エピソード 28
「話をして、毒とは言え土産として木の実を渡しただけでは罪には問えませんな、残念ながら」
う~ん、やっぱりそうか。
王様たちに公爵が報告に行ってナントカ侯爵を捕らえたけど、結局大神官は裁けないらしい。
しかもそのナントカ侯爵も「貴族から奴隷に身を落とした哀れな友人を思い、せめて楽にしてやろうと思った」な~んて話してるらしい。ホントかよ。
公爵様が帰ってくるまで大人しく床に座っていた大神官が口を開いた。
「・・・使徒様のお怒りに触れ、神の力をこの身に受け、わたくしは自分の浅はかさを思い知りました。神の力を使おうなどと、何故そんな思いあがった考えを持っていたのでしょう。全ての罪を」
「あ~、いい、いい、そういうのは良いからさ」
「し、しかし・・・せめてわたくしが行った事への罰は受けねば」
「それよりさ、あの鉢植えはセラ・・・え~・・・セラスカ・セラスアさん?」
「セリオス・セラフィアでございます」
「え~っと、セリオスさん」
「はいっ!」
超イケメンの「名前を呼んでもらえた」ってキラキラの瞳と、ナイトの「また名前忘れたな」ってスナギツネみたいな目の温度差がすごいな~。
「あの鉢植えは、セリオスさんが準備したんですよね?」
「・・・そうです。我が国にあなた様の顕現が知らされた時、大神殿ではどうやってあなた様をお迎えすればよいのか連日話し合いが行われました。前回の緑の使徒様はこの国の王族に拐かわされこの地に根を下ろし、世界を長く続く平和へと導くことが出来ませんでした。その為、わたくし共は今度の使徒様こそは、と必死だったのです」
あれ?違くない?
「前の使徒様って、一応最後の国の安全が確認されたら行くつもりだったんでしょ?」
「そのようにこの国からは伝えられておりましたが、我が聖神国ではアルカニア王国の王族が国の繁栄の為に使徒様を伴侶とし、子をもうけた言い訳だと考えられております」
あ~・・・まぁそういう見方も出来るっちゃ出来るよね・・・。
「そのため、今回の使徒様には世界の為に必ず力を使っていただかなくてはと思い、前の使徒様に頂いた木や花の種を植えた鉢を道に置き、使徒様に会うためにあの者たちには偽装者となっていただいた次第です」
「・・・あの青い菊の花は、あなたが咲かせたんですよね?あれは何なんですか?」
一番気になっていた事。あの青い菊は何だったんだろう。
「使徒様にはやはりお見通しでしたか・・・あの花は聖神力と呼ばれる魔力を注ぐと青い花を咲かせ、願った効果を出すように、前の使徒様の花の種を我々で改良したものです。今回は催眠の効果を出し、寝ている間にあなた様を我が国へとお連れするつもりでしたが・・・我々の力が及ばぬほどの高みにいらっしゃるお方に出来る事など何もないという事を痛感いたしました」
こっわぁ!誘拐されそうになってたって事?!あっぶなぁ~。
気が付いて良かったぁ~。
「キトル様・・・一発殴ってもいいっすか?」
バイオレ~ンスッ!お止め、ナイト。
「やっぱりそうだったんですね!前の使徒様はあんな色の花、咲かせてませんでしたから!」
ヘブンは真っ先に寝ちゃいそうだなぁ~そんな君も可愛いけども。
「あなた様は・・・前の使徒様の事をご存じで?」
可愛い子犬が喋り出したので驚いてる。
「えぇえぇ!!もちろんですっ!ワタクシは前の使徒様と一緒に旅をし、キトル様のお手伝いをするよう申し付かったフェンリルですから!」
前足を胸に当ててどや顔する子犬ヘブンは愛らしさ100%だな~。
「さっきの話ですけど、前の使徒様は自分から望んで結婚されてましたよ?お役目を果たしてから〜って断られてもめげない姿はカッコよかったです!」
なかなかアグレッシブな人だったのね。
押せ押せで結婚までしたのは確かにカッコいいな。
「そうでしたか・・・我々は最初から間違えていたのですね・・・」
「まぁ、そうですね。でも、間違えたならちゃんと謝って、次は間違えないように正せばいいんじゃないんですか?幸い取り返しのつかないような被害はないですし、あの夫婦に謝る時は一緒に行ってあげますよ」
やめてやめて、そのなんかキラキラした目でこっちを見るのはやめて。
「使徒様、いえ、キトル様。キトル様はもしかすると、神の使いではなく神の代理として遣わされた聖女様では・・・?」
「いえ、違いま」
「きっとそうに違いありません!その後光が差したお姿、海より深く山より大きな仁愛の御心、雲よりはるか高みから見下ろすかのような鳥瞰した目線、そしてその包み込むような寛大な御心・・・!」
心って二回言ったぞ。
それに後光は窓を背にしてるからだよ?
「聖女様、わたくしは今日までのわたくしとは決別いたします。全てはあなた様の為に、この命を捧げる事を神に誓いましょう」
そう言うと、また胸の前で腕をバッテンにして、今度は両ひざをついておでこを床に付ける。
「な、何してるんですか・・・?土下座・・・?」
「ほう、これは確か聖神国の教義での最大限の敬礼ですな。神官に至っては、神の像に向かった時にしかこのポーズはしないとか」
口髭を触りながら面白そうに言う公爵様。
「キトル様・・・ついに聖女になったんすね」
ナイト、ニヤニヤするんじゃない。
「さすがはワタクシのキトルさまですねっ!」
ヘブンは・・・まぁいいや。
「頭を上げてください、セラスカさん」
「セリオスさんっすよ」
「セリオスさん」
「はいっ!」
あ~あ、イケメンのおでこに変な跡が付いちゃってるじゃん。
「とりあえず王様に報告と、未遂だけど大勢を眠らせようとしたのはこの国の法に任せますね。私に対してはもう別にいいです。どうにかしようとしても出来ないのはわかってもらえたと思うんで」
「もちろんですっ!ではさっそく」
「あと!」
立ち上がりかけたセリオスさんがさっと正座する。
「そっちの国にも、連絡してください。余計な事したら、ホントに怒るよ?って」
目を見ながら笑いかけると、ひゅうっと息を吸い込むセリオスさん。
「も、もちろんですっ!必ず、聖女様のお邪魔をしないよう、重々厳しく伝えておきますっ!」
ちょっと。なんで公爵も怖がってるのよ。バラのとげでも思い出したのか?
「それと、もう一つ」
「は、はいっ!」
そんなに怖がらなくても。
「聖女様はやめてください。使徒様ってのも何かしっくりこなくて・・・。キトル、でいいですから」
「はいっ・・・はい!キトル様っ!」
「あ~あ、また信者が増えた~・・・」
またって何よ、またって。
銀髪ロン毛美形の他に、こんな人いたっけ?
ナイトのつぶやきはともかく、これで一件落着、としようじゃないの!




