エピソード 43
「緑の使徒様、オイラも握手してくだせぇ」
「オラもオラも」
・・・グラントの門兵さんにノルグさんが事情を説明すると瞬く間に話が広まり、ノルグさんのお屋敷に着く頃には既に人だかり。
ドワーフの人ってみんな同じくらいの身長で髪も髭も長い人が多いから、モジャモジャがワラワラしてる。モジャワラ。
一応名目は『緑の使徒様にご挨拶』なもんで断りにくいし、仕方なくお屋敷の入り口に私が座る椅子持ってきてその前に並んでもらい握手してるんだけど、
「オラにも嫁を・・・!」
「ウチの息子達に娘っ子との縁を」
「贅沢は言わねぇから可愛くて髪が綺麗で飯の美味い姉さん女房を!!」
ってみんな口に出してるから何を求めてるのか一目瞭然。
そんなご利益無いっての。
あと最後の人、贅沢だぞ?
「は〜い、ここまでで〜す。使徒様はオツカレで〜す。また明日お願いしま〜す」
って列を切るナイト。
ジーっと見てたら「何すか?」って聞いてくるから
「ナイトがフラグ立てたせいだからね!」って八つ当たりしといた。
「フラグ・・・?」って言ってけど無視無視。
「すまねぇなぁ使徒様、ワシが幸せになっちまったもんで!」
使用人の人たちと話をしてたノルグさんがグリンベルダさんとニッコニコしながら謝ってきたけど、それ悪いと思ってる顔じゃないからね?
とりあえず今日は遅いし、明日には出発できるといいなぁ・・・。
と思ってたけど、次の日も人気アイドルさながらの握手会を繰り広げる大人気のキトルちゃん。
もうお昼ご飯も結構前に食べたんだけど、まだ列が続いてるぅ。
緑の使徒様って言うより、ピンクのキューピッド様になっちゃってないかい?
ってかみんなそんなに結婚したくても出来ないのねぇ・・・。
前世でも結婚相談所とかあったし、そういうのあるといいんじゃないのかな~?
いや、そもそも女性の数が少ないって言ってたし、そんな簡単に解決するもんでもないのか・・・。
「た〜の〜もぉ〜!!」
ビクッ!!
なっ、何事っ!?
右手を出したロボットと化して半分ウトウトしてたら、大声が耳に刺さって飛び起きた。
多分独身ドワーフの行列の後ろら辺から聞こえた気がする。
目の前の握手してた人も目をまん丸にしてるし、ナイトも剣に手をかけてるし、ヘブンも立ち上がり・・・ヘブンは違う方向見てる。
ん?どこ見てるの??
目線の先には・・・列を仕切ってたノルグさんと、そのお手伝いをしてたグリンベルダさん。
「昨日聞いて!ラグサールを一晩中走らせてきたんだ!アンタが!オイラの!嫁を!奪って隠してたんだろう!」
ちょっと首を伸ばして見てみると、大声出して地団駄踏んでるのは胸の辺りまでの髭を綺麗な三つ編みにして赤のリボンをしてるドワーフさん。
ラグサールってなんだろ?サル?
「ふん?・・・おお!お前ぇタルゴかぁ!久しぶりだぞい!」
「アンタのせいで!オイラは!嫁が逃げたって!」
「髭も立派になったのぅ!いくつになったんだぞい?六十か?ん?まだ五十くらいか?」
「聞けぇぇぇ!!」
あ~・・・察するに、あれはグリンベルダさんが元々結婚させられる予定だったお相手の人って事か。
私が狙われてるわけじゃないとわかってナイトは剣を納め、ヘブンはまた床に座り込んだ。
列に並んだ人は何だなんだと様子を見守っている。
「アンタのせいで!オイラは!嫁に逃げられた情けない男だって!任せてもらえるはずだった工房の仕切り人からも外されて・・・」
段々涙目になってきちゃった。あらあら。
とりあえず・・・
「ナイト、もう握手会は今いる人までにして、ノルグさんに適当な部屋であの人を待たせておくよう手配して。あのままみんなの前で晒されるのはなんか可哀そうだし」
一つ頷くと、ナイトがノルグさんに声をかけ、使用人っぽい人たちが涙目ドワーフさんを連れて行った。
色恋沙汰は大変だねぇ。
「さ、キトル様はもうちょっと頑張りますよ」
・・・アイドル業も大変だねぇ・・・。
やっと握手会を終わらせて、フラれたドワーフさん、略してフラドワさんの待つ部屋に私たちとノルグさんとグリンベルダさん、使用人の人たち数人とで行きドアを開ける。
と。
「我は炉の誓いをここに宣する!」
ガンッ!!
・・・ビックリしたぁ。何?
開けた途端に大きな音と、石畳?レンガ?の床に大きなヒビ。
フラドワさん、さっきまで涙目だったのに、今はキリっとした顔で小さな斧を床に叩きつけ、片膝をついている。
「何て言ったの?あれ何?」
こっそりナイトに聞くと
「ドワーフの古い習わしです。ああいう口上がいくつかあるんですけど、今のは多分・・・」
「炉の誓いだ・・・!」
「決闘か?!」
使用人の人たちがざわめいている。
「・・・“炉の誓い”とあらば、逃げはせん!だが、形式が整っていない。立会人も、対決の形も決まっていないぞ」
ノルドさんも大きな声で叫び返した。
ん〜何が何やら。ノルグさんとフラドワさんにらみ合ってるし、なんか空気もピリピリしてる。
仕方なく近くにいた白髪混じりの三つ編み髭がフサフサの使用人さんに聞いてみる。
「“炉の誓い”というのは、簡単に言うと決闘の申し込みですな。ドワーフの血と誇りを賭けるので、逃げる事は恥とされます。しかし、立会人となる王族の前など宣誓されるのが習わしで、その対決方法も立会人が決めるのが慣習なのですが・・・」
あ~王族がいないのね。っていうかノルグさんが王族なのか。じゃあどうするんだろ?
「・・・ん?」
ふと、みんなの目線が私に向いてることに気が付く。
「あ~・・・」
・・・なるほどぉ?そういえば私アイドルじゃなくて神様の使徒だったね。
握手ばっかりしてて忘れてたわ。
「あ~・・・じゃあ、私が立会人?になりましょうか?」
「神の使徒が立会人に?」
「この場に使徒がいた、というのも天の導きか・・・!」
いや違います、成り行きです。
「アンタが噂の緑の使徒様か・・・本当に神の使いってんなら、どっちにも肩入れすんじゃねぇぞ。公平に見てくれ。それだけが望みだ」
う~ん、責任重大。
超絶めんどくさいけど、二人の結婚をお花咲かせて大喜びしちゃった身としてはお断りするわけにもいかないしなぁ。
「うん、大丈夫。ちゃんと公平に見るけど・・・やり方、対決の形式だっけ?それはちょっと、ん〜と、そうだね、明日の朝まで考えていい?こういうの初めてだからさ」
「もちろんだ。一方に偏りの無いよう、公平な対決を期待する」
そう言い残して、フラドワさんは部屋を出て行った。
「・・・巻き込まれましたねぇ~キトル様?」
「よくわかりませんけど、キトルさまが神の代わりにお仕事をするんですよね?ワタクシは応援しますねっ!」
ニヤニヤナイトとニコニコヘブン。
まぁ私が頑張る事はそれほどないと思うけどさぁ。
「緑の使徒様ぁ・・・あたしのせいでぇ・・・申し訳ありません・・・」
グリンベルダさんが目に涙を浮かべて震えている。
っていうかグリンベルダさんが好きに生きたいって言ってるだけなのに、なんでややこしいことになってるんだろうね。
もぉ~!早くドラム=カズンにも行かなきゃなのに、こんなことしてる場合じゃないんじゃないのぉ~っ?!




