エピソード 25
「すまないな。キトル様の事を疑っているわけではないのだが、聖神国の大神官が従者、また国の使者として一緒に来てしまった為、無下には出来なくてな」
裏手に止めた馬車からこっそりお城に入り、王様に会うとと早々に謝られた。
「国としての立場もあるでしょうし、今のところ実害はないんで大丈夫ですよ。しかしまた、大神官?が従者になってるんですね」
「大神官は各国との外交官も兼ねていてな。神務布教、いわゆる布教の途中で聖神な気配を感じてキトルを見つけた、というのがあちらの言い分だ」
聖神国。正式名称はセラフィア聖神国。あれ?セラティアだっけ?
お花の形の大陸で見ると、今いるのが五枚の花びらの左下のアルカニア王国。聖神国はその左側、西側の花びらに位置する国。
私の生まれたボロ家がある所の近くだよね。
つまり、ナイトが前に言ってた奴隷がダメな国は聖神国の事。
まぁ奴隷なんて容認してたら聖神じゃないしね。
ちなみに反対側、アルカニア王国の東側の花びらにはバラグルン共和国。ここは東から吹く熱風のせいで緑が元々少なく、それに適応したサボテンとかが多くて、住んでいるのはドワーフという人種らしい。
私のイメージするドワーフと一緒かしら・・・。
あとその隣が・・・地図を広げて教えてもらった時の事を思い出してたら、ナイトの声で現実に引き戻された。
「どうやって偽物だって証明するんですか?」
ナイト、眉間にしわが寄ってる。そんなに怒んなくても良いのに〜。
「それがなぁ。向こうが偽物でないと証明する!と民衆の前で証明することを提案しておってな・・・」
あらまぁ。
「はぁ?!何か企んでるんじゃないんすか?」
「だが、国民の目がある所でならば余計なことは出来まい。王城の密室で罪を認めさせても、国民の中に広がった疑心はキトル様の旅の障害にもなりえるからな。検討する、と言ってはいるが、受けようかと思っておる」
「そうっすね!大勢の前で恥かかせてやりましょう!」
何を張り切ってるんだ。
「ワタクシがいるんですから、キトル様は正真正銘の本物ですしね!」
ナイトに抱えられたまま尻尾ブンブンなヘブン君は今日も癒し担当。
「そういえば、兄さんを名乗る人も何人かいるって聞いたんですけど」
「おぉ、そうだな、その者たちにもひとまず客室にて待ってもらっているのだが・・・ちなみにキトル様の兄君というのは何歳なのだ?」
「十歳ですけど、誕生日を祝ってもらった事が無いんでもしかしたら十一になってるかも。でも栄養が足りてないと思うんで、人によってはもう少し下に見えるかもしれないです」
「・・・という事は、半数は年齢的にも確実に違うな」
王様が後ろに控える従者?使用人?の人に何か伝える。
「何歳くらいの人が来てたんですか?」
「一番年上だと、ワシと同じくらいだな」
「・・・公爵様?どんな指名手配の仕方したんですか?」
離れたところで座っていた公爵様がビクッとする。
「し、指名手配とは・・・」
「どんな言い回しで探そうとしてたんですか?!」
「み、緑の使徒様が見つかったがブランという名を持つ兄君が行方不明なので、心当たりのある者は名乗り出るように、と・・・」
それじゃブランって名前の人はみんな名乗り出るのでは?
もしかしたら知らない妹がいるのかも?!って思っちゃうかもしれないじゃん。
「ナイト、ブランって名前は珍しいの?」
「多くはないですけど、珍しいってほどでもないです」
「公爵様、私言いましたよね?!パールお姉ちゃんと同じくらいだって!」
「忘れていたんだ!申し訳ない!」
んも~!
「王様、ブランって名前で、十歳前後で、茶色の癖っ毛、頬にそばかすのある素直で優しい子以外は外してください」
「素直で優しいは難しいが、それ以外は伝えておこう」
すぐに伝えられた人が部屋の外に出る。
「お兄さんの方も問題ですけど、それよりキトル様の偽物っすよ。どうやって木を生やしたんですかね?」
ナイトはとにかく私の偽物が許せないらしい。
「それなのだが、王城に来ていたドレイク侯爵も見ていたらしく、あやつが王城へ招き入れたのだ」
また新しい名前が出てきたな・・・覚えられる気がしないぞ。
「ルシオ・ドレイク侯爵ですか・・・確か彼はドルムンタ伯爵とも親しくしていましたな」
ふうん?じゃあ悪い奴っぽいな。
「キトル様、顔に出てますよ」
ナイトは人の表情読むのが上手くなってないかい?
「あやつの城訪も、旧交のある伯爵への最後の挨拶という名目であったからのう・・・親交のある伯爵が失爵し、新しい人脈を求めていたのかもしれぬが、まさか使徒様を名乗る者と遭遇するとは」
「まぁどっちでもいいですよ。みんなの前で、花咲かせればいいんでしょ?簡単簡単!」
「な~んて、言うんじゃなかったな~・・・」
今私がいるのは、王城前の広場に作られた大きな野外ステージみたいなのの舞台袖。
舞台の反対側には王様とか公爵様とか、貴族の偉い人たちが特別席っぽいところに座ってる。
私のイメージとしてはさ、ちょっとした広場で花でも咲かせて、近くにいる子供にお花あげて喜ばれちゃったりして、それを見た偽物はごめんなさ~いって言いながら逃げてく感じだったのよ。
それが何?この大舞台と大観衆。
子供にお花なんて届かないし、偽物も逃げるに逃げられないわ。舞台の周り、めっちゃ騎士いるし!
は~ヤバい、ちょっとドキドキしてきた。
「あれ?キトル様、まさか緊張してるんすか?」
「・・・逆に何でナイトは平気なのよ」
「俺は付属品っすもん。多分誰も見てないっすよ」
「ワタクシも平気です!人の目なんて気になりません!」
そりゃ子犬に見えるフェンリルはみんな気にしないだろうね。
「向こうの従者さん、立派な神官らしいから比較する人はいるんじゃない?」
「まぁ俺は近くにいるだけですし?キトル様頑張ってぇ~」
むっかつくぅ~!
でも、おかげでちょっと緊張が取れたわ。
「きゃあ~!!」
突然、舞台の方から大歓声、というか黄色い声援?
そっと覗いてみると、十代後半の男の子と女の子、それに真っ白な服に身を包んだ銀髪のロン毛の男性。
あの白装束みたいなのが神官か。
ってか、私とブランの偽物より神官の方が人気ない?
手とか降っちゃって、そのたびに黄色い悲鳴が上がってる。
あ、こっち向い・・・
・・・ひゃあ~・・・
・・・あれは悲鳴も上がるわ。
もんのすっごいイケメン!中性的で、女装したら世紀の美女が爆誕しそう。
「は~あんな綺麗な人がいるんだねぇ・・・」
あら、ナイトってばあからさまにムッとしちゃってぇ。
イケメン神官が両手を交差させて肩の前に置き、膝をついて下を向くと、残念そうな声が観客から漏れる。
偽物さん、ちょっと可哀想に。
ブラン役の子が抱えてる大きめの植木鉢を舞台の真ん中に置くと、キトル役の女の子がその上に手をかざす。
すると、スルスルスルっと芽が出て葉が増え枝が伸び、大きな大きな菊っぽい真っ青な花が一輪咲いた。
「あ!あの花、見た事あります!前の使徒様の・・・」
ヘブンの声が遠くなる。
・・・ダメだ、あの花はダメだ。
全身に鳥肌が立ち、頭の中で警告音がなってる。
あれは、違う!
何が違うのかも分からないけど、とにかくあの花は、なんかダメだ。
私が何とかしなきゃ。
手を伸ばすが、花の主導権が握れない感覚。操れる気がしない。
もう少し、近づけば・・・
捕まえた!
ぐっと手を握り締め、力を抜くようにふっと開く。
同時に、真っ青だった菊の花がパっと一瞬で真っ白な菊に変わった。
ふ~っと大きく息を吐く。
これで、大丈夫・・・
「キトル様・・・?」
ちょっと離れたところから、ナイトの声。
あれ?
我に返って周りを見ると、舞台の中心に向かってに三分の二くらい歩いてきちゃってる。
え?!何これ?!
私、もしかして、何かやっちまったんじゃないの?!




