エピソード 46
う〜む、これは考えもんだな・・・。
地面に寝転ぶみんなを見ながら、何とも言えない気持ちになる。
その、ニ時間ちょい前。
トンネルの中には休憩や野宿をするために、道の横に穴というか、広いスペースが取ってある。
そこで一旦馬車を止めて休憩するみんなの為に、何か植物を作ってあげようと思ったのだが。だがだがぁ・・・
「どうしたんすか?腹痛いんすか?」
思案してたら、荷物を整理してたナイトが話しかけてきた。
ヘブンはラグサールと並んで歩いてたから、一緒にカラコム・ベリーの実をもらって食べている。
「なんで腕組んでるのにお腹痛くなるのよ・・・いやね、まだ道のりが長いなら何かみんなが喜ぶ物を作りたいな〜と思ったんだけど」
「けど?」
「何を作ればいいのかなぁ?って。ドワーフって、食べちゃダメなのとか好物とかってあるのかな?」
「いやいや、ドワーフっつったら酒でしょ、酒!」
「その通りでございますな。ドワーフは酒があれば生きていける、と言われるほどの酒好きですので」
執事さんがキトルの今日は何作ろう?グループに参加しました。
「そういえばあんまり植物が育たないはずですけど、食糧とかは大丈夫なんですか?」
アルカニアみたいに、急いで野菜とか作って回らなくていいのかな?
「ドワーフはヒトと比べて長寿な分、多少食べなくてもすぐに衰弱はしないのですよ。なので、厳しくはありますがまだ餓死するような段階ではないですね。それよりもザルクが育たない事で、鋼鉄が取れないのと酒が作れない方が大きな問題ですな」
やっぱりお酒かい。
「う〜んお酒かぁ・・・作るなら、お酒の実を付ける木かなぁ・・・」
「え、キトル様なら作れそうっすけど」
「うん、多分作れるんだけどさぁ。私ってば子供じゃん?お酒って作っていいのかな~と思って・・・」
「飲まなけりゃいいんじゃないっすか?」
「そうですな、この国でも十を超えないと酒は禁止されておりますし。では、酒精のある物と無い物、二つ作られてみては?」
な〜るほど。一種類につき木を二本作って、一つはノンアルにするって事か。
「いいね!じゃあそうしようかな。ね、執事さん、ドワーフって、どんなお酒が好きなんですか?甘いのとか、辛口とか」
「強いのです」
「つ、強いの?」
「とにかく酒精が強く、喉が焼けるような物を好みますね」
・・・それのノンアルってどんなの??
喉が焼けるソフトドリンクって猛毒じゃね?
「・・・まぁいいや。とりあえず色々作ってみよ」
お酒と言ったら前世の記憶がある身としては、やっぱとりあえずビールよね。
炭酸の液体が入った木の実なんて作れるのかな。
ん〜・・・ビール、ビール、キンッキンのグラスに入った冷たいビール・・・あ〜飲みたい。
ニョキニョキッ。
休憩スペースの端っこ、トンネルの壁のすぐそばに、私より少し高いくらいの木が生えた。
木に沢山成ってるのは黄色の楕円形をした・・・これ、ジョッキじゃね?何か持ち手っぽいトコまであるじゃん。
一つ枝からもぎってみる・・・うん、冷たいよね〜。知ってた。
「ナイト、上の部分、この辺を切り落として飲んでみて」
ナイトが木の実の上部分を剣で切り落とし、完全なビールジョッキが出来上がる。
ためらいもなくナイトが口を付け、飲んで、飲んで・・・飲み干しちゃった。
「・・・っぷはぁ!何っすかこれ?!うっま!!」
あら、ナイトはイケる口?
イケメンだしいい飲みっぷりだし、なんかCMみたい。
執事さんが慌てたように一つ木の実を取り、同じように上を素早く切り落とすと、同じく一気に飲み干した。
「これは・・・!酒精こそ弱めなものの、この喉越しと香り、冷たさが見事な調和で・・・!」
はっ!執事さんのグレーの三つ編み髭にビールの泡髭が。
離れた場所から様子を見ていたノルグさん、グリンベルダさん、タルゴさんも、執事さんに用意してもらい、三者三様に驚いている。
「うめぇ!こんなの初めて飲んだぞい!」
「まぁ・・・とても飲みやすいんですねぇ」
「緑の使徒様ってのは酒まで造れるんか・・・すげぇな」
んで、やっぱり皆んな泡髭作ってるし。
「ワタクシ、これはイマイチですねぇ・・・」
どうやって飲んだのか、前脚でジョッキを挟んだヘブンがうぇ〜っと舌を出した。
私もビールの木の横に作ったノンアルビールの木の実を一つ取って飲んでみる。
この味は・・・すぅぱぁどぅるぁぁ・・・アレだ、懐かしのあの味だな。ノンアルだけど。
でもどうやって冷えてるのかな〜不思議ぃ。
よし、ビールが苦手なヘブン君には、甘めのやつを作ってあげよう。
甘めと言えば、やっぱメジャーなのは梅酒かな?
梅の木じゃないのに梅酒が出来る木って摩訶不思議だけど、魔法がある時点で前世の常識なんて通用しないよね〜。
ノンアルビールの木の横に、同じ背丈の梅酒の木。葉っぱとかは梅の木っぽいな。
こっちの木の実はコロンと丸っこくて可愛らしいね。一つヘブンにあげてみる。
ペロリと一口舐めて、ぱぁぁぁっ!って、とっても分かりやすいお顔。か~わい~い。
「こっちのはっ!大っ好きな味ですっ!」
「あたしもこの味、とても好きですぅ〜」
気が付いたらグリンベルダさんも梅酒飲んでる!早〜っ。
「おい、使徒様!もっと強ぇのは無いのか?!」
「ワシも!ワシももっと強いのが飲みたいぞい!」
ノルグさんとタルゴさん、もう何個もビールの実を空っぽにしてる。この二人、実は気が合うのでは?
「ん〜強いの、強いの・・・やっぱりウイスキーかな?」
生えてきたのは、先が尖ってないギザギザの葉っぱで幹が太い木に、ジョッキより浅めの実。
同じように上部を切り取って飲んだ二人、全く同じ「!!」って顔をする。
ふふ〜ん、美味しかろう!
前世のニュースで、国産ウイスキーがオークションで何千万!って見たから、それイメージしたんだよね。飲んだ事ないけど。
「それ、氷入れて飲むと美味しいらしいですよぉ〜?」
「!!おい、誰か氷の魔道具を持ってないか?!」
ノルグさんが大声出すもんだから、荷馬車の商人っぽい人や歩いてる人達も立ち止まり寄ってきた。
「ほほう!この方が緑の使徒様!」
「こんな幸運に巡り合えるとは・・・せっかくです!ご相伴に預かりましょう!」
と、いつの間にか人数がどんどん増えて、大宴会が開催される。
えっほえっほとお酒の木を生やす働き者のワタシ。
なんか居酒屋のバイトみたいじゃね?
休憩スペースの広い壁を、お酒とノンアルの木でいっぱいにして、やっと一息・・・。
「久しぶりの酒ですな!」
「最近はザルクが取れないから・・・」
って会話がアチラコチラから聞こえてくる。
やっぱり、この国に必要なのはザルクなんだねぇ。
と、ノンアルのレモン酎ハイをチビチビ飲みながら考える。
でも、食糧やザルクがどうにかなっても、女の子が少ないってのは問題じゃないのかな・・・。
グリンベルダさんが好きな仕事を続けられたとしても、同じような境遇の女の子はまた生まれるはず。
人様の国の事だし、私が口出したり考える事じゃないんだけど。でもやっぱり気になるよねぇ。
「キトル様!これ、上の部分も食えますよ!ツマミになるしサイコーっす!」
顔を真っ赤にしたナイトが、切り落としたお酒の実の上部分をかじってる。
君は私の従者で護衛で騎士ではなかったのか・・・?
ワッハッハじゃないよ、楽しそうだなぁオイ。
で、結局二時間近く宴会は続き、休憩どころかそのままみんなイビキかいて寝てしまった。
・・・お酒好きなら、酒は飲んでも飲まれるな、じゃないのぉっ?!




