エピソード 38
はっ!
目が覚めた。
これ以上ないくらい、スッキリとした目覚め。二度寝なんて全然したくない。
起き上がって、辺りを見回すと、ふかふかのベッドに座ってる事に気が付く。
ここは・・・ダンデ公爵家のタウンハウスだな。窓の外が明るいし、まだ昼間っぽい。
ナイトとヘブンが連れてきてくれたんだろう。
両腕を上げて、グ~ッと背伸びをする。
どのくらい寝てたのかな?
前回、森を作った時が三日でしょ?国中に草生やしたんだから、五日とか?
グウ~ッ!!とお腹が抗議の音を出す。この減り具合は結構寝てたっぽいな・・・。
ベッドから降りて、ドアに向かう。
ガチャッ。ゴンッ!
「あいたっ!」
持とうとしたドアノブがこちらに向かって開いてきて、おでこにドアがぶつかった。
「キトル!起きたの?!大丈夫?!」
入ってきたのはブラン。それ、どっちの意味の大丈夫・・・?
「体は平気、おでこは痛い・・・」
「あぁっ!ごめんね!」
「キトル様っ!」「キトルさまぁっ!!」
部屋の入り口でブランにおでこを撫でてもらってたら、ナイトとヘブンも横から飛び込んできた。
「「だいじょ」」
「お腹空いたっ!!」
ナイトとヘブンの心配を遮り、空腹アピール。
「どのくらい寝てたの?!めっちゃお腹空いてるんだけど!!」
ふは、とナイトとブランが顔を合わせて笑う。
「三週間っすよ。何か食べ物用意してもらってきます!」
さ、さ、さ、三週間?!
「もう・・・使徒様のお役目なんだろうから仕方ないけどさ。僕も、ナイトさんも、ヘブンさんも、みんなすごく心配したんだからね?」
「えぇ・・・ごめんなさい兄さん・・・まさか三週間も寝るとは・・・」
私本人もビックリだわ・・・。
「んくっ・・・だかりゃさ、今度から、むぐっ、寝てても私の口のにゃかに、モグモグモグモグ・・・何か食べ物突っ込んどいてよ、ごくん・・・」
「キトル、お行儀悪いよ?」
ベットの上で食べながら喋ってたら呆れ顔の兄さんに注意された。でも仕方なくない?
最初パン粥とかスープの上澄みとか持って来られたけど、そんなもんじゃ足りなくて、結局パンやら果物やらをいっぱい持ってきてもらって食べてる。
「あ~あ~も~、またこぼしてますよ?食べるか喋るかどっちかにしてください」
ナイトが拾おうとしたパンの欠片をヘブンがひょいっと食べて、ナイトに睨まれてる。
「そういえば、今は王城に出向かれてますけど、こちらにパー」
「キトルちゃんが起きたんですって?!」
「ルさまが来られてますよっと・・・」
ナイトの言葉の間に響き渡る、パールちゃんの叫び声。
ドタドタとした足音じゃなく、ストトト・・・と優雅でアップテンポな足音が聞こえる。さすが淑女。
ガチャッとドアが開くと、久しぶりに見るパールちゃんの顔。
「パールお姉ちゃん!」
「キトルちゃん!もう大丈夫なのっ?!」
ベッドに腰かけ、両手で顔を包まれる。
「大丈夫だよ~すっごくお腹が空いてたくらい!」
んふふ~久しぶりのパールちゃんもやっぱりいい匂い。
「・・・パール・・・なぜあの歩き方でそんなに早いんだ・・・」
ドアノブに掴まるように立つ、追いかけて来た様子の公爵様がゼーゼーと肩で息をしている。
「日頃の淑女修行の成果ですわっ!」
フンッと胸を張るパールちゃんも可愛いなぁ~。あれ?そういえばパールちゃん、ブランの事知らないよね。
「パールお姉ちゃん、私の兄さんのブランだよ」
ベッドの反対側にいたブランの袖を引っ張って紹介すると、二人が顔を合わせて笑い出す。
「もちろん知ってますわ。キトルちゃんが寝ている間に自己紹介していただきましたもの」
あ、そりゃそうか。ここでお世話になってるんだもんね。
「まもなく国王陛下もお越しになるそうなので、キトル様も食事が終わられたのでしたら身支度などをされておかれた方が良いでしょうな」
公爵様が暗にみんなの退室を促し、代わりに洋服を手にしたメイドさん達が入って来る。
ぞろぞろとみんなが部屋を出ていこうとすると、パールちゃんが顔を寄せて耳打ちしてきた。
「ブラン様も今このタウンハウスにお泊りになってるでしょう?第二王子様が、ワタクシとブラン様が一緒の家にいるのが嫌だ、なんてヤキモチをやいてくださったの」
うふふ、と口に手を当てて笑うパールちゃんの可愛い事っ!!
まだ食べれそうだったけど、お腹いっぱいになっちゃいましたわぁ~。
「キトル様、お目覚めになられて何よりで・・・」
お風呂に入ってサッパリした所でちょうど王様が来たので応接室に出向くと、ナイトやヘブン、公爵様とルビィ様にパールちゃん、ブランと宰相様まで揃っていた。
私がソファに座ると、背もたれの後ろにはナイトとヘブンが位置取る。
いつもそこだけど、従者の定位置なのかしら。
「はい、で、どうでした?」
「ん?どうでした、とは・・・」
「あれ、ナイト、確認してもらうように言ってないの?」
「キトル様・・・ちゃんとお伝えしてますけど、まずはこういう時身体の調子を気遣う言葉をいくつか交わすのがマナーというか、一般的なんですよ・・・」
「そういう社交辞令はいいよぉ。元気なんだし」
ジト~っとナイトが見てくるけど、いいじゃん、面倒なやり取りなんてしてたら日が暮れちゃうよ。そういえば今何時だ?
「で、王様、国全体にちゃんと植物が生えたのか確認ってしてもらえたんでしょうか?」
私とナイトのやり取りを見ていたからか、ゴホン、と一つ咳払いをして続ける。
「人の居住地や、行ける範囲で国中の調査をした結果・・・アルカニアの全ての地域で、多少の差はあれど植物の芽吹きが確認された」
わぁっ!とみんなが喜ぶ。
「念の為、急激に育った影響などがないか引き続き調査はさせているが、今のところは驚いてコケた、といった程度の報告しか上がってきていないし大丈夫だろう」
あらま、コケちゃった人大丈夫かしら。そういえば、おばあちゃんとかビックリしたんじゃないかな?
と、おもむろに王様が立ち上がり、深々と頭を下げた。
「キトル様、いや、緑の使徒様。我がアルカニア王国を、アルカニア国民を救っていただき、心から感謝する。貴女様が現れていなければ、ゆるやかに滅びる国を見ているしか出来なかったであろう・・・。本当に、ほん」
「いやいいですって!私がやりたいことをやりたいようにやっただけですし!!」
両手を前に出してブンブン振る。
あ~ほら、公爵様達も宰相さんも真似して頭下げちゃったじゃ~ん!
ブランまでどうしていいかわからなくなって頭下げちゃったし!
「もぉ!いいですって!やめてくださいよもう!こういうの苦手なんですって!!」
「・・・今代の使徒様は、照れ屋さんですのう」
宰相さんが髭を触りながら言うもんだから、みんなが笑いだす。
「さて、せっかくの祝いだ。国を挙げて、と言いたいところだが、まずは我が妃と皇太子の第一王子なども交えた晩餐会を今夜にでも開こうと思ってな。前回は色々あって流れてしまったからな。今晩は妃が張り切っておるし、逃げないでくれよ?」
ニヤリと笑って釘を刺される。
やっぱりバレてたか・・・。
えぇ~まだ病み上がりって事でなんとかごまかせないかなぁ・・・。
ソファの後ろに立ったナイトが口を開く。
「キトル様はもっと食べて体力をつけた方がいいと思うんで、ぜひ晩餐会で豪華な食事をたらふく食べてください」
驚いて振り向くと、目も合わさないくせにしれ~っとした顔してる!
「そうですねっ!キトル様がもっと大きくなれば、倒れなくて済むようになるかもしれませんねっ!」
ヘブン、お前もかっ・・・!
「そうだね、キトルがずっと寝てて、僕もみんなもすごく心配したんだよ?」
「その通りですわ!キトルちゃんは、もっとお肉を付けなくちゃ!」
ブランにパールちゃんまでっ!
大人たちは、皆の意図に気付いたのかプルプルと震えてる。
なんでよぉ~!
豪華な食事なら、晩餐会なんかじゃなくたっていいんじゃないのぉ~っ?!




