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緑の手のキトル〜極貧で売りに出されたけど、前世の知識もあるから全然生きていけます〜  作者: 斉藤りた
アルカニア王国編

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エピソード 22

「んまっ!これ・・・うんまっ!!」


ナイトの語彙力がまたどっか行ってるなぁ。


「これは・・・私はキウイより好きだな」


公爵様も満足気。


「なんだか懐かしい味ですねぇ。昔食べた事がある気がします〜」


ヘブンは前の使徒様に作ってもらったのかな?


公爵家の母子二人にいたっては無言で食べ続けてる。


ジャガイモの事伝え忘れてたお詫びに作ったのは、今度こそ苺!


一個食べてみたけど、これがまた甘いのなんのって。


綺麗でツヤツヤで大きくて、前世なら高級スーパーで一粒売りされてるようなやつじゃん。


食べた事ないけど。


「はぁ~なんて素晴らしいの・・・。もし毒だと言われても我慢できずに食べちゃいそう」


奥様、苺に毒なんてありませんよ。


「これもキウイと同じく美容にも健康にも良いから大丈夫ですよ」


「・・・お庭にまだスペースはあったかしら?」


「お嬢様が小さい頃に走り回れるようにと作った場所が屋敷の裏に」


「わたくしもう走り回るような歳ではありませんわ。今すぐその場所を菜園に」


「はっ」


執事長がもう指示を出してるし、こりゃ今日中に苺作る流れだな。


もう今日は予定ないしいいけどさ。


そういえば。


「ねぇヘブン、前の使徒様って、この力を使いすぎて疲れたりしてる事あった?」


真っ赤になった口の周りをメイドさんに抱っこで拭いてもらってるヘブンに聞いてみる。


・・・ヘブン、甘えすぎじゃない?


「そうですねぇ・・・。広い範囲を癒した日の夜に「疲れた~!」って言われている事はありましたけど、そういう日は大体たくさん歩いた日ですし、どっちの意味で疲れてらっしゃったのかはわかりませんね!」


あ~なるほど・・・?


「どうしたんすか?疲れたんなら、今日はもう休みます?」


ナイトがちょっと心配そう。


「いや、このスキルで疲れる事ってあるのかなぁと思って。スキルアップを目指すなら、いっぱい使った方がいいわけじゃん?」


「まぁ、そうっすね。でも今も毎日使ってるじゃないっすか」


「そうなんだけど・・・限界ってあるのかなぁと思って」


「ならば、試してみるか?」


苺を堪能した公爵様がハンカチで拭いていた口を開いた。


「領都から馬で一時間ほどの場所に、以前魔獣を討伐した際に火がついて焼けてしまった場所がある。元は大きな森だったのだが、人が通る場所でもないしと後回しにしていてな。そこで良ければどれだけ木や草が生えても構わんし、大して生えなくても問題ないぞ」


あら、それはちょうどいいね。


あと公爵様まだ口の横に赤いの付いてるよ。


「じゃあさっそく」


「今日はダメですわよ!」


「キトル様には苺を作っていただきたいですものねぇ~?」


母子に両脇を捕まえられたから、明日かなぁ・・・。



馬、じゃなくヘブンに乗ってお屋敷から一時間弱。


公爵様指定の場所に付いた。


これまた見事な焼け野原!


森の名残か、木の根元がそこらにあるものの、枯草の一本すらない土がむき出しの場所が直径一キロ以上の広さで続いてる。


「こりゃ酷いっすね」


「住み着いていた魔物の中に炎を使うのが何匹かいてな。人の行き来もないものだから枯葉や枯草が多く、一度火が回るとどうしようもなかったのだ」


火を使う魔物・・・


チラッとヘブンを見ると


「ワタクシはキトル様の指示でしか使いませんよっ!」


と何も言ってないのに強めの弁解。


ムキになっちゃって可愛いなぁ。


焼け野原の中心部まで歩いていく。


ヘブンから私の足元までモーリュ草が生えてるし、何も生えないってわけじゃなさそうね。


「大きな木とか生やしても大丈夫ですか?」


「何でも構わんぞ。好きなようにしてくれ」


許可が出たからね。思いっきりやってみよう。


まずは思いっきり。


遠慮、これまでしてた訳じゃないけど、遠慮せずに生やせるだけ生やしてみる。


出来ればこの焼け野原全体に、大きな大きな森を。


そうだなぁ・・・モフモフで大きな生き物、雨の日に傘と木の実の小包をお土産にくれそうなのが住んでそうな森がいいな!


目を閉じ、イメージする。


小さな芽が出て、だんだんと大きくなり、小枝ほどの大きさから立派な木に成長する姿を、頭の中でイメージする。


靴とズボンの間の足首に葉っぱが当たり、お尻の下に枝が当たってそのまま足が地面を離れた。


まだまだ。


成長した木は空に向かって伸び、その周りの木もつられるように、競うように、太く大きく枝を広げる。


ワサワサと葉がぶつかる音に混じって、ナイトの声が遠くに聞こえる気がする。


もう少し、広く大きく・・・。


さっき見た焼け野原全体を包むように、傷ついた土地を癒すんだ。


もっと、もっと!いっぱいの緑を!


強く願った気持ちに同調して跳ねるようにまぶたを開く。


「・・・うわぁっ!!」


高い!!


地上、何十メートル?!


ビル何階分?!わかんないけど、十階よりは高い!


思わず近くの枝にしがみつく。


あれ?この枝、私の周りを囲んでるな。


お尻の下には椅子のように平べったくなった枝があるし、落ちないようしがみついた枝は手すりのように胸の高さで私の周りを一周してる。


チャリーン!


あっ、この音。


『スキルレベルが上がりました』


おぉ?!マジで?!


『植物を操れるようになります』


・・・え?


今と一緒じゃね?


何が違うんだ?


「・・・キトル様ぁ~・・・」


あれ、ナイトの声がするな。


怖くて見てなかったけど足元を見ると、え~っ?!


めっちゃ・・・森!!


あれ?これ、五メートルなんて広さじゃないよね?


焼け野原、全部生えてない?


やった~!すごいじゃん!


「・・・キトルさまぁ~・・・」


あ、そうだった、みんな近くにいたのに大丈夫かな。


声の出所を探すと、森の端っこの方に人が見える。


ちゃんと逃げたんだ。無事でよかった。


でも、どうやってあそこまで行こうかな・・・。


まず下に降りる方法探さないと。


この安全手すり付きの椅子、このまま向こうまで連れてってくれたりしないかな。


ゆらゆらと風に揺られた木の座席が、ゆっくりと滑るように森の葉の斜面を滑っていく。


・・・マジか!!


これか!!これの事か!!


植物を操れるって・・・こういう感じね~、はいはい、なるほど?


いやいやいやいや、ちょっとこれはやり過ぎじゃない?!


そのまま心配そうに見守っていたナイト達の目の前に足をつくと、木の枝はスルスルと同じような動きで森のてっぺんに戻っていく。


「・・・」


「・・・キトル様、なんて言っていいのかわかんないっすけど・・・」


「ねぇ?なんかすご」


ありゃ。なんか目が回るぞ。


あ~ダメだこれ、めっちゃ寝不足で動き回った時の限界が来たやつだ。


ごめん、あとは任せて、ちょっと寝かせてもらおうじゃないの・・・。

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