エピソード 4
モグモグモグモグモグモグ・・・
森の上に伸ばした枝のスペースでくつろぐ。
木につるを巻き付け、森の上まで伸ばして実をつけた山葡萄、んまぁ〜!
七年間分の栄養を取り返さなきゃね。
結構時間経ったけど、そろそろ行けるかな?
手の縄も枝でゴリゴリやったらすぐ切れたし、両手両足を使って等間隔に生えてる枝を梯子のようにスルスルと降りていく。
いやぁ、便利だねぇ。
そういえばスキルなんて物がある異世界なのに、魔法とかはないのかしら?
あとは、魔物とか、妖精とか?
世界中を回ろうにも現在地すら分からないし、地図も欲しい。
七年分の記憶はあるけど親がアレだし、誰かに教えてもらいたいな。
ポフっと足の裏が枯れ葉の上に着いた。裸足だし靴もいるな、こりゃ。
ん?
木の根本から道へ向かって、草が青々と茂って一本の線になってる。
何、コレ。
ん〜?
・・・もしかして、これもスキルパワー?
私が歩いた所は植物が元気になる的な?!
え〜!!かくれんぼ出来ないじゃん!
じゃなくて、逃げてるのにバレバレじゃん!
えらいこっちゃ。
とりあえずさっき見た家がある方向、森の奥に向かって走り出す。
途中で立ち止まって後ろを見たら、ゆっくり草が生えてきてる。
わ〜!やっぱり!
何これ、スキル垂れ流しじゃん!
神様の使いとか世界を豊かにするって言うからさ、
「控えおろ〜!」
「はは〜!」
って感じで、手をかざしてそこから豊かな緑が・・・みたいな神々しい感じだと思ってたのに?!
ウロウロするだけでいいって事ね!わかったよ!ちきしょ〜!
せめてと思って蛇行してそこら中に草生やしてみるけど、結局目指す方に歩いたらそこに草の道が出来ちゃう。
ダメだこりゃ。
まさに草生えるだわ〜。
あのスケベ顔のオッサンが追いかけてこない事を願うしかないな・・・
諦めて普通に歩き出す。
ほどなく家、というかボロボロの小屋みたいな家が見えてきた。
後ろには見事な緑の道。
ため息出るわぁ。
誰も居ないといいなぁ〜と願いながらドアをノック。
「こんにちは〜!」
誰も居なければしばらくここで・・・ギィ〜とドアがイヤな音を出して開く。
居たね。
「アンタまたしょうこりもなく・・・ん?違うね。誰だい?」
老人だ。
おじい、いや、おばあちゃんか。
「すいません、今日寝る場所がなくて。もし良かったら、一晩だけ寝かせてもらえませんか?」
もし危険そうな奴なら木で檻でも作ってやろうかと思ってたけど、腰の曲がったおばあちゃんなら大丈夫そう。
シワシワの手が頭を撫でる。
「アンタも捨てられたのかい?」
アンタ「も?」おばあちゃん、捨てられたって事?
「子供まで捨てるなんてねぇ。育てば働き手になるだろうに・・・」
ちょっと離れた場所にバラバラの大きさの石が並んでる。あれ、お墓?
そっか、ここ、働けなくなった人を置いてく場所なんだ。昔、授業で先生が姥捨山の話してくれたの覚えてる。
「私は、売られたんだよ」
まぁ境遇としては似たようなもんか。
「売られた?アンタいくつだい?」
「七歳」
耳遠そうだし、両手で七、としてみせる。
でもおばあちゃんは手を見ずに
「七つ?奴隷になっていいのは十からじゃなかったかね」
って・・・
え〜?!マジで?!
あのクズ親も顔面セクハラジジイも完全にアウトじゃん!アイツら〜!!
ムカムカしてたけど、目の前のおばあちゃんは私の横の空間に向かって話しかけてる。
あ、目が見えてないんだ。
目の真ん中ら辺が白っぽい。
何だっけ?白内障?
「ここで寝るのはいいけどね、ロクな食べ物も無いからしてやれる事なんて何もないよ」
「あ、大丈夫!」
このおばあちゃんならバレたって危なくなさそう。
地面に手をかざして生えてきたのは、私の背丈よりちょっと高い、青黒い実が沢山付いた木。
やっぱり目にはブルーベリーだよね。
おばあちゃんにはもう意味ないかもしれないけど、すぐ思いつくのがコレだったんだもん。
プチっと一つもいで
「はい、どうぞ!食べて食べて!」
「なんだい、売られたってのに食べ物持ってんのかい・・・?」
喋りながら口に入れてビックリしてる。
んふふ。
「なんだいこりゃ!甘い!」
でしょでしょ?!
ミニトマトも山葡萄も、やたら甘いんだよね。
女の子達にあげた苺も甘かっただろうなぁ~。
あとで自分用にも作ろっと。
「・・・目が・・・」
ん?目?
おばあちゃんの目を覗き込んだら、さっきより白っぽさが無くなってる?
もしかして、スキルの効果??
「おばあちゃん!もっと食べてみて!」
プチプチプチプチ。
どんどん手渡す。
おばあちゃん、めっちゃ食べるじゃん。
「はははは!見える!見えるよ!すごいねアンタ!」
目の色を取り戻したおばあちゃんに両手を握られ上下に振られる。
結構力強いね?
「その実、どこから持ってきたんだい?!」
「あぁ、コレね、私が今作ったの」
ブンブンされてた手がピタッと止まる。
「・・・は?」
「あのね、こうやって」
手をかざした地面から出た芽がグングン伸びて、今度はすごく高い、鮮やかな色のみかんが成る木になった。
ギリギリ届く高さの実を一個取って
「ほら」
と渡す。
「アンタ、あ、いやアナタ様は、緑の使い手様・・・」
「あ、そうそう、多分それ」
おばあちゃんが慌てて地面にひれ伏す。
「いやいやいやいやおばあちゃんやめてよ!お世話になるのはこっちなんだから!」
これ実際やられると困るな。
おばあちゃんに頭下げられるといたたまれないわ。
「いやでも・・・」
「それよりさ、この力の事とか、色んな国の事とか、全然知らないから教えて欲しいんだよね」
「そんな事でいいなら・・・」
やっと起きてくれたよ、も〜。
家に入れてもらって、とりあえずここに来るまでの事を説明したら
「馬鹿だねぇ、アンタの親は、本当に馬鹿だ!」
と泣きながら私の代わりに怒ってくれた。
おばあちゃん、良い人だね。
「緑の使い手様の事はねぇ、あたしも又聞きだから詳しくは無いんだよ。緑の使い手様とか使徒様とかいわれてて、護衛の騎士を連れて世界を豊かにして回ってたって事。歩けば緑が、手をかざせば食べ物が生まれるって言われてる事くらいかねぇ。あとはお天道様に顔向け出来ない事をすると使い手様が来てくれなくなるとか、使い手様を怒らせると草も生えない土地になるとか・・・悪さした子供に言うような事ぐらいだね」
あれ、そうなの?手をかざさないとダメなの?
試しに家の裏に回って手を出さずに考えてみる。
ん〜と・・・喉乾いたし・・・すいか、スイカ、Suic・・・これは違う、西瓜!
目を開けてみたけど、やっぱり出来てない。
へ〜良い事聞いた!いざって時に出来ないと困るもんね。
ついでに作った西瓜を石で割って、おばあちゃんと地面に座って食べる。
「こいつぁ美味い!身体が元気になるよ!」
「喉乾いてたしね〜。あ、ねぇ、さっき私が来た時、誰かと間違えてなかった?」
ふっふっふ。私は聞き逃さないのだ。
「あぁ、あれはねぇ、多分そろそろ」
「ババァ〜!来てやったぞ〜!」
・・・タイミング良すぎない?
表、と言うほど立派な家でもないけど、ドアの前にはイカつい男の人。うわ、背ぇ高~い!180くらいありそう。
鎧?みたいなの着てるし余計に大きく見える。
おばあちゃんに危害を加えるなら私が相手に、と思ったら後ろから
「何だい!もう来るなって言っただろう!」
って大きな声。
あら?お知り合い?
「俺がどこに来ようが俺の自由だろ・・・っと、誰だ?」
思わずおばあちゃんを背中に隠す。
私の方が背が低いから隠れてないけど気にしないで。
「悪ぃな。怖がらせちまったか?」
しゃがんで目線を合わせてくれる。
悪い人では、なさそう?
ってか正面から見るとめっちゃイケメンじゃない?!
「あぁ、ちょうどいい、ナイト、あんたこのお嬢さんの護衛でついてってあげな!」
何ですと?
おばあちゃん、ちょっとお話聞かせてもらおうじゃないの。
アドバイスをいただいたので、読みやすいように行間を開けて、加筆しました。