エピソード 42
「ですから、種類はわからないんですけど純度の高い他の金属と混ぜてみたり、」
「どんな種類の?固くなるって事はオリハルコンとかかしら?!」
「知りませんよ〜!!」
どうも、余計な事を口走ったもんだから、質問責めに合ってるキトルちゃんです。
もう辺りは暗くなってるんだけど、たき火の横でドワーフの女発明家グリンベルダさんとグラントの街主ノルグさんに知ってる知識をこれでもかと絞り出されている。
でも授業で習った程度の事と、テレビの特集とかでやってた程度の知識しかないから、大したことは知らないんだよねぇ・・・。
これ以上の情報は得られないとやっとわかってくれた二人が、今度はぶつぶつと話し込み始める。
「不純物を取り除いた純度の高い金属に、また他の金属と混ぜる・・・そんな事思いつかなかったわぁ。さすが緑の使徒様ねぇ~」
使徒様関係あるのかしら。前世の記憶だしあるのか?
「んだなぁ。金属と言えば火だから、低温に強いかなんて事も考えたこともなかったぞい」
ノルグさんが何度も頷いている。
「金属の毒性がどうとかなんてのも気にしたこともなかったっすね・・・。今使われてる金属製の食器も確認するよう、ドラム=カズンに着いたら各国に連絡してもらいましょう」
ナ、ナイトまで・・・。
「いや、一度全ての金属を調べなおすところからだなぁ。混合したら新しい金属が生まれるかもしれないぞい!」
なんかえらい大事になっている・・・。
「あ、あの、余計なこと言っちゃってごめんなさい・・・」
ドワーフのお二人が勢いよくグルン!とこっちを向く。
「とっんでもない!これは大発見よ!もしこれでアルミのようにしなやかでオリハルコンの強度のある金属が出来たら、空に一歩、いえ、もう飛べたも同然よ!」
「混ぜる割合によって金属の性質も変わるかもしれん・・・ドワーフの歴史が動き出すかもしれないんだぞい!こんなに心躍る事はないんだぞ~いっ!!」
二人が手を取り、歌って踊りだす。
よくわかってなかったヘブンも、楽しそうな雰囲気に我慢出来ず一緒に踊りだした。
「いやぁ〜使徒様って、文化まで変えちゃうんすねぇ」
「まだどうなるかわかんないけどね・・・ま、楽しそうだし良かった、のかな?」
二人とヘブンが火の周りを歌いながら踊ってるもんだから、何だかキャンプファイヤーみたい。
立ち上る煙を目で追い、星がちりばめられた夜空を見上げた。
「空か~飛べるんすかね?」
同じく星空を見上げるナイト。
「どうなんだろうね~でも、いつかは飛べるようになるんじゃない?」
前世でも飛行機が飛んでたし、グリンベルダさんだって落ちちゃったけどかなり高くから落ちてきたし、飛べたのは飛べたんだろう。
諦めなければ必ず成功する日は来るはずだ。
「は〜俺も飛んでみたいけど、生きてられるかな〜!」
「私の方が若いし、可能性はありそうだね」
にしし。と笑うとナイトは悔しそうな顔。
「昔の使徒様が壁画に描いてたのなら、使徒様パワーが上がったら飛べるのかもしれないっすよ」
「流石にそれは無理だと思うけど・・・でも壁画かぁ。どんなことが描いてあるのか、楽しみだな」
「ほう、ここの動力回路をこっちと繋げとるのか!こりゃ凄いぞい!」
「そうですぅ。で、ここから引っ張った魔力をこっちに分けて流すことで、両方の回路に魔力が循環してぇ・・・」
「お前さん天才だの!器量も良いし、タルゴなんかの所に嫁に行かなくて良かったぞい!」
「まっ!器量良しだなんてぇ・・・」
次の日、ドラム=カズンに向かう道中で、ノルグさんとグリンベルダさんは馬車の中でず~っと話し込んでる。
馬車がどこから出てきたのかって?
グリンベルダさんの飛行用の機械?もそのまま置いとけないから木で簡単な台車でも作ろうかと思ったら、生やした木で二人がサクッと立派な馬車を作っちゃった。
さすがドワーフ。さすドワだね!
ってか馬車というか犬車?フェンリル車?
「このくらいなら重くないからいいですけど~」ってヘブンが引っ張ってくれて、馭者はもちろんナイト。
二人には馬車の木から枝を伸ばして、頭上にいつでも食べられるリンゴをサービス。
で、必然的に馬車の中は私とドワーフのお二人。
ただ、乗ってからずっとお話が盛り上がってるご様子で、ワタクシトテモオジャマムシ。
「いやはや・・・お前さんみたいな娘っ子がいたなんてなぁ・・・」
「うふふ、あたしは昔っからノルグさんに憧れてたんですよぉ?」
「のう、今は砂漠に隠れて住んどるんだろう?ちょうどいい!ウチに来てくれんかのう!お前さんがいてくれたら、百人力だて!」
「えぇっ?!」
グリンベルダさんが、口に両手を当てて顔を赤くしてる。
うわぁ!私ここに居ていいのかしら!
「ふん?ダメかの?」
・・・あ~こりゃノルグさんわかってないな?
「ノルグさん?それって、プロポーズですよね?」
近くに寄って小声で聞いたら、ノルグさんきょとん顔。
「プロ・・・?」
あれ、プロポーズって風習ないのかしら。
「結婚してくれって意味ですよね?」
・・・ノルグさんのもじゃもじゃ髪の隙間から見える肌が見る見るうちに真っ赤になる。
「なっ!なっ!ちぎfdtらzお!!」
あらま。そんなに否定しなくても。
「・・・大丈夫です、わかってますぅ。ドワーフ女の役目も果たさず発明ばかりしているような女ですもの。でも、手伝いとして呼んでいただけるだけでも光栄ですわぁ!」
あ~あ、自分でフォローさせちゃった~。
「いいんですかぁ~?美人で頭も良くて自立してて難しい話も出来ちゃう素敵な女性、街についたらモッテモテになっちゃうんじゃないですかぁ~?」
ノルグさんに耳打ちする。
いや、毛だらけだし耳どこだコレ。
ノルグさんが手を握りしめ、バッと前を向いた。多分。前向いたというか、毛がモフッと揺れた。
「・・・グリンベルダ!好きなように好きなもんを作って良いから、ワシの所に嫁に来い!ワシは元々結婚出来るとも思っとらんし、子なんておってもおらんでもええ!だから、ウチに来てくれんか?!」
きゃあ〜〜〜〜!!!!
コレよコレ!プロポーズぅ〜!!
前世と今世、両方合わせても目の前で見るなんて初めてぇ〜!
「はっ・・・はいっ!!」
涙目になったグリンベルダさんが頷く。
ひゃぁ〜!エンダぁぁぁぁぁぁぁ!!!
思わず馬車の中を花だらけにしちゃった!でもいいよね!!おめでとぉ〜!!!
「俺がちょっと馬走らせてる隙に何がどうなったんすか・・・」
「馬じゃありませんよっ!フェンリルですっ!」
まぁ確かに馬ではないね。
「ノルグさんとグリンベルダさんが結婚する事になったから、お花畑にしてあげたの」
シンプルかつ正確で無駄な情報を省いた簡潔な説明。
というかそれ以外に言う事がない。
グラントの街が見えてきたからちょっと休憩しようとしたナイトさん、馬車の中が花まみれになっててビックリ仰天。
「いやいいんすけどね・・・おめでたいですし・・・でもさすがに急展開すぎやしませんかね?」
「キトルさまっ!このお花は食べられるやつですかっ?!」
ヘブン君はブレないねぇ~。とりあえず首を横に振って留めておく。
「ホントにね~。でも、結婚は勢いって言うしさ!」
「どこでそんな言葉覚えてくるんすか」
前世からだよ~!
話題のお二人さんは、お花畑の馬車の中で甘~い雰囲気・・・になる事もなく、結局発明や鍛冶談義に花を咲かせている。
お花だけにねっ!
「というか、女っ気がなかったノルグさんが『緑の使徒様を迎えに行ったら、嫁見つけて帰ってきた!』なんて、何か妙な噂になりそうっすよね」
え?恋のキューピッド的な?
「そうだぞい。グラントにも結婚したい男なんて山のようにいるんだぞい」
「さすがにみんなは無理でしょうけど、期待しちゃう人はいそうねぇ~」
え?え?
そんな事ある?あるのか?
・・・それって、変なフラグ、立っちゃったんじゃないの~?!




