エピソード 48
「お待ち申しておりました、神の使い、緑の使徒様」
王城の中に入ると重そうな鎧を着たドワーフの人にうやうやしく出迎えられ、促されるがままその後ろをゾロゾロ付いて行く。
王城の中も何というか、壁や柱に掘られた装飾はすごく細かくて立派だけど派手な感じじゃなく、岩山の中の王城の雰囲気に似合っていてとても素敵。
これまた何だか複雑なデザインが施された大きな扉の前で立ち止まると、案内してくれたドワーフさんが大声を上げる。
「ヴォルグの炉よ聞け!神の使いが扉の前に立った!今こそ鉄の門を開ける時だ!」
・・・何のこっちゃ。ドワーフってこういう言い回しが好きなのねぇ。んでこの扉鉄じゃなくない?
隣にいたナイトに小声で話しかける。
「ヴォルグって何?」
「え?ヴォルグはドワーフの神で・・・キトル様、もしかして神話とかも知らないんすか?」
え、何?常識なの?
「知ってるわけないじゃん。ドワーフの神って何?神様って何人もいるの?」
ごごごご・・・と重苦しい音と共に扉がゆっくりと開く。あれ?コレもしやホントに鉄製?
「えっと、ああもう・・・後で詳しく教えるんで、今はとりあえず黙ってください」
何おう?従者の癖に黙れとは生意気な~!ナイトにベ~っと舌を出して、前を向く。
扉の向こうは・・・アレだ!アルカニアの王城にもあった謁見の間だね!
前回の謁見の間と違うのは、あっちは良く映画とかで見るヨーロッパっぽい感じだったのに対し、こっちはドワーフっぽさ満載。
天井や壁に本物の岩っぽいものが使われてるし、窓がなく明かりは壁が青白くかすかに光っているのと、岩に埋め込まれた大きなランプだけ。
あと玉座までの左右の壁に沿って大きな柱とドワーフの石像が並んでる。誰だろ?歴代の王様とか神様とかそんなのかな?
その柱と石像の前には、二十人ほどの良さげな服を着た年配っぽいドワーフの人たちが並び、こちらを値踏みするような視線を投げてきている。
貴族の人?何か嫌な感じぃ。
先頭のノルグさんについて進むと、正面の階段の上にある大きくて黒い椅子に座った長~い三つ編み髭のドワーフさんの顔が見えてきた。
ドワーフの人の顔の違いなんてよくわからないけど、何となくノルグさんに似てる気がするし、あの人が王様かな?
そのちょっと斜め後ろには、ドレスを着た髪の長いドワーフ女性。あそこにいるって事は王妃様?
おもむろに長髭王様が立ち上がり両手を上げる。と、同時に左右のドワーフさん達が一斉に片膝をつき下を向いた。ん?後ろにいたみんなも、私以外は同じ姿勢になってる。
「緑の使徒よ、ヴォルグの火はすでにその歩みを知っていた。我らは汝を迎える用意がある」
「あ、へ、へぇい」
・・・何かすごい気の抜けた返事しちゃった。
何?なんて答えるのが正解なわけ?
あっ!ナイトめっちゃ震えてるし!ってかみんなプルプルして笑いこらえてる!ムキ~ッ!
長髭王様はちょっと眉をひそめて、また言い直す。
「んんっ・・・言葉は問わぬ。立ち姿こそが意志を示す。緑の使徒よ、汝の歩みはヴォルグの書に記された刻の一節。よってここに、炉の民の盟友として迎え入れようぞ」
「はぁ、それはそれはどうもご丁寧に」
・・・いや知らないってば。決まったセリフとかあるなら先に教えといてよ~。
あ~あ、ナイトなんて我慢しすぎて顔真っ赤じゃん。
わかんないもんはわかんないんだし、もういいや。
「すいません、ドワーフの文化は詳しくないんで・・・普通に話してもいいですか?」
長髭王様、小さくうなずくと片手を上げた。
「許す。汝の言葉を縛るべきは礼ではなく、真であろう。この者が語るとき、民は耳を伏せ、口を慎むべし」
そこまで言うと、私たちの頭上を飛び越え、左右に並んだドワーフたちに向かって手を振る。
「ここより先は、王と使徒の言葉の場。炉に仕える者たちよ、下がりてよい」
貴族っぽい人たちがざわめき不満げな表情をしながらも、シブシブ、といった感じで広間から出て行く。
あれ、多分関西人なら「しゃーなしやでぇ!」とか言ってるやつだな~とかどうでもいい事考えてると、階段の下、私たちの目の前まで長髭王様が下りてきた。
目の前の床に、ドッカと胡坐をかいて座り、大きなため息を吐く。
「ふ~~~~ぅ・・・。もう普通に話していいぞう。あいつらがおると、格式だなんだのとうるさくて敵わんのだ。ノルグも!久しぶりだぞう!」
あ~これは間違いなくノルグさんのお兄さんだね。兄になると語尾が『ぞう』になるのか。オモロ。
階段の上から王妃様?も下りてくる。
「使徒様が早めに切り出してくれて助かりましたわね。下がらせないとお話など出来ませんもの」
といって王様の横にストンと座った。
綺麗なドレスでも床にためらいなく座る王妃様・・・好きっ!
「さて使徒殿、我が弟やその後ろの者共と、何だか楽しい事になっとるようだのう!」
キラッキラの目で語りかけられてるけど・・・王様楽しんでるね?
「ダメですよ、真剣なんですから。もう事情は聞いてるんですよね?」
うむ、と深くうなずくから長いお髭も一緒に揺れてる。
「じゃあいくつかお願いがあって・・・。一つは、ここに居るグリンベルダさんと、地下通路の奥の神殿にある壁画を拝見させてください」
これは前の前の使徒様の残したメッセージを見るのと、そこからグリンベルダさんの一人用飛行機のヒントが欲しいから。
「んむ。それは先代からも聞いておるぞう。使徒様にだけ読める文字なのだとか・・・その者を連れて行くのも別に構わんだろう」
ま、読めないんだしそりゃそうか。
「二つ目は、ノルグさんに鍛冶場を貸してください。二人の決闘の為に、必要な事なので」
新しい金属を作るのに、その辺の道端でやる訳にもいかないからね。
「んむ。王城にも王族専用の鍛冶場があるからの。そこを優先して使えるよう手配しよう」
ん?じゃあお願いしなくても使えたのか?まぁいいか。
「三つめは王妃様にお願いなのですが・・・結婚して子供がいるドワーフ女性に、アンケートを取ってほしいんです」
「あんけえ?とは何ですの?」
アンケートはやっぱりわかんないか~。
「あ~・・・えっと、いくつか質問があるので、それを対象の人に聞いた結果が欲しいんです」
「それは何のために?」
王妃様がズイ、と前に出る。
「ここに来るまでに、色々お話を伺いまして・・・ドワーフの女性は、あんまり自分で結婚相手を選べないんでしょう?」
「そうだぞう。これは男ばかり生まれるドワーフにとって、非常に重大な役目があるからそのような形になっとるのだぞう」
うんうん、と髭・・・じゃなく頭を上下に振る王様。
「ですが、ごくまれに女性ばかりが生まれる家庭もあるんだとか」
「そうですわね。最近ですと、王都に三人、近くの街に五人ほど」
おぉ~さすが。執事さんに聞いてたんだよね。女性が少ないから、王都周辺の女性の情報は全部王妃さまが仕切ってるって。
「質問は後でお伝えしますが、それを子持ちの女性に聞いてほしいんです。・・・もしかしたら、女性が生まれる条件があるのかもしれないと思って」
ヒュッと息をのむ音がして、王妃様と王様の目が見開かれる。
「もしかしたら無駄足かもしれないけど、協力してもらえませんか?ドワーフは女性が少ないのが当たり前、みたいなのに違和感があるんです」
王様たちが顔を見合わせる。
「・・・もちろんですわ!ドワーフの未来が変わる可能性が少しでもあるのなら、どんな協力でも致します!子持ちの女性に質問をするんですのね。他には何かありますの?!」
「え、えっと、わかる範囲でいいんですけど、出生率・・・え~っと、ずっと昔から男性ばかりだったのか、男女比が変わるタイミングがあったのか調べたいんですけど」
「わかりました!使徒様が地下神殿に赴かれている間に全ての資料を調べますわ!」
王妃様、超前のめり。
「おぬし、なんでそんなにやる気なんだぞぅ・・・?」
「わたくし、こういう調べもの大好きですのっ!女性の出生管理もどうしてもやりたくて記録官を説得しましたのよ?」
うふふ、と上品に笑う王妃様。
あ~、もし王妃様が前世の世界に生まれてたら、有能な秘書とかになってそう。
・・・何だか左後ろのナイトから「俺聞いてないんですけど?」みたいな視線をビシバシ感じるけど、たまにはいいじゃないの~?