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緑の手のキトル〜極貧で売りに出されたけど、前世の知識もあるから全然生きていけます〜  作者: 斉藤りた
アルカニア王国編

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エピソード 29

一件落着、まだだったわ。


ブランの件が片付いてないし。


王様は他国の外交官兼大神官による集団催眠未遂とナントカ侯爵による元伯爵毒殺未遂の処理に追われてるし、公爵様もその補佐だか手伝いだかに追われている。


でもセリオスさんは聞いてもない事まで自分から喋るほど協力的らしいし、早めに終わりそう、とは言ってた。


かといって、私とナイトとヘブンだけでブラン候補の人たちと会わせる訳にもいかないらしく、何故か本人の強い希望で、宰相さんと騎士数名が同席することになった。


公爵様曰く「公平で厳格で正義感が強く、自分にも人にも厳しいが、その分信頼に値する人」らしいけど・・・。


「キ・・・キトル様とお呼びしても・・・?!」


「え?あ、はい、いいですよ?」


目の前にいる長いお髭の魔法使いのおじいちゃんみたいな人は、何故かガッチガチに固まっている。


「ええっと、宰相さん?」


胸の辺りを抑えて目をつぶったんだけど・・・何これ?


「ふ〜・・・失礼しました。レオンハルト・ド・クローヴァンと申します」


「あ~すいません、キトル様は名前覚えるの苦手みたいで。短くて呼びやすいお名前か役職名の方がいいかもしれないっす」


お、ナイト、ナイスパス。


ナイトパス。


なんか違うな。


「でしたら、レオン、でもいいですし・・・も、もうこんな歳ですのでじいさん、と呼んでいただいても」


「あ、じゃあレオンおじいちゃん!な〜んて、」


もし緊張してるなら楽にしてくれるといいな~と思って、冗談めかして言ったら


「ぐはっ!」


と殴られたボクサーさながらに後ろに倒れこんだ。


「・・・なんか察しがつきました」


とナイトが助け起こして小声で何か話し、戻ってきた。


「宰相様、あまり関わりが無いけど子供と動物が大好きなんですって」


あ~・・・なるほど・・・?


またなんかキャラの濃い人だなぁ。




通されたのは大人数用の応接室?会議室?みたいな部屋。


さすが王城、いっぱい部屋があるのね~。


部屋に入ると正面にソファがあり、そこに私と宰相さん、ナイトはソファの後ろに立つ。


ちなみに子犬型ヘブンはレオンおじいちゃんの膝の上。


宰相さんが喜びでプルプル震えてるのは気になるけど、ヘブン的におじいちゃんは良い匂いがするらしい。


犬は自分の事を好きな人が分かるって言うけど、そんな感じなのかな?


ドアがノックされ、ドアの前に立った騎士さんが口を開く。


「お呼びするのは、ブランという名を持つ十歳前後で茶色の癖っ毛、頬にそばかすのある男児、という条件に当てはまっていた子供達になります」


達って、そんなに当てはまってる子が居たの?


騎士さんがガチャリとドアを開け・・・


「キトル!!」


「兄さん!!」


一番目に入ってきたブランに駆け寄り、飛びついた。


「キトル、大丈夫だった?!あぁ、腕も身体もこんなに大きくなって・・・顔も、ふっくらして元気そうだ・・・良かった・・・」


涙目で頭をなでてくれる。


「兄さんこそ、よく逃げ出せたね!」


「キトルに貰ったジャガイモがあったから、あれを売って逃げようと思って。次の日の夜のうちに森まで逃げて、明るくなったら街道に出て、ずっと歩いてたんだ。そしたら優しい商人の人が声をかけてくれて・・・ちょうど王都まで行く予定だって言うから、ここまで乗せてもらったんだ」


「そっか、兄さんが優しいから、いい人に会えたんだね」


「ただ・・・ごめん、キトルに貰ったジャガイモ全部お礼にあげちゃったんだ・・・」


「いいよいいよ!そんな事!兄さんと無事に会えたんだもん。いくらでも作ってあげるよ!」


ブランの両手が顔を包み込む。


「キトル、ホントに緑の使い手様になったんだね・・・大丈夫?辛い事や嫌な目に遭ったりしてない?」


涙がいくつもそばかすの上を流れていく。


「ふふふ。大丈夫だよ。兄さんってば泣き虫なの治ってないんだね」


「しょうがないじゃん、そんなにすぐに治らないよ・・・」


涙をぬぐうブランに、こっちまで涙目になる。


「んぐぅっ・・・ぐぅっ・・ずずっ・・・」


異様な声に後ろを向くと、宰相さんがとんでもなく大泣きしてる。


「良かった・・・良かったのぅ、キトルしゃま・・・」


あまりの泣きっぷりにちょっと引いてたら、ブランが声をかけた。


「だ、大丈夫ですか・・・?」


「ふぬぅっ・・・いい子じゃ・・・優しいお兄ちゃんじゃ・・・」


あ~あ、もっと泣いちゃった。


ん?宰相さんの泣きっぷりに目が行ってたけど、よく見るとナイトも泣いてる。


私の目線に気付いたのか


「こんなの仕方ないじゃないっすか・・・」


って腕で顔を隠してるナイト、か~わいい~。


んふふ。こういう、嬉しい涙はいくら流してもいいよね。


ヘブンだけはよくわかってなさそうにみんなの顔を見比べてたけど、尻尾をブンブン振ってた。




「じゃあ、子犬に見えるけど、本当は大きなフェンリル様なんですね」


「そうですっ!フェンリルさま、だなんて!さすがキトルさまのお兄さま、よくわかってらっしゃる!」


両方の前足を持ってもらって、胸を張るヘブン。


あの後ブラン候補の子たちは、親がいる子にはお詫びにいくつかのフルーツの苗を渡して帰し、親がいないか親元に帰りたくない子には公爵家と王家からの寄付金と一緒に孤児院へ行ってもらった。


「ナイト様も、キトルを守っていただきありがとうございます」


「いや、キトル様のお兄さんですんで、俺に様付けなんていらないっすよ」


「でも、年上の方ですし・・・じゃあ、ナイトさん」


「そうっすね、気軽に呼んでもらえたら」


おぉ、ナイトが兄貴風吹かしてる。


と、ゴホン!っと宰相さんが大きく咳払い。


「ブラン君はこれからどうするのじゃ?キトル様は前回の使徒様の文献などを調べられると聞いておるが、そのあとは旅に出られるのじゃろう?一緒に行くのかの?」


そうだった、ブランに会えたのは嬉しいけど、どうしよう。


「一緒に行くのならお守りしますよ。キトル様は俺より強いでしょうし?」


「まぁ嫌だ、こんなか弱い少女に何て事を!」


手で口を押えて小指を立てて見せる。


「大神官サマを締め上げてたじゃないっすか」


「締め上げてません~!巻いただけですぅ~!」


「いっ!一緒に行きたい!気持ちは、ある、んですけど・・・」


どうでもいいやり取りをブランが遮ってくれた。


「でも、足手まといになるのは嫌です・・・。僕は体も小さいし、ここではご飯も頂けてますけど、これまでそんなに食べてなかったから、沢山歩いたり、戦う事もまだ出来ないし、いざという時にキトルの盾にもなれない・・・」


いやいやいやいや盾になんてならないで?!盾くらい作れるよ?!


「一緒に行けば、守ってもらうだけのお荷物になってしまいます。だから、僕の事は置いて行って?」


最後は私の目を見て言った。


「兄さん、兄さんが決めたなら、わかった。でも、やっぱり心配しちゃうから出来る限りの事はさせて?」


「大丈夫だよ。どこか、王都の城壁の外とか空いてる場所を借りて、そこで畑でも作りながらキトルが帰るのを待」


「そんなことはさせ~んっ!!」」


突然宰相さんが両手を上げ大声を出して飛び上がった。


「うわぁ!何?!」


「妹思いの優しいブラン君に、そんなことなど絶対にさせぬ!ワシが許さん!!」


「はっ?!」


「ブラン君!ワシの家に来なさい!君さえ良ければワシの息子にでも養子にでも何にでもしよう!ワシは妻も子供もおらぬ!君が来てくれれば、こんなに嬉しい事はない!」


つ、強火だ・・・。


「で、でも、そんな、貴族様のお屋敷にお邪魔するなんて・・・」


「でもじゃないっ!君はワシの家で、美味しいご飯を食べて、沢山勉強して、キトル様の帰りを待つのは嫌かっ?!」


「そ、そんな!嫌なわけがないですっ!」


つられてブランまで声が大きくなってるんだけど。


「なら決まりじゃ!ブラン君はワシの子じゃ~!」


「「違いますけどっ?!」」


全員で突っ込んだけど、宰相さんは小躍りしてる。


・・・まぁ悪い人では無さそうだし、いいんじゃないの?

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