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緑の手のキトル〜極貧で売りに出されたけど、前世の知識もあるから全然生きていけます〜  作者: 斉藤りた
アルカニア王国編

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エピソード 27

「死んでないっすよ、まだ」


金色の檻に入ったナイトが、伯爵と代官の首に手を当てて脈を診た後冷静に告げる。


なんだ、伯爵死んでないのか~。良かった~。


あ、もう元、か。


なんと、いまだに痩せられず金色の檻に入ったままだった元伯爵たちは、万が一に備えて金色の檻ごと牢に入れられていたらしい。


で、その中で泡吹いて倒れたもんだから見張りの塀が慌てて様子を見るものの、金色の檻の中には入れず、上司に相談したら製作者の私がいるじゃん!って事で急いで報告に来たって訳。


急いで地下牢まで来て、檻を私が壊し、ナイトが様子を見に中に入ったのだ。


っていうか見張りの兵士さん、そのごっつい鎧を脱げば多分君は中に入れたぞ・・・?


「種類まではわからないですけど、泡吹いてるし多分毒系っすね。息もかろうじてしてます。このまま放置すれば明日にはもう死んでますよ」


おいおいそんな死にかけの人目の前にして・・・。


「ナイトってばなんでそんな冷静なのよ」


「だってこいつらがキトル様に何しようとしたか考えれば仕方なくないっすか?」


「私はそんな子に育てた覚えはありませんよっ!」


「育てられた覚えもないっす!」


まったく、ナイトには今度ノリ突っ込みくらい教えてあげないとな~。


しょうもないやり取りをしながら、牢屋の中に小さな草を生やす。


「はい、ナイト」


「あぁこれっすね」


しずく型の実を渡されたナイトはそのまま元伯爵の鼻に突っ込んだ。


背後がざわつく。


様子を見に付いて来た王様や公爵様たち、あと何故か一緒について来た大神官さんだ。


「キトル様、それはいったい何を・・・」


「解毒薬です。泡吹いてたら薬飲めないでしょ?」


続けて新しい実を手にしたナイトが元代官の鼻に突っ込む。


「あのような・・・いや、しかし・・・これは画期的な・・・」


と王様たちの後ろにいる、黒いマントを羽織った人たちが喋ってる。


やっぱり研究員の人たちなのかな?


「これで数日寝かせときゃ回復するはずで」


「ゲエッホ!ゲエッホ!・・・グウ~・・・スピ〜」


「・・・なんか明日には元気になってそうっすね」


ホントにね。


牢から出て来た所で、


「緑の使徒様は・・・何故その者たちを治したのですか?」


大神官さんが呟いた。


「なんでって・・・なんでですか?」


「その者たちは、あなた様の御身を汚そうとしたのでしょう?神の使いを我が物にしようとするなど、許されることではありません」


「・・・場所を移しましょうか」


話をするにしても、地下牢じゃちょっとねぇ。


王様に声をかけ、さっきの部屋より狭い応接室を借りる。


おぉ、この部屋はさっきの所より家具が豪華だね。ソファの手すりも綺麗な装飾がしてあるし、ふっかふか。


ヘブンは早速私の横でふかふかソファに座り込んでいる。


王様は、元伯爵が最後に会ったナントカ侯爵を尋問する必要があるとかで忙しいらしい。


まぁ毒は持ち込まれた物だろうし、一番怪しいよね。


ただ、国内で緑の使徒に万が一のことがあってはいけないから、と公爵様も同席した。


「で、何でしたっけ?」


「使徒様、やはり我が国へお越しください」


またその話か~い。


「このような場所で御身を危険に晒すなどもってのほかです。あなた様に何かあれば、神の意志は、世界は、救われません」


「ん~・・・もし、そっちの国に行ったとして、どうなるんですか?」


大神官さんの顔がパァッと輝く。


くそぅ、超美形の破壊力すごいな。


「もちろん、大切に大切に保護させていただき、使徒様のお手を煩わせるようなことは何も無くなります。神から賜った力も、わたくし共が考え必要な場所で必要な時にだけ使わせていただきますので、使徒様は何も考えず全て任せて頂くだけで」


「使わせていただく?」


「えぇ、えぇ。神の力は神の子である我々が一番正しく使えましょう。ですから使徒様は何も心配することな」


「だからでしょうね。あなた達の所に緑の使徒が現れなかったのは」


「・・・何とおっしゃいました?」


温厚なキトルちゃんもさすがにイラついたぞ?


大神官さん、いや、こんな奴にさん付けはいらないな。


大神官は眉間にしわを寄せて私が口を開くのを待っている。


ヘブンが私の空気が変わったのに気がついたのか、起き上がり大神官に向かって唸りだした。


私が手を置いている、ソファの立派な装飾が施された木の手すりから芽が出て枝が伸び、大神官の周りをグルグルと隙間を開けて包み込む。


「し、使徒様、これは・・・」


「私は神様から力をもらって代わりにお使いを頼まれたんでしょう?」


「お、お使い?」


「で、あなた達は神様の何だっけ?」


「わたくし共は神のしもべです。ですから、あなた様の手を煩わせる事のないように」


「私が!私の力を使うのをっ!邪魔するんじゃないっ!」


手を握りしめると、大神官に巻き付いた枝もギュ〜っと締まる。


「んぐっ・・・」


「使わせてもらうって何?!神様のしもべが、神様の力を勝手に使おうとしてるっておかしいと思わないの?!そんな偉そうな考えだから、神様はあなた達にはお願いしなかったんでしょうねっ!」


ナイトの手が、私の握りしめた拳に重なる。


「キトル様、手、緩めてやって下さい」


「・・・ごめん、ありがと」


手を開くと、枝が千切れてパラパラと床に落ち、大神官は床に倒れ込んで大きく息を吸う。


「この力は、私のものです。突然使えなくなるかもしれないけど、それまでは私が私の判断で使います。もし神様なんてのがいるのなら、そうして欲しくて預けたのだと思うから」


「し、使徒様・・・」


「神のしもべと言いながら神の力を好きに使おうとするその性根、子供なら上手く隠せると思いました?」


「そんな事は・・・!」


「伯しゃ、元伯爵もあなたのしわざですよね?」


「何だとっ?!」


黙っていた公爵様が声を上げる。


「・・・わたくしは何もしておりません。ただ、神の使いに手を出そうとした報いを受けるべきだ、と侯爵に話をし、毒の実は渡しましたが、それだけです」


ほぼ自白じゃん。

でもそれだけじゃ罪には問えないのか?


息を整えた大神官が床に座り直す。


「使徒様は何故お分かりに?」


「さっき言ってたでしょう?その身を汚そうとしたとか何とか。あの時ナイトはそこまで言ってないのに、知らないはずのあなたがそれを知っていたからです!」


ズバン!っと大神官を指差す。


フフン。決まったぜ!


「・・・いえ、それはこちらに来た時に使用人の方から聞きましたので・・・」


何ぃっ?!


「そうですな、伯爵家取り潰しの話は王都内で大変噂になりましたから、知らない方が珍しいでしょう」


こ、公爵様までっ!


「あれれぇ〜?キトル様ぁ?」


「うっうるさいっ!結果オーライでしょっ!」


「キトルさま!大丈夫ですよっ!ワタクシもわかりませんでしたからっ!」


ヘブンのブンブン振られた尻尾が脚に当たる。


くそぉ〜!


推理なんてもうやらないもん!


探偵役は、ナイトに任せようじゃないのっ!

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