エピソード 44
「ですから、やっぱり決闘って言ったら武器を使った決闘っすよ!男らしく!一対一で!」
「キトルさまは神の使い、緑の使徒様ですよっ?!そんな血生臭いもの、好みませんっ!ドワーフなんですから、二人に何か作らせて、それを評価すれば良いじゃないですかっ!」
夜、案内された客室でナイトとヘブンと対決方法について相談中。
ん〜・・・なんか、しっくり来ないんだよねぇ。
やっぱりドワーフだから何かしら作らせるっていうのが良いんだろうけど・・・。
う〜ん。
コンコン。
ノック??誰か来た?
「どうぞ〜」
「使徒様、夜更けに失礼します・・・」
あら、グリンベルダさん。
「どうしました?」
私の為に争って欲しくない、とかそういうのを訴えに来た的な?
「あのぉっ・・・対決の事なんですが、何か出来る事はありませんかっ?!」
んんん?
「やめさせたい、とかでなく?」
「ドワーフが一度受けた決闘を覆すのは、自ら死を選ぶよりも不名誉な事なんですぅ・・・」
えぇ〜そんなに?!やめたいならやめりゃいいのに。
「もしやめられるのなら、ノルグさんを巻き込まずに済むし結婚だって諦めるのに・・・」
ん?諦める?
「グリンベルダさんは、元々結婚が嫌だったんじゃないんですか?」
キョトンとした顔のグリンベルダさん。
私の言葉の意味を考えるようにしばらく黙った後、口を開いた。
「嫌なのは、自分のやりたい事が出来なくなる事です」
私の目を見てきっぱり言い切る。
あ〜そっかぁ・・・なるほどね。
ふふ。カッコいいね。
「これまで、父にも母にも兄弟にも女が物作りなんてするもんじゃない、と言われ続けていました。だから、やりたい事が続けられるのであれば、結婚が嫌なわけではありません」
とそこまで言って、ハッ!とした顔をする。
「も、もちろん、出来たら相手はノルグさんだともっと嬉しいのですが・・・」
あら?頬を染めるグリンベルダさんってば、乙女じゃ〜ん?
だからノルグさんが一緒に仕事をしようって言った時とっても嬉しそうだったのね。
つまり、やっぱりノルグさんと結婚して物作りを続けられればベストって事か。
って言うか、本人の意思を無視してアレやコレやしてるの、やっぱり気に入らないなぁ〜・・・。
かと言って、公平に決めるって言っちゃった以上ズルはしたくないし。
グリンベルダさんがモジモジしながら話を続ける。
「それに一度は上手く隠れられたし、もしまた結婚しなくちゃいけなくなっても、また逃げられると思うんですぅ。人工飛行機械もまだ完璧じゃないですけど、飛び上がるなら出来るからそれで逃げれば・・・」
ん?飛行機・・・?
それだぁ〜!!
「それだぁ〜!!」
グリンベルダさんを指差して叫ぶ。
夜中に大声出したからナイトが慌てて口塞いだけど、それだ、それだよ!
よし、決めた!
「決めた!明日の朝、みんなの前で発表だ!」
ザワザワ・・・とノルグさんのお屋敷の前はすごい人。というかドワーフ。いやドワーフも人か?
「“炉の誓い”が宣誓され、緑の使徒様がその立会人となられたと噂が回っておりまして。ドワーフにとって古の誓いはとても神聖なもの。どのような裁きが下されるのか、皆興味津々なのです」
窓から外を覗いてると、昨日の三つ編み白髪の使用人さんが後ろから声を掛けてきた。
「して、緑の使徒様はどのような対決の形式をお選びに?」
「ん〜〜〜発表するまで秘密ですっ!」
・・・というわけで。
いつ作ったのか、お屋敷の前には広めのお立ち台。
小学校の体育館のステージくらいの広さはある。
こういうの、ソッコーで作っちゃうあたり流石ドワーフだよねぇ。ザ・さすドワ!
その壇上では、昨日のフラれドワーフのフラドワさん改めタルゴさんという名前の決闘申し込みさんと、
街主で決闘申し込まれさんのノルグさん。
そしてその発端となったグリンベルダさん。
プラス、われら緑の愉快な仲間達。
タルゴさんが、集まった街の群衆の前で経緯を説明し、もう一度“炉の誓い”を叫ぶと、観衆からワ〜!っと大きな雄叫びが上がる。
う〜む、ドワーフさん達さてはお祭り好きだな?
「決闘に!勝った暁には!この娘はオイラの嫁にす」
「ちょおっと待ったぁ!!」
・・・一回言ってみたかったこのセリフ。
一応形式としてツッコミポーズで一歩前に出てみたけど。
ん〜誰もわかってくれないこの寂しさ。まぁいいや。
「え〜ここからは緑の使徒、キトルが交代してお話させていただきます」
「お、おい、今オイラが喋っ」
「黙らっしゃい」
ピシャリと言って黙らせる。
「みなさまご存知の通り、私が対決の方法を決めさせていただく事になりました。しかしこれは、こちらのグリンベルダさんを巡って二人が対決するという話ではありません!」
どよどよ・・・と戸惑う群衆。
「ご存知ないでしょうが、グリンベルダさんは神の使徒が認めるほどの優れた発明家であり、ドワーフの誇りを持って生まれた女性です」
バッ!とグリンベルダさんを手の平で指し示す。
「タルゴさんと結婚してドワーフの女性として命を繋ぐ人生を送るのか!ノルグさんと結婚してドワーフの未来を切り拓くのか!一人の女性の人生を決める為の決闘なのです!」
おぉ〜・・・とみんな同じように口を丸くして、とても良いリアクション。
「グリンベルダさんの人生を決めるのに!その本人を差し置いて男性二人が決闘するなんて、そんなおかしな話は私が認めません!・・・しかし、“炉の誓い”が宣誓されてしまった今、闘いは必ず行われなければなりません」
み〜んな一斉にうんうん頷くもんだから、視界がユラユラしてる。
「そこで!この対決は『グリンベルダさんの発明品』をテーマとします!それを手助けするのはノルグさん、タルゴさんが発明品を認めればノルグさんの勝ち、認められなければ負けです!」
お、おぉ〜・・・?と微妙な反応。あれ?
「私には緑の使徒として歩みを進める必要があります。なので、この者達と共にドラム=カズンに行き、この決闘を見届けます!期限は私がドラム=カズンを離れるまで!その結果は、必ずこのグラントに伝えられる事でしょう!」
お、おぉ〜!とちょっとだけ盛り上がる。
はて?
予定ではここで「うぉぉぉぉ!」ってなるタイミングなんだけど。
とナイトが後ろからそっと囁く。
「キトル様、多分なんすけど、この人らはただ盛り上がりたいだけで、別に内容とか対決方法はどうでも良かったんだと思います」
・・・単なる野次馬だったの?なんだいなんだい。
せっかく頑張って慣れない演説なんてしてみたのに、あんまり意味なかったのかよぉ。
「つまり、オイラもドラム=カズンに一緒に行くのか?」
タルゴさんがポカンとしてる。
「あたしもですか?」
グリンベルダさんも驚いてたので、近くに行って耳打ちする。
「私と一緒に行けば、多分神殿の奥の壁画もまた見れます。それをヒントに頑張って飛行機作って、みんなに認めさせちゃいましょう!」
「!!」
驚き、勢いよく首と上下に振る。
「ま〜使徒様がそう言うなら仕方ねぇ、みんなで行くぞい」
ボリボリと頭なのか髭なのかモジャモジャを掻くノルグさん。
そうそう。私の目的にも近付くし、グリンベルダさん自身が努力して決められるし、一応男の二人にも対決になる。
自分で言うのも何だけど、この解決方法は完璧なんじゃないの〜っ?




