エピソード 32
親切お茶目おじさんはモルド・メッケルさんという名前らしい。
「家名があるんですね」
「そうそう、私の何代か前の爺さんが準男爵位を賜ってね。まぁその一代だけだったんだけど、せっかくの家名だから普段はそのまま使ってるんだよ」
へぇ〜。
せっかくなので、モルドおじさんのお店で買い物と言う名の物色中。
「これ、何ですか?」
小鳥みたいな形をしたブリキの人形を手に取る。
「あぁそれは機械鳥だね。バラグルンで作られた魔法鳥の機械版なんだが、魔法鳥と違って声を直接届けられるんだ」
バラグルン?
何か聞いた事あるな・・・あ、ドワーフの国か!
「録音して相手に送れるって事?」
「そうなんだが、どうも運んでる途中で壊れたみたいでね・・・使うと大音声で流れるんだよ」
「へ〜耳が遠いばあちゃんにならいいかもしれないっすね」
ナイトが後ろから私の頭の上に顔を出す。
「いやぁ、外に居てもハッキリ聞こえるくらいだから、耳元で聞いたら耳がやられちまうんだよ」
「・・・なんで置いてるんすか?」
「いつかドワーフが来たら直してもらおうかと思ってね」
つまりガラクタって事か。
「モルドさん!これは?」
ブランの手の平に乗っているのはアンティークっぽい銅製の丸い缶。
「そこの噴水広場に去年まで出てた屋台の店主が、店を閉める時に大量にくれたやつだね。メルグノのキャンディなんだが、団子串と同じで何味が出るかわからないのが子供に人気なのさ」
あ〜さっき食べたやつか。辛かったな・・・。
「僕、これ欲しいな・・・。レオンおじいちゃんに、プレゼントしたい」
「あ、いいじゃんいいじゃん」
「でもお金持ってないから、何かで稼がないと・・・今まで畑仕事や狩りしかしてないから、お金の稼ぎ方から勉強しなきゃ」
そっか、宰相さんに貰ったお金で買うのは何か違うしね。
「そういえば、モルドさん、ブランに貰ったじゃがいもってどうしたの?」
あれ売ったらお金になると思うし、キャンディくらい貰えそうじゃない?
「じゃがいも・・・?あぁ、あの茶色の石かい?」
「え、売ってないの?」
お互いに顔を合わせてハテナマークが頭に浮かぶ。
「え、あれ売れるのかい?!」
「あれ食べ物だよ?!」
「え、僕説明しましたよね?!」
ブランまでビックリしてる。
「いや、あの時はまさか本当に使徒様のお兄さんだなんて思ってなかったから、子供が食べ物だと思い込んで大事にしてた石をお礼にくれたんだな〜くらいに思ってて・・・そうか、使徒様が作ったやつなのか!」
あ〜おままごと的なやつだと思ったのね。
ちょっと待ってて!とまた店の奥に引っ込んだと思ったら両手にじゃがいもを抱えて戻ってくる。
ブランに話したじゃがいもの取扱注意事項をもう一度話すと、モルドさんの顔がぱぁぁぁぁと輝く。
「これは、売れるどころの話じゃない!この王都も、国も、救ってくれる実だ!」
じゃがいもって実じゃなくて茎じゃなかったっけ?
まぁ細かい事はいいか。
「これ一つで十個出来るとして、今ここに十個あるから、これだけで百個は食べ物が出来る。さらにそれを植えれば、短期間で食べ物が大量に収穫出来る・・・!何と画期的な!」
あ、そうだ。じゃあついでに。
すぐ近くにあった取手が三つ付いたコップを手に取る。
「モルドさん、このコップ使っていい?」
「えぇえぇ。それは魔法使いの見習いが練習用に作ったコップでしてね。正しい取手を持たないと底が取れるんですよ」
変なコップだなぁ。
コップのフチに指をかけて持ち上げると「そうか!そうやって待てばいいのか!」と驚くモルドさん。
今までどうやって使うと思ってたんだろう?
コップから生やすのは久しぶりに意識して作るモーリュ草。
を、すぐに枯らして種だけをテーブルにポロポロと落とす。
「これ、じゃがいもと一緒に売るといいですよ。この草が生えると土が柔らかくなるから、じゃがいもも沢山取れるはずです」
「・・・こんな貴重な物を・・・?!」
いや私が歩いた後には沢山生えてるんだけどね。
「ブラン君!馬車に乗せただけじゃこのじゃがいもとは釣り合わない!何でも好きな物を持ってってくれないか?!」
「え、あ、じゃあこのキャンディを・・・」
「それだけじゃあ足りないよ!裏にもうひと箱あったから持ってこよう!」
そう言ってまた奥に引っ込もうとするモルドさんをみんなで止めるのが、それはそれは大変でした・・・。
結局、ブランはキャンディを宰相さんと自分用に二つ、
私は朝に髪を梳かすとその日一日好きな色にしてくれるクシ、
ナイトは疲れない道だけを表示してくれる疲れみ地図、
ヘブンは褒められると星のようにほんのり光って暖かくなる星灯の首輪を貰って帰る事になった。
「いやぁ・・・楽しかったねぇ」
私達が見えなくなるまで手を振ってたモルドさんのお店、異世界らしさが半端なかった。
「変なモンばっかりで、面白いっすよね」
「ワタクシもこの首輪気に入りました!光ると暖かくて、とても良い物です!」
「次はレオンおじいちゃんも一緒に行こうかな。気に入ってくれるといいなぁ」
多分あの宰相さんならどこに連れて行かれても喜びそうだけど・・・。
「さて、そろそろ」
「魔法カバンを作りに行かなきゃ、ですよね?キトル様?」
やっぱりダメか。
まぁいいや、思ってたより異世界ショッピング楽しいし、パールちゃんオススメのお店も期待出来そうだぞ?!
・・・って思ったんだけど・・・
清潔で広い店内、キラキラと輝くシャンデリア、ふかふかの椅子、奥から持って来られる商品。
そりゃね、お貴族様相手のお店だもの。こうなるよね〜。
悪い訳じゃないのよ、悪い訳じゃ。
ただ、あのゴチャゴチャしたモルドおじさんのお店ほど心は躍らないよねぇ。
ナイトは澄まし顔で私の後ろに立ってるし、ヘブンはふかふかソファの魅力に抗えなくてもう夢の中、ブランに至っては置き物みたいに動けなくなっちゃった。
そうこうしてると、立ち襟に金色のリボンタイ、紺色のロングジャケットで燕尾服っぽい格好で口髭の先っちょがクルンとした店員さんが、プレゼンテーショントレイだっけ?布のついた板を持ってきた。
板の上にはちょっと光沢のあるブラウンの生地にゴールドで出来たリボンの留め金具、大きめの長財布サイズの大人可愛いショルダーバッグ。
その後ろを付いてきたオールバックヘアの若いお兄さんは焦茶色の生地にシルバーの金具が付いたシンプルなビジネスバッグを同じく板に乗せて持ってきた。
「使徒様、こちらのカバンはいかがでしょう?こちらは人気のルキエル・リボンケースのクラシカルモデルとなります。シルエ鳥の羽のように軽いのはもちろんの事、中が三つに分かれておりまして、三十倍の拡張収納エリア、時封じエリア、温度停止エリアに分かれております」
へぇ~!すごいね!しるえ鳥?はわかんないけど、小さいのに便利ィ~!
「また、お兄様にはクラースフィル・サッチェルの最新モデルをご用意させていただきました。脱落防止呪布ベルトでショルダータイプにもなり、中は静音収納機能が搭載されております。お二人の雰囲気やご年齢に合わせた物を選ばせていただきました」
「ひゃ、はいっ!」
ブラン、店員さんの話聞こえてる?
「リボンの素材は五種類しかないのですが、どちらも生地の色が数百種、金具のデザインと素材が数十種ありますので、ご希望の組み合わせを決めて頂ければすぐに職人が制作に取り掛かります。遅くとも、五日程でお届けに・・・」
「あ、じゃあそれでいいです」
「え?」
え、だって面倒じゃん。
「どちらもその組み合わせが気に入ったんですけど、それをそのままもらったんじゃダメなんですか?」
「あ、ありがとうございます!ではすぐに取り掛かるよう連絡を・・・」
「え、それ持って帰れないの?!」
ナイトがそっと耳打ちする。
「キトル様。貴族の店は全部オーダーなんで、置いてある商品は、見本っす」
・・・ですよねぇ~?!
「知ってるし。五日後ね、いつかご!」
ナイト?
そんな目で見てくるのは、やめてもらおうじゃないのっ?!




