エピソード 39
ふぃ~お腹いっぱい・・・
私が起きたのがもう昼過ぎだったので、その日のうちに有力貴族を全員招くのは流石に難しかったらしく、結局晩餐会はほぼ顔見知りだけの夕食会になった。
おかげさまでマナーやら何やらを気にすることなく食べられたのは良かったんだけど、私のお皿には常にみんなの倍ほどの料理・・・。
そのせいで、初対面のダイナマイトでグラマラスでファビュラスでマーベラスな感じのド級美女な王妃様の美しさを堪能出来なかった・・・
あと多分十四、五歳くらいのキリっとした真面目そうなイケメン第一王子にも印象悪かっただろうなぁ。
まぁ第二王子とパールちゃんの目が合ってはお互いに照れ合うという、それはそれは素晴らしいイチャイチャ姿が見れたからいいけどさぁ~。
公爵家のタウンハウスに戻ってきてベッドにゴロン。
「キトル様、ドレスがシワになりますよ~」
と私が脱ぎ散らかした靴を拾いながらナイトが笑う。
「頑張って食べたんだから今日はいいの!こんなドレスまでちゃんと着たんだからさぁ」
一緒にベッドに乗ったヘブンも、まん丸なお腹を上にしてもう寝息を立てている。
「そういえば、あの大神官のセリオスさんってもう帰ってたんだね」
「そうっすね、キトル様が眠りについてすぐ位っすかね・・・『神の奇跡を目撃する幸運を得たからには、これを信者に伝える義務がっ!』とかって寝てるキトル様の顔見て王様に挨拶したらすぐ飛び出して行きましたよ。いったん国に帰るみたいで」
うへぇ・・・クールな美形が暑苦しい感じになっちゃったな。んでナイト声真似上手いね。
「あ、あと、キトル様が起きたら自分も旅に同行するよう直談判する!って張り切ってましたよ・・・俺も散々断ったんすけど聞かなくて」
「うげっ」
えぇ~めんどくさぁい・・・
イケメンは好きだけど、あんなに強火で来られるのは嫌だぁ。
「あ、あと今、国中の貴族を呼び集めてるらしくて、明日からは晩餐会が続くって言ってましたよ」
「はぁっ?!」
「王都全体でもキトル様の偉業をたたえる祭りを一ヵ月はやるとかで、キトル様が起きるのを今か今かと待ってたらしく」
何ですって?!・・・もう驚きすぎて声も出ないぞ。
ナイトも私のリアクションを予想してたみたいでニヤニヤしてる。
「で、どうします?」
「・・・神の使いとしては急いで他の国も助けに行かなきゃだしねぇ・・・?」
「毎朝、朝食に皆さんが揃うのは、夜が明けてから三、四時間経ってからっす」
「ナイト、朝早いの平気だよね?」
「そりゃ傭兵なんてハードな仕事してましたんで、もちろん」
顔を合わせてニヤリ。
よし、朝一で、次の国へ出発だ!
ヘブンが横で「もう食べれましぇん・・・」と寝言を言ってる。この子が起きられるかが心配だな・・・。
「キトルさまの為なら、夜通し走ることだって出来ますよっ!」
外が明るくなるのと同時に起こしたヘブンに説明すると、プリプリとお尻を振って抗議してきた。
「ワタクシは使徒様に仕える気高きフェンリルですからねっ!眠くたってどうって事ありませんっ!」
う~ん怒ってるミニヘブン、可愛い。
じゃないや、準備しなきゃ。
っていっても、魔法バッグに詰め込んで、動きやすい服に着替えて終わりなんだけどね。
メイドさんたちの目を盗んで部屋に来たナイトも準備バッチリみたい。
「本当にブランさんの部屋に寄らなくていいんすか?」
「うん、顔見ちゃうとお互い淋しくなっちゃうし・・・モルドさんに貰ったネックレスもあるから、大丈夫!」
「そうっすか・・・じゃ、バレないように行きましょうかね」
言うや否や、部屋のバルコニーに出る窓を開ける。
「え?!そこから?!」
「え?そうっすよ。使用人はもう起きてますし」
そりゃそうか・・・でもここ三階だけど降りられるかな・・・。
と考えてたら、広いバルコニーに出て元のサイズに戻ったヘブンに乗せられる。
「え?」
「ヘブン、どこら辺まで飛べる?」
「このお屋敷の、あの柵は余裕で越えられますねっ!」
「よっしゃ、じゃあ行こうぜ!」
「え?え?」
ナイトが私の後ろに乗った瞬間、ヘブンが跳躍する。
「ひゃあぁぁぁぁぁ~・・・」
ノープランで出発って言った私も悪いけどさ!
こんな大ジャンプするなら一言説明してよぉ!!
大きな声で悲鳴上げたからか、視界の片隅に外に飛び出してきた使用人や、窓を開けたブランと公爵家の人たちの姿も見える。
「キトル!!」
「まだ待ってる人たちがいるからさ~!次の国に行ってきま~す!!」
タウンハウスの柵を超えて振り向き、手を振る。
別れがたくなる前に、さっさと行かなきゃね。
街の人たちも、なんだなんだと外に出てきた。
「ヘブン、人にぶつからないように急いでねっ!」
「かしこまりましたぁっ!」
重力なんて感じないような軽やかさで、王都のレンガの道を、お店の壁を、煙突のある屋根を飛んで跳ねて駆けていく。
王都の人たちが窓やドアを開けてどんどん顔を出し始める。平民の朝はやっぱり早いのかな?
「使徒様~!」
「もう行っちゃうの~っ?!」
みんなが声をかけてくれる。
「使徒様~お気をつけて~っ!」
あの声はモルドさんだ!屋根から屋根を飛び移りながら下をのぞくと、噴水広場のお店の前でお髭のオジサンが両手を振ってる。
気が付くと、王都の色んな所から声が上がってる。
「ありがとう~!」
「木の実、美味しかったよ~!」
「行ってらっしゃ〜い!」
えへへへ。こんなに感謝される事って、前世でもなかったから、なんだか嬉しいしくすぐったいな。
背中から声が聞こえる。
「・・・俺、キトル様の従者になれてよかったっす」
「あれ?ナイト泣いてる?」
「んなっ!泣いてないっすよ!」
「んふふ~まだまだ道のりは長いからね!ナイトにはしっかり道案内してもらわなきゃ!」
「・・・そうっすね、ヘブンとキトル様だけじゃ、次の国に着かないっすもんね」
「ナイトさんっ!これ、こっちの方向であってますかっ?!」
飛びながらヘブンが首を曲げてこっちを見る。
「うわっ!前向けって!・・・あ〜ちょい右かな?あっちに見える王都の城壁の門兵は顔見知りだから、そこから出ようぜ」
「わかりましたぁ~!」
ひょ~いっと軽く十数メートルはある屋根と屋根の間をジャンプする。これ、何か魔法も使ってるのかな?
「次はバラグルン共和国、でよかったんすよね?」
「うん!セリオスさんの話では聖神国はまだ大丈夫そうだし、セリオスさんと鉢合わせしちゃっても面倒だし」
「それもそうっすね、従者が二人になったら嫌ですもんね」
「そうそう、身軽に、適当に、行きたい方に行って、やりたいようにやるのさ!」
「キトル様らしいっすね」
ナイトとヘブンが笑って、きっと下にいる王都の人たちもみんな笑ってる。
よし、アルカニア王国のみんなはもう大丈夫!
お次はドワーフの国、行っちゃおうじゃないの!




