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緑の手のキトル〜極貧で売りに出されたけど、前世の知識もあるから全然生きていけます〜  作者: 斉藤りた
アルカニア王国編

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エピソード 24

「忘れ物はないですわね?!」


腰に手を当てたパールちゃんが馬車の前で荷物の確認をしている。


「パールお姉ちゃん・・・王都に寄ったあとは馬車使わないから、そんなに荷物いらないよ~」


昨日から一緒に行かないパールちゃんが何故か荷物を増やし続けてる。


そりゃあ王都は貴族や商人なんかの裕福な人が多い上に、王城に出向くわけだし?


多少は小綺麗にしなきゃってのはわかるよ?TPO的な?


でもさ、パールちゃんのおさがりのドレス、十着以上は絶対いらないと思うんだよねぇ。


しかも荷物になるし。


「だ・か・ら!荷物があってもいいように教えたでしょう?!王都に着いたら、まずどこに行くんでしたっ?!」


「ダンデ公爵家のタウンハウスでしょう~?」


そんな長居するつもりもないから王城にでも泊めてもらおうかと思ったら青くなったナイトに大反対され、じゃあ適当な宿か王都の外で野宿でもって言ったらルビィさんが大騒ぎして、結局公爵家のタウンハウスをお借りすることになった。


「違いますわっ!私が言ってるのはそのあとの事です!」


え~違うのぉ?じゃあ・・・


「何とかって通りの何とかって言うカバン屋さん」


「ロキシナム通りのメイカキッサ工房ですわ!!」


そうそう、そこで魔法カバンっていう、サイズ無視で大量に収納出来るカバンを買えって言ってたんだよね~。


つまり、いっぱいの荷物を旅に持って行けって事らしい。


保存肉を運んでいたナイトがひょいっと口を挟む。


「パール様、俺が覚えてるんで大丈夫っすよ」


「よろしくお願いしますわ。キトルちゃん、全然覚える気がないんですもの!」


だってさぁ・・・


「王都を出たらドレスなんてそんなにいらないし、動きやすい服が数枚あればよくない?」


「淑女がそんなのでいい訳ないでしょうっ?!」


ドカ~ン!って頭から煙出してる気がする。


も~昨日からこの調子。


「私の妹が、そんな生活してるだなんて耐えられませんわ・・・」


んで、こう言われると弱いんだよねぇ。


「わかったよぅ・・・でも、そんなにドレスは持って行かないからね?」


「せめて三着は持って行ってくださいね?他国にも行くのなら、王族に面会する機会もあるでしょうし」


「いやぁ・・・ないない。こっそり行って、こっそり草生やして、こっそり次の国に行くよ」


「無理ですわ」


「それは無理っすね」


「無理だな」


いつの間にか後ろに立ってた公爵にまで否定される。


「やっぱり私もお父様と一緒に行こうかしら・・・せめて王都までだけでも」


公爵様はお仕事があるらしくて一緒に行くんだってさ。


「ダメだ。パールは入学までもう時間がないだろう?」


そうそう。今十歳のパールちゃんは半年後から王都にある学校に四年間通うので、それまでに最低限の教養やマナーなどの科目で家庭教師に合格をもらわないといけないらしい。


美少女に、そんな淋しそうな顔されちゃ敵わないなぁ~。


「ちゃんと三着、おさがりのドレス持っていくからさ」


「・・・王都で動きやすい服もオーダーで十着・・・」


「五着、作って持っていきます」


両手を上げて降参ポーズを取ると、これが限界か、と言わんばかりの顔でや~っと妥協してくれた。


「あとね、キトルちゃん・・・」


すすすと横に来て小声になる。


「あの従者とフェンリル様、大事にしてさしあげてね?キトルちゃんが起きなかった時、二人とも絶対にキトルちゃんのそばから離れなかったのよ?」


あらま・・・本当に心配かけちゃってたんだね。


ん?でも・・・


「起きた時、部屋には誰もいなかったよ?」


「ワタクシが言いましたもの!淑女の寝顔を見ながら待つなんて、紳士の振舞いじゃありませんわ!」


ぷはっ!さすが淑女の鏡。


だから部屋の前で寝てたのか~。


起きてすぐ気が付くようにあんなところに居たんだね。


仕方ない、気軽にレベルアップしようとするのはやめておくか。


「あともう一つ・・・」


ん?まだ何かあるの?


パールちゃんの顔がさらに近くなる。


う~ん、ルビィさんとは違う、柔らかで愛らしい香り。


「・・・第二王子にお会いしても、好きになっちゃダメですわよ?」


パールちゃんの顔を見ると、真っ赤になって目を逸らしてる。


んも~!可愛いんだからっ!




「あぁ~~~っ!!」


パールちゃんやルビィさんたちに別れを告げて、馬車に揺られながら三日目。


休憩中に作った小さい花の砂糖菓子と真っ赤な木の実の甘酸っぱい飴玉を酔い止めに食べてたら唐突に思い出した。


「ビックリした・・・何すか、いきなり」


手に持ってた飴玉を落としそうになって、慌ててキャッチしたナイトが聞く。


「見てない!ヘブンの小さい頃の絵!」


「・・・あ~そういえば・・・」


夢中でお花を食べてたヘブンも顔を上げる。


「そんなことも言ってましたねぇ。忘れてました~」


「確かに忘れていたな。まぁ、次来た時に見ればいいさ」


公爵が一度上げかけた腰を下ろす。


「次って・・・いつになるかわかりませんよ?」


「いつでも良いさ。順調にいけば、私の次は第二王子が婿入りして公爵家を継ぐ予定だからな。パールはいるだろう」


あらまっ!もうそんな話になってるのね。パールちゃん、心配しなくても良さそうよ。


「それにほら、もうそろそろ王都の壁が見えてくるころだ」


窓を開けて外に頭を出してみる。


はるか向こうに小さな建造物があるのが見える。


まだめっちゃ遠くね・・・?


「今日中には着くだろう。おそらく王都にも緑の使徒様が顕現なされたとの噂は広まっているから、王城に着くまでは顔を出さないようにな」


あ~騒がれちゃうのか~。


アイドルばりに黄色い声援受けちゃうかも?


まぁ仕方ないよね~。


・・・って思ってたんだけど。


窓のカーテンは開けてないのに、王都の中に入ってから聞こえる街の人の声はあんまり歓迎モードじゃなさそう。


ヒソヒソと話す声、たまに聞こえる「またか」とか「何人目だい?」ってなんだ?


訝しんだ公爵様が御者に話を聞いてるけど、ナイトは横でずっとムスッとしてるし。


ヘブンは呑気に寝てるけど。


「すまないな、今話を聞いてきた」


「何だったんすか?緑の使徒様に失礼じゃないんすかね?」


「・・・御者が門番に聞いた話によると、どうも兄君だけじゃなくキトル様の偽物もいるようでな・・・」


ナンダッテー?!


ワタシノニセモノ?!


ニセキトル?!

つまりニセトルか!

・・・似せとる?


いやいや上手い事考えてる場合か。


「そんなの草とか木とか生やさせれば一発でわかるじゃないっすか」


「それがな、セラフィア聖神国の大神官が従者として一緒にいるらしく、見物客がいる前で持っていた鉢入れに木を生やして見せたらしい」


「はっ?!」


ナイトが愕然としてるけど・・・。


「へぇ~じゃあその人も緑の使徒様なんじゃないんですか?」


二人が一緒に振り向いて同じ顔してる。


「緑の使徒様はずっとその時代に一人だけっすよ!」


ナイト、緑の使徒様の事になるとムキになるんだよなぁ~。


「じゃあ今回からは二人なんじゃない?別に何人いたっていいと思うよ?」


「いや、でも・・・」


別にいいじゃないの。ナイト君はまだまだ青いねぇ。


「何人もいたらそれだけ早く世界が豊かになるって事だよ。それはそれでいい事じゃない」


「だが」


公爵様が口を開く。


「緑の使徒さまの兄のブランと名乗る者が公爵家の通達に名乗り出て、妹のキトルと名乗る者がいるのは良いのか?」


「・・・それはちょっといただけないかなぁ?」


流石にそこまで一致する事はないでしょ。


って事は完全に偽物だね。


仕方ない、兄妹の偽物の正体、暴いてあげようじゃないの!

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