エピソード 23
パチッと目を開いた。
「知らない天井だ・・・」
・・・いや知ってるわ。
公爵家で使わせてもらってる客室だわ。
え〜と、何だっけ?
あ〜そうだそうだ、雨の夜のバス停に現れそうなモフモフ巨体の森を作ったんだっけ。
で、力尽きて寝ちゃったんだよね。
あの後ナイト達が運んでくれたのかな?
窓の外はもう暗くなっている。
薄明かりの中、客室の中を見渡しても誰もいない。
今何時だろ。
誰かいないかな・・・。
ベッドから降りてそ〜っとドアを開けると、
ゴン!
「痛って!」
ドアの目の前にナイトとヘブン(小)が寝てて、ナイトの頭にドアが当たった。
「いってぇ・・・キトル様!!大丈夫ですか?!」
「むにゃ・・・キトルしゃま・・・?」
「あぁ、大丈夫だよ!起こさないであげて」
ナイトがヘブンを持ってブンブン振ってたから慌てて止めた。
「ごめんね、疲れて寝ちゃったみたい。今何時?私、どのくらい寝てた?」
「・・・今は夜の十時半っす。三日後の」
「みっか?!」
静かな廊下に声が響く。
響いた声の大きさに慌てて口を塞いで、部屋に入ってもらった。
「そんなに寝てたの?!」
「そうっすよ・・・公爵様は慌てて国王陛下に魔法鳥飛ばすし、ルビィ様とパール様はずっと泣いてて大変だし、公爵家の医者は寝てるだけって言うし・・・ホントにどっかおかしい所とかないっすか?」
「ん〜と」
腕を回したり足首を振ったりしてみる。
「めっちゃ元気!!あ、でも頬っぺたが痛いかも?」
「あぁ、それは俺がつねりました」
「はぁ?」
「いや、だって、あまりにも起きないから、つねったら起きるかと・・・」
おい。心配の仕方よ。
「まぁいいや。お腹空いた〜!もうみんな寝てるよね?」
適当になんか作ろうかな?
「料理長が、起きたら何時でもいいから言えって言ってたんで、伝えてきます。お腹に優しいもの作るからって」
「ホント?!やったぁ」
「・・・呑気っすねぇ」
「仕方ないじゃ〜ん。三日も食べなけりゃお腹も空くよ〜」
困ったように笑ったナイトはヘブンを私の膝に乗せて
「ついでに公爵様にも伝えてきます」
と部屋を後にした。
いや〜スキルアップしたのは良かったんだけど、まさか三日も眠るとは・・・。
膝の上のヘブンがむにゃむにゃと前脚を動かしてる。
可愛いな〜夢の中で走ってるのかな?
「食べていいですかぁ〜・・・」
食べ物の夢かい。
と、バタバタと廊下で音がして、勢いよくドアが開く。
「キトル様!大丈夫ですか?!」
飛び込んできたのは公爵様。
・・・公爵様、寝る時はナイトキャップ派なのね。
せっかくのダンディがコミカルになってるぞ。
「キトル様!もう大丈夫なの?!」
続いて走り込んできたのはルビィさん。
あら〜ネグリジェ姿が色っぽ〜い!
涙目で頬っぺたをペタペタ触られてる。
お風呂上がりかな?いい香り。
「使徒様!お夜食をお持ちしました!」
と料理長、その後ろから執事長やメイドさん達も駆けつけてくる。
いやいやもう遅いんだし、みんな明日でいいよ〜。
いつの間にか部屋に戻ってきてたナイトに
「しっかり心配されて下さい」
って言われちゃった。
嬉しいやら困ったやら。しょうがないね〜。
「パールだけ起こしてもらえませんでしたわ」
次の日の朝、朝食の席でイジけて一人称が私から名前呼びになっちゃってるパールちゃん。可愛い。
あの後、結局お医者さんまで起こして診察してもらって、夜食のパン粥を食べ終わるまでみんな部屋に居たのだ。
「いや〜私が起きたのが遅かったから、ごめんね?」
「別に、キトルちゃんが無事だったからいいですけどっ!」
口を尖らせるパールちゃん、君は何しても可愛いのか?
「パールさん、ワタクシも寝てたから一緒ですねっ!」
ヘブンはなんで嬉しそうなんだ?
「しかし、スキルアップとやらをするとあのようになってしまうとは・・・」
公爵様のお皿には今日も苺が乗ってる。
「無理してレベルアップしようとしたからなのか、レベルアップすると必ずああなってしまうのかわからないんですよね」
料理長特製のトロトロのオムレツをフォークですくう。
これスプーンじゃないと取れないな。
「次やる時は様子を見なが」
「ダメですよ」
私の後ろに立ったナイトが口を挟む。
一緒に食べようって言っても、従者ですから!って人前では同じテーブルで食べないんだよね〜。
「何がダメなの?スプーン?」
「スプ・・・?いや、次また同じ事をしようとするのが、です」
「え?!なんでダメなの?!」
「当たり前じゃないっすか!どれだけ心配したか!」
「それはごめんだけど、スキルが上がった方がいいじゃん!」
「そんな事してたら、いつか本当に倒れたままになりますよ!」
「倒れてないもん!寝てただけだもん!」
「寝床じゃない所で突然寝る事を倒れたって言うんです!」
むむむむむ・・・。
ナイトとにらみ合ってたら、執事長が公爵様に封筒を手渡した。
「二人とも落ち着きなさい。陛下から魔法鳥の返事が来たぞ」
返事?
あぁ、寝ちゃってた時に送ったやつか。
「何て来たんですか?」
「もしかすると王城の地下書庫にある歴代の使徒様に関する蔵書の中に、スキルアップについて何かヒントがあるかもしれない、との事ですな」
「・・・それって探すのが大変なやつでは?それよりは早く各地を回った方がいいで」
「あと、キトル様の兄君と自称されている方が・・・数人いらっしゃっているとか」
「なぬぅ?」
何事だ?
背後からナイトの呆れた声が降ってくる。
「キトル様・・・お兄さん何人かいたんすか?」
ブンブンと首を横に振る。
何人も来てるなら、本物のブラン以外、もしくは全員が偽物って事だね。
「どうします?どちらにせよ王都には前の使徒様の件で行く予定だったんすよね?」
「そうだね、本物のブランが居るかもしれないし。早めに王都に向かおうか」
しかし、ブランの偽物まで現れるだなんて・・・面白い事になってるじゃないの!




