してた金属の話っすね」
ナイトがこそっと教えてくれた。あ~、ノルグさん定期的に機械鳥で報告してたし、それか。
『それを言うならば偉業を成し遂げた最後の使徒様はそちらの民であろう!自国を隅々まで探してみられてはいかがかっ?!』
おっさんたちが鏡越しにケンカし始めたぞ?どうしたどうした。
「我が国に使徒様が顕現されてからもう千年は越えとる!残っとるもんなんぞあの壁画だけだぞう!」
あ~あ~。鏡の向こうでブランもアワアワしてる。
・・・離れてても出来るかな?見えてるから出来るか?やってみるか。
一歩下がって鏡を挟んでヒートアップしてるおっさん二人に向けて手を出すと、両方の鏡の前に黄色い小さな花が咲いた。
『「ん?」』
お、出来た。
『「はっくしゅん!」』
名付けてくしゃみ花!ブランや私たちに被害が無いよう、黄色はオジサンにしか反応しないよっ!
「本人の目の前で、何の話をしてるんですか」
『はっくしゅ!いや、使徒様は、話せない事が多いと・・・っくしゅ!』
「ふ・・・ふえっ・・・緑の使徒様の、ぶぇっくしゅん!機嫌を損ねるのは、国の損失になりかねぬので・・・は、は、ぶぇっくしゅ!」
「ここに居るのに話してりゃ一緒でしょうが。無視されてる方が気分悪いわ」
『じがじ、じとざまにはばなぜないごとがりゃがおおいど・・・』
鼻声で何言ってるのかわかんないや。お花やめたげるか。
『ズビ~ッ!・・・ふう・・・。いえ、使徒様には神からの使命を帯びているからこそ話せない事柄が多い、と伝え聞いているのだが。祖母も祖父には秘めている事が多かったと晩年嘆いていたそうで・・・』
「ぼぇっくしょ~い!!・・・そうだぞう、使徒様に神の知識を直接問うのは禁忌なんだぞう。それで街が一つ壊滅したという話も残っておる」
「いや、それなら私がいなくなってから話してくださいよ」
席を外して~とか言ってくれりゃ外で待ってるのに。
「この鏡も普段は使わんし、王同士で直接話す機会などほぼないから良い機会だと思ったんだぞう・・・」
『キトル様なら、何かポロっと言ってくれるんじゃないかと、思いましたっ!』
「あっ!喋りすぎだぞう!内緒だと言ったのはお主だろ!」
・・・おい、王様ズ?
どういうことなのか、詳しく話してもらおうじゃないの?




