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緑の手のキトル〜極貧で売りに出されたけど、前世の知識もあるから全然生きていけます〜  作者: 斉藤りた
バラグルン共和国編

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エピソード 45

「いやぁ、キトル様の演説、めっちゃ良かったと思いますよ?」


「ワタクシもとても感動しましたよっ!平和で、皆が納得出来るような対決方法を思い付くなんて、さすがキトルさまですっ!」


・・・あんなに張り切って演説したのが段々恥ずかしくなって凹んでたら、ナイトとヘブンがフォローしてくれよるとです・・・

キトルです・・・。


私達一行は、大きな大きな地下道の中を進んでいる。


地下道のサイズは、大体四車線のトンネルくらい?縦にも横にもかなり大きい。


その中を、人や荷車が行き来している。


「ドワーフは祭り好きですからね。盛り上がれば何でも良いのです。ですが、流石は女性の使徒様。グリンベルダ殿の気持ちを汲んだ対決方法、素晴らしいと思いますよ」


優しいフォローをしてくれるのは白髪三つ編み髭の使用人さん、じゃなくて執事さん。名前はカルデンさん、と言うらしい。


覚えられる自信がないから執事さんって呼ぶけどね!


大人数になったし、ドラム=カズンまで付いてきて諸々の雑務をこなしてくれるんだって。


「いいんですよぅ〜だ。別に自分がしたいからしたたけだも〜んだ!」


ぶーたれてたら、執事さんが微笑んでる。


「今代の使徒様は、可愛らしい方なのですね。先代の使徒様もお美しい方でしたが」


んんっ?!


「「前の使徒様を知ってるんですかっ?!」」


前のめりになる私とヘブン。


「知っている、と言うより見た事がある、という程度ですね。使徒様の偉業を讃える式典でご尊顔を拝見しただけで・・・ノルグ様にお仕えする前はドラム=カズンの王城に勤めておりましたので」


そっかぁ。ドワーフは寿命が長いから、100年以上前から生きてる人がまだいるんだねぇ。


「私もいい歳ですしね・・・ですが、その分知っている事も多いですし、何か聞きたい事などありましたら道中お気軽にお聞きくださいね」


はへ〜、ありがたい。ドワーフ文化なんて全然知らないしね。


「はいっ!」


早速質問を思い付いて手を挙げる優等生のキトルさん。


「何でしょう?」


「先生っ!あのデカい爬虫類さん達は、トカゲですかっ?!」


私が指差したのは、馬車を引いてくれてる巨大なトカゲさん三匹。


「ラグサールの事ですね。ええ、大型のトカゲ家畜で、分厚い皮膚は熱に強く、脚が平たいので砂に沈みにくいのが特徴です。まぁ今は岩場が多いのであまり意味はないのですが。頑固な性格で機嫌を損ねると動かなくなるので、飼い主は好物のカラコム・ベリーの実を持ち歩かないといけないのですよ」


「カラコム・ベリー?」


果物かな?


「こちらですな」


荷物の中から麻袋を持ち上げ、中からさくらんぼ大のツヤツヤ真っ赤な実を手の平に取り出した。美味しそう!


「ヒトが食べても?」


「ええ、毒などはありませんよ。ただ・・・」


パクっ。


あ、言い終わる前に口に入れちゃった。


・・・すっ・・・!!!


「っぱぁ〜!!酸っぱ!!酸っぱい!!」


「・・・とても酸味が強ぅございます・・・」


執事さん、表情こそ固く保ってるけど、プルプルしてて笑いを堪えてる。


ナイトは指差して大爆笑してるし。今度寝てる時に口の中に入れてやる。


ヘブンはパクパク食べて「ワタクシは平気ですねぇ」とか言ってる。


すごいなヘブン。


「このままだと食べにくいのですが、非常に栄養価が高く砂漠でも栽培しやすいので、砂糖で煮たり料理に使ったりと重宝される果物なのですよ」


ほぇ〜。


砂糖煮なら食べてみたいな。


「静かにしてくれねぇか」


タルゴさんが馬車の端に座ってこっちを睨んでる。


「オイラのラグサールも貸してやってるんだ、あいつは騒がれるのが嫌いだから疲れっちまう。嫁を連れて帰る時にも走ってもらわにゃいけねえんでな」


この人、もう勝った気でいるのか。


「しかし、使徒様よ。こんな勝負で良かったのかい?何を作ったところで俺が認めねぇって言ったらお終いなんだから、やる意味もねぇんじゃねえか?」


ん~・・・そういわれればそうなんだけどさ。


「でも、そんなことしないでしょ?古~いしきたりなんて持ち出して勝負を申し込むような人が、そんなズルたりしないと思うなぁ〜?」


煽るようににやりと笑って見せる。


と、ハンッ!と鼻で笑うタルゴさん。


「よくわかってんじゃねえか、さすが神が選んだ使徒様だ。だが、女が作るもんなんてたかが知れてる。いくらノルグ殿が手伝おうと、あの人も現場の第一線から離れて相当経ってるからな。大したもんが出来るわけがねぇんだ」


と吐き捨てるように言う。


その辺の認識が、よくわからないんだよね~。


執事さんに尋ねてみる。


「ドワーフの中で、女性は鍛冶仕事やモノづくりに携わっちゃダメとか何か決まりがあるんですか?」


「はるか昔はそのような言い伝えもありましたが、今は決まりなどありませんよ。ただ力仕事や体力的にも過酷な現場が多く、特に数の少ない女性は貴重なので家の中で大事にされている事が多いですね。やるとしても簡単な畑仕事や食事作りなどを担うことがほとんどです」


白髪混じりの三つ編みを撫でながら話す姿は、ノルグさんより貴族っぽいな。


「女の仕事は子をたくさん産むことだ!ドワーフの誇りは男が継いでいくもんなんだよ!」


タルゴさんが声を荒げる。


「そいつは違うぞい」


馭者の席にグリンベルダさんと座ってたノルグさんが、馬車の座席の方に移動してきた。


首都に向かってるし、兄弟とはいえ王様に会う予定なので、今日のノルグさんは身なりを整えてる。おかげで目と鼻と口に初めましてだわ。


「女も男も自分の仕事は自分で決めていいんだぞい。ドワーフの誇りは皆が心の中に持ってるもんで、力仕事をする奴だけが持てるものじゃないぞい」


「そんなわけあるか!女が子を産まなけりゃドワーフがいなくなっちまうだろうか!」


「けんども、お前さんの考えを押し付ければ、嫁は逃げっちまうんだから結局子なんて持てないぞい」


ノルグさんの諭すような優しい物言いに、グッと押し黙るタルゴさん。


馬車の前の方からすいません、と声がして、執事さんと馭者を交代したグリンベルダさんがノルグさんの隣にに座った。


「タルゴさん、あたしは、どんな結果になろうと物を作ることは止めません。・・・元々、結婚したいと思えなかったのも、結婚したら自分のやりたいことが出来なくなると思ってたからなんです」


シャン、と背筋を伸ばし、タルゴさんから目を逸らさず話すグリンベルダさんはとっても綺麗に見える。


「でも、好きにしていいから嫁に来てくれって言われて・・・ノルグさんだけなんです。子供のころから色んな物を作ってたあたしに『上手いな、立派な職人になるな』って言ってくれたの。だから、ノルグさんとなら結婚したいと思えたんです」


・・・横のノルグさんもビックリしてるんだけど。これ覚えてないのでは?


「うふふ。覚えてらっしゃらないですよねぇ」


「すまねぇ・・・ちっとも覚えてないんだぞい」


「あたしの大事な思い出ですものぉ。あたしが覚えてるからいいんですぅ」


ん~・・・なんか目の前でイチャイチャし始めて、いたたまれないぞ。


そしてプルプル震えてるタルゴさんはもっとかわいそうだ・・・。また涙目になってるし。


「さっ!そろそろ休憩じゃないっすか?!ね!キトル様!」


ナイト君、見事な助け舟。


「ソ、ソウダネ!ヘブンもお腹空いたよネ~!」


「ワタクシはキトルさまの作ったものならいつでも食べられますぅ~!」


ん~ヘブン君はイイコだねぇ!


気分を変えるためにも、何か美味しいもの作っちゃおうじゃないの!

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