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エピソード 3

「キトル、ねぇキトルってば」


人が気持ち良く寝てるってのにうるさいなぁ・・・

ん〜キトルって何だっけ・・・


・・・あぁそうか、さくらじゃなくてキトルになったんだった。

寝ぼけながら目を擦り、兄のブランを見る。


あれ?まだ薄暗いし誰も起きてなくない?


「ねぇ、やっぱり逃げよう?僕も一緒に行ってあげるから」


ちょっと目が覚めた。まだ子供なのに、妹の為にそんな事考えてたの?うわ〜この子、ホントに健気だな。

でも。


「いや、大丈夫。こっちは何とかするから」


きっぱりと言い切る。

ごめんね。だって十歳の子供が居たら逃げる時に足手まといなんだもん。まぁ私も七歳なんだけど。


あ、そうだ、それどころじゃないんだった。


「あのね、それより大事な話があるの。コレなんだけど」


枕元に置いていたじゃがいもをゴロリと出す。

昨日初めてスキルを使って作ったじゃがいもだ。


「何、これ。石?」


あ、やっぱり知らないんだ。こっちに無いのかな。

もしかしたらこの世界に存在しない物作っちゃった?

それって大丈夫なのかな・・・


んんんん・・・でも考えても仕方ないし、まぁいいや!


「これね、じゃがいもって言うんだけど、食べ物なんだ」


「え?!食べ物?!」


ブランが手に持ったじゃがいもを、え、うわ、かじった?!


「うえっ!」


「兄さん!ダメだよ!」


慌てて取り上げる。


「これ・・・本当に食べられるの・・・?」


ブラン、涙目になってる。

何よもう。ちょっと可愛いな。


「これはね、火を通したら食べられるの。焼いても煮ても蒸しても茹でてもいいし、つぶして加工したりとか、色々使えるから!」


「これが・・・?」


むむっ。その顔は信じてないな?食べて驚くが良い!


「あとね、このじゃがいも、このまま土に植えたら芽が出て土の中で増えるから。葉っぱが何枚か出来たら抜いてみて。一個の種芋から十個くらい収穫出来るから」


「え、え、ちょっと待って」


ブランが止めるが続ける。

だって物音が聞こえるし、母親が起きたっぽいから急がなきゃ。


「気をつけるのは、そのまま置いといたら芽が出てくるから、緑っぽくなったのは絶対食べないで。お腹痛くなるから。これも絶対覚えておいて」


「え、えっと、火を通したら食べられて、緑になったのはダメで、そのまま植えて葉っぱが出たら抜くんだね。わかった!」


名前を呼ぶ声が近付いてきたし、もうそろそろ来そうだ。


「あとね、私途中で逃げるから、兄さんも早めにここから逃げてね!どこか大きな街に行ったら伝言頼むから!絶対また会おうね!」


バタン!扉が開いた。


「ほら行くよ!もう馬車が見えてるんだ!」


腕を掴まれて引っ張られる。痛いってば!


「キトル!」


家の外までブランが追いかけて来る。

やだもうブランってば、泣きそうになってるじゃん。


家の前には馬車が止まっている。

日が昇ると同時に来るとか、この世界の人働きすぎじゃない?

父親は小綺麗な服を着たオジサンからお金なのかコインを貰い、母親は父親の肩越しにそれを見て私の腕を掴んだまま薄ら笑いを浮かべてる。


優しいブランに比べてこっちは毒親だなぁ・・・まぁもう会う事はないだろう。


「ほら、この子だよ。あたしに似て器量良しなんだから高く売ってくれよ?」


母親が小綺麗なオジサンに私を押し付ける。

このオジサンが奴隷商?なのかな?


こちらを見て、ニヤ〜っと笑ったその顔・・・


ゾワッ!


うわうわうわうわ気持ち悪ぅっ!!無理無理無理無理!


新卒で入った会社のセクハラ親父を思い出しちゃった。

キモ〜い!あ〜背筋がゾワゾワする。

街に行くまで様子見てもいいかと思ってたけど、早めに逃げよっと。


「ほれ、逃げようなんて思うなよ?」


と手をキツく縛られる。

ちょっと。この縄チクチクするんだけど。

何かもっと他にビニール紐みたいやつないのかしら。


でもまぁ足縛られないだけマシか〜。

逃げるときに足が縛られてると、それだけで手間が増えるもんね。

縄を引っ張られて布の幌がついた荷台に乗せられる。


ん?そのまま乗せる感じ?いいの?ホントに?

檻とか、何かそういうの無いんだ。

こんなんじゃ、私簡単に逃げちゃいますよぉ?


荷馬車の中にはやっぱり他にも奴隷になる子がいる。

いち、に、さん・・・全部で六人。

狭そうだし、とりあえず入り口近くの場所に座ると馬車が動き出した。


「キトル!キトル!」


涙を浮かべたブランがこっちに手を伸ばしてるけど、父親に


「お前はやる事があるだろ!」


って引っ張られて行ってる。

あのクソ親父、私のブランに乱暴な事しやがって・・・

もし次会う事があったら覚えてろよ?会いたくないけど。


「兄さん!大丈夫だよ!昨日言ってたやつに、私、なったから!」


聞こえたかな?

あんまり詳しく言えなかったけど、聞こえてるといいな。


ゴトゴトと〜荷馬車に乗って〜売られて行くよぉ〜・・・。

・・・うん、お尻が痛い。

コレ赤くなってない?


まぁどうせ逃げるし、それまでの辛抱だ。

家が見えなくなり、枯れ木ばかりの森の風景が続いて数時間。


昨日夜中までいろいろ実験してたから、乗ってすぐに寝てしまってた。

家族に売られてソッコーで寝るとは、我ながら図太いぜ。


森の様子も枯れ木から多少緑の葉っぱが増えてきてるっぽい。

この辺の土地は、家があった所ほど弱ってないみたいだね。


もうかなり来たはずだし、大丈夫かな?

だ〜れも喋らない静かな荷馬車の中を改めて見渡してみる。


この中じゃ私が一番下かな。

上は十代半ばくらい。女の子ばっかりなのはオッサンの趣味か?

自分で考えて、ちょっとイラッ。


「ねぇ、みんな売られたの?」


とりあえず隣にいる子に話しかける。


「え?あ、あの、えっと・・・」


ブランと同じくらいかな?赤毛の長い髪が可愛い。


「違うわよ」


赤毛の子向こう側から返事が聞こえてきた。

多分最年長の、セミロングの黒髪。

あら、気の強そうな吊り目が凛々しい美人さん!


「売られた子もいるけど、あたしは自分で希望したの。奴隷なら食事が貰えるからね。アンタも、あんな村にいるより奴隷の方がマシよ」


えぇ〜・・・そうなの?

確かに餓死より食べられるだけ奴隷の方がマシなのかもしれない。


でもでも、普通に食べていけるなら、奴隷になんてならない方がいいに決まってる。

いやそりゃ奴隷になりたい変態さんもいるかもしれないけど・・・選択肢がないのはダメだよ。

やっぱり、みんなが好きな道を選べるように。

せめて普通に食べて暮らせるようにしなきゃ。


「逃げようとは思わない?」


もし逃げたいって言ったら・・・念の為聞いてみる。

ハンッ!と鼻で笑われた。


「どこに逃げるの?」


他の子たちも諦めたような表情。

そうだよね。

逃げたって行く当てがないからここに居るんだもんね。

逃げないから、手を縛っただけで運んでるんだろう。


ブランですら置いてきたんだ。

この子たちを連れて行くのは無理だ。


うん、仕方ない。

仕方ないけど・・・せめて、置き土産くらいしてもいいでしょ!


手を前に出して、思い浮かべる。

何をって?そりゃもちろん、女の子ならみんな大好きな、赤くて可愛くてあま~いアレに決まってる!

荷馬車の固い木の床から、ニョキニョキと芽が出てきた。


「え、なに?!なんなの?!」


美人さんはビックリしても美人だねえ。

見る見るうちに葉が広がり、花が咲き、真っ赤に熟れた苺が床いっぱいに広がった。


「食べていいよ!お肌にもいいから!」


ぴょんと荷馬車から飛び降りる。

かっこよく飛び降りたつもりだったけど、ちょっとコケちゃった。


これで前に乗ってる奴隷商が私が居なくなったことに気が付いても、苺に気を取られてすぐには探しに来れないはず。


森に向かって走りながら後ろを見たら、みんな夢中で食べてるみたい。

良かった!


森に飛び込むと、周りの木を見ながら手を出す。

木を隠すなら森の中って言うでしょ?

あれ?違う?


足元から出てきた木の枝に手の縄を引っ掛けて、そのまま上にグンっと持ち上げられる。

うわ〜!た〜のし〜い!木の高さは、森の木々よりちょっとだけ高めに!


上から見て、向かう方向だけでも決めようと思ったんだよね。

それにしばらくここに居れば、小娘一人居なくなったってずっと探しはしないでしょ?


しかし広い森だなぁ〜。

上から見ると、結構葉っぱも茂ってるね。


馬車の向かってる方向は森の外にも道が続いてて、遠くに建物らしき物がうっすら見える。気がする。

で、右側には大きな山・・・山脈?雪が積もってて、水墨画みたい。

後ろはダメ親がいる方向だしナシ!

左側の森の中には屋根が・・・屋根?屋根だ。あれは家だね。


ほほ〜ん?

いいね!

とりあえず今日寝る場所が欲しかったのよね。

木の上でもいいんだけど、寝ぼけて落ちちゃうかもしれないし。

よし、日が傾いてきたら行動だ。


まずは今日の寝床、確保してやろうじゃないの。

アドバイスをいただいたので、読みやすいように行間を開けてみました。

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