エピソード 47
「酒は飲んでも飲まれるな!はい!」
「「「酒は飲んでも飲まれるな!」」」
「美味しく楽しくほどほどに!はい!」
「「「美味しく楽しくほどほどに!」」」
馬車の前で正座する大人の皆様+お座りしたヘブン。
その前で私は馬車の荷台に立ち、飲み過ぎ注意の標語を復唱させる。
あの後地面に転がったまま寝こけたみんなに薄手の布団をかけて回り、貴重品類を荷物の奥底に隠し、ラグサールにカラコム・ベリーをあげ、二日酔い改善効果のあるレモン水の実の成る木を生やし、一人シラフのまま馬車で眠った私。
もっと褒めてくれてもいいと思うなぁ〜。
「いや〜キトル様の作るお酒が美味すぎるんすよ〜」
お説教タイムが終わり、いつもより小声の二日酔いナイト。
「そうですねっ!ワタクシ初めて飲みましたが、あんなに楽しいものだとは!」
ん?ヘブンは飲ませてよかったのか?・・・まぁ平気そうだしいいか。
ドワーフの皆さんは、流石お酒好きなだけあって全然平気そう。
各々準備や宴会の片付けなどをしている中、ノルグさんは魔法鳥を手に持って何かしてる。
「誰かに飛ばすんですか?」
「ふん?こっちのは王様にで、こっちのはグラントにいるワシの代理にだぞい」
あれ?この魔法鳥、モルドさんのお店で見た機械のやつだ!
「これ、声を届けてくれるやつですよね?!」
「ふん?機械鳥を知っとるのか?これは声じゃなく普通に手紙を届けるやつだぞい。声のやつは昔作ったんだが、音量の調節が難しくてなぁ。そのうち改良版を作ろうと思ってそのままだのう・・・」
と、喋りながらグリンベルダさんに呼ばれて歩いて行ってしまった。
ん?あの言い方だと、声の機械鳥はノルグさんが作ったって聞こえるんだけど・・・。
「機械鳥は、ノルグ様が作られた発明品の一つなのですよ」
突然声が聞こえて飛び上がると、真後ろに執事さん。ビックリしたぁ。この人忍びかなんかなの?
「ノルグ様は街主になられる前、それはそれは多くの便利な品々を開発され、人々の豊かな暮らしに貢献されました。その功績が認められ街主となり、今もお忙しい業務の傍ら、様々な開発に励まれているのですよ」
へぇ~のんびりした喋り方なのに、意外とすごい人なのね。
「あ~だからグリンベルダさんに一緒に新しい金属を作ろうって言ってたんだ」
「あぁ、やはり・・・。戻ってこられてからイキイキとされてたのが気になっていましたが、また何か新しく始められるおつもりなのですね。この広場の維持管理についてもこれからですのに・・・」
「この広場?ここは前からあったんでしょ?」
元々休憩スペースだったところよね?
「えぇ。ですが今回、使徒様のお力で非常に素晴らしい酒の生る木を作っていただきましたので・・・距離的にグラントに近いこともありますし、我が街の管轄として今後は人が大勢訪れる名所になる事でしょう」
えぇ?!そんな事になるの?!
「先ほどの機械鳥での知らせはおそらくその事についてですな。ドラム=カズンから監理官を派遣してもらい、我が街からは街主代理が赴くよう手配されたのでしょう。見た事もない様々な種類の酒を一か所で楽しめるなど、ドワーフにとっては夢のような場所ですから。おそらく国内有数の観光名所になる事でしょう!」
執事さんの目がキラッキラしてる。
うわぁ。ドワーフの酒好きなめてたなぁ。今度からお酒の木はあんまり作らないようにしよう・・・。
その後も数日間、なんやかんやと騒いだり話したり、途中ドワーフの気になってたお話も聞けて、ドラム=カズンに着くのが楽しみになってきた頃、トンネルの出口が見えてきた。
「久しぶりのシャバだぜぇ・・・!」
「・・・何すか、それ」
ナイトがドン引きした目でこっちを見てる。
うるさいな、言いたかっただけだから気にしないでよ。
馬車の一番前、馭者の席に座って出口を抜ける時をワクワクして待つ。
そして、トンネルを出ると、見事な・・・!
ヒ・ザ・シ!!日差しッ!!HIZASHI!!
目が!目がぁぁぁ!!
空の上から人をゴミのように見下す人のごとく目を手で覆う。
「まぶしいぃぃぃぃぃぃ!!」
「おぉ、忘れてたぞい、ほれ」
手に当たる何かをワサワサ触ると、ん~?これ、眼鏡?
かけてそ~っと目を開けると、視界が薄暗い・・・あ!これサングラスだ!
「これはこの棒の部分を耳に・・・おぉ、使い方わかるんかい。これは前の使徒様がこの道を通った後に開発させた『さんぐらす』という品らしくての。この時だけしか使わんが、便利なんだぞい」
あ~・・・セレナさんも同じ目にあったのね・・・。
やっとしっかり目を開け周りを見渡す。
う~わぁ~!!
「すご~い!!」
「久しぶりに来たけど、壮観っすよね」
あ、ナイトもサングラス姿だ。イケメンだし似合うね~。
ヘブンは・・・平気そう。魔獣だから?
馬車の先頭から身を乗り出して周りを見渡す。
切り立った黒鉄色の崖を背に、鉄骨で組まれた高架橋がいくつも頭上を横切り、色んな所から煙が上がっている。ここ、岩山を削って築かれた都市なんだ・・・。
街全体から聞こえる鍛冶の音や歯車の音が街全体に金属的なリズムを刻み、炭と油と金属の匂いが、空気に混ざって鼻をつく。
「ワタクシは初めて来ましたが、この匂い、嫌いじゃないですねぇ」
ヘブンが鼻をヒクヒクさせている。
「これは・・・アレだ!スチームパンクだ!絵本の中にいるみたい!!かぁっこい~い!!」
「すちーむぱんく・・・?なんかカッコいい響きっすね」
お?ナイト君、わかってるじゃないの~。
街の路地裏では鍛冶師達が火花を飛ばし、表の通りでは厚い革エプロンに身を包んだドワーフが手に何かの機械を持ち、それについて大声で議論している。
錆びた鉄骨の向こうには、岩そのもののような王城が見える。ああいうの何て言うんだろ、威風堂々?とした佇まい。
馬車が通る道は岩っぽいけど綺麗に舗装されていて、ザルクも生えてこない。
ん?そういえば地下道の中でも生えてこなかった気が・・・。またすぐ後ろにいた執事さんに聞いてみる。
「よくお気づきになられましたね。地下道の中もこの道と同じく微細な石粉や精錬の過程で出る鉄粉に特殊な鉱物灰など、それらを灰混鋼岩舗装と呼ばれるドワーフの特殊な技術で淡く光るように加工しております。溶接したように継ぎ目のない舗装が自慢で、天然岩盤の上を歩いているような印象になっているのですよ」
・・・ほほ~う?なんかすごい道路って事ね!わかるわかる。
つまり加工されてるからザルクも生えないのね。
やがて馬車は街の中心部っぽい大きな広場に出た。
目の前には、明らかに他とは違う建物、王城がそびえている。
遠くから見た時は大きな岩に見えたけど、近くで見ると尖がった塔の部分には金属細工が施され、それらがいくつも空に向かって伸びている。そして王城を守るように、手前には五階建てのビルくらいの高さの大門が立ちはだかる。
この門の装飾もすごいな~。昔美術だか社会だかで習ったんだけどなぁ~。ん~ナントカ調建築・・・思い出せない。
門の前に着くと、執事さんとノルグさんが門兵に声をかけ、門兵の合図で門の横から蒸気の煙が吹き上がった。
ごごごご・・・という重低音と共に門がゆっくり開く。
まさに技術の国、ドワーフの国だね!!く~ったまんないねぇ~!
さぁ、ドワーフの王様と、使徒様の残した壁画に会いに行こうじゃないの!




