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緑の手のキトル〜極貧で売りに出されたけど、前世の知識もあるから全然生きていけます〜  作者: 斉藤りた
アルカニア王国編

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エピソード 21

公爵家騎士団副団長のアトラス・アンタスは機嫌が悪かった。


自分は運がいい方だったはずなのに、と。


平民でありながらも商人として財を成した父のおかげで飢える事がないどころか剣術を習うことが出来、


次男だったおかげで才能も興味もない家業を継がずに済み、


家を出るタイミングで騎士団の募集がたまたまされていて、


前騎士団長が高齢で退いたおかげで副団長が団長になり、


模擬戦で負けたことが無いという理由で二十二歳で副団長の座に就け、


その役職に見合った身分を、と騎士爵と家名まで貰えた。


騎士爵は一代限りだから、今後の働き次第では準男爵や男爵位だって狙えるし、もし王都にある王直属の騎士団に入れれば子爵や伯爵だって夢じゃないかもしれない。


緑の使徒様が現れた時も、世界を救うなどという大層な事より自分の出世に繋がりそう、と思ったほどだ。


その使徒様絡みで、公爵様直々に最優先のご命令の呼び出し、千載一遇のチャンスと喜び勇んで執務室へと赴いたのが約一か月前・・・。


今アトラスはどこまでも続く森の中の小道を馬に乗って進んでいた。


それもこれも、あの黒髪の少女が悪い!


緑の使徒様の兄君を見つけるという重要な任務を下っ端にやらせるわけにも、公爵様のお屋敷を手薄にするわけにもいかない為、団長との二人での任務。


奴隷商を探す為大きな街で聞き込みをし、三つ目の街で目的の馬車も奴隷商も見つけた。


この国では十歳以下の子供は奴隷になる事も売買も禁止されている。


おそらく裏社会のルートで十歳未満の少女を売ろうとしていた奴隷商は、使徒様の作った植物を売ろうと高く買ってくれる大商人の店を利用したため、すぐに足がついた。


売られそうになっていた少女達は親元に返されるか、本人の希望があれば孤児院へ。


孤児院ならば成人を迎える十五までそこで生活出来るので、その後の身の振り方を考える時間もあるだろう。


そこまでは良かったのだ。そこまでは。


問題は一人だけ成人していた黒髪の少女。


歳はちょうど十五で名はアミル、というらしい。


この少女は自ら希望して奴隷商に売られたらしいのだが、奴隷商が捕まってしまい、改めて奴隷になろうにも保証人となる商人が居なくなってしまったので宙ぶらりんな状態になってしまったのだ。


「別にどうしても奴隷がいいわけじゃないけどさ、他に働き口の当てもないんだよね。何か紹介してくれないかい?」


と恐れ多くも一代限りの騎士爵を先祖代々拝命している、きっと骨も剣で出来てるような強面の団長に軽い口調で聞く怖いもの知らずな少女。


だが女子供に優しい団長の計らいで、ちょうど年配のメイドが数人辞めたところだった公爵家に連れて帰る事になったのだ。


なったのだが・・・


てっきり副団長の自分が公爵家に少女を連れて戻り、奴隷商から聞き出した辺境にある使徒様の実家へ行くのは団長だと思っていたのに。


「この人はヤダよ。なんか下心がありそうだもん」


という謎の主張で、一人で街から数日かかる辺境まで行く事になってしまったのだ。


辺境とは書いて字のごとく、国の境目の辺り。


代替わりした幼い辺境伯の治める領地の中にあるが、僻地という事もあり、国の統制が出来ていない場所でもある。


しかも奴隷商の話では、奴隷になるほどでもない軽犯罪人から大犯罪を起こして奴隷になるも主人を殺して逃げてくるような者までいるような場所らしい。


何故そんなところに自分が・・・。


いや、もしかするとそこでとんでもなく良い事があるのかもしれない。


たまに前向きになり、たまに落ち込みながら森を抜け、遠くに数軒の家を見つけた頃には、暇と疲れでイライラがピークになっていた。


奴隷商から聞いていた家を探して数軒聞き込みをし、数枚の銀貨を対価に支払った後、小高くなった丘の上に目的の家を見つけた。


家というより小屋だな・・・。


今にも外れそうなドアを叩くと、ボロ布をまとった老婆、いやボロボロだが一応ドレスを着た老婆のように見える中年の女が出てきた。


「ここはキトル様のご実家であっているか?」


「キトルさま・・・?うちの娘の事かい?」


合っているらしい。


来ている鎧を上から下まで舐めるように見ると目を輝かせる。


「アイツ本当に貴族の妾になったのかい?!あたしを呼びに来たんだろう?!」


・・・一体どうやったら売り払った子供が自分を迎えに来るなどと思えるのだろう。


「兄君、ブラン殿はこちらにおられるか?」


まがりなりにも使徒様のご母堂、余計な言動は避けようと心を無にする。


「はぁ?!なんでブランの事なんか・・・あの薄情者はね、もうどっかに逃げちまったよ!」


なんと!こんな所まで来たのに・・・いや、兄君がここに居ない、という事が重要なはずだ。


「ならば結構。失礼する」


踵を返そうとすると、老婆、もとい使徒様の母親が腕にしがみついてきた。


「こんなとこまで来て何帰ろうとしてんのよ!入んなよ、サービスするからさぁ」


ゾワゾワゾワッと鎧の中に鳥肌が立つ。


将来は子爵や男爵にもなろうという、公爵家騎士団副団長の、このアトラス・アンタスに・・・!


「旦那はまだ畑から帰んないから・・・ギャアッ!!」


思いっきり腕を振り払うと母親は吹っ飛び、丘を転がり落ちると「ぬちゃっ」という何とも気持ちの悪い音。


もしや大怪我でも、と思い一応覗き込んで見ると、母親は肥溜めの中でもがいている。


あの状態で絡みに来られると非常に困る・・・!と一目散に小屋を離れ、森の中へと戻っていった可哀想なアトラス・アンタス・・・。




「というのが、我が公爵家騎士団の副団長から魔法鳥で届いた知らせだ」


「・・・つまり、兄さんは逃げていて見つからず、あのババアは汚物まみれで、副団長さんは大変苦労されたって事ですね」


ほとんどが愚痴だったけど、あの家まで探しに行ってくれて絡まれてしまったのはありがたいやら申し訳ないやら。


「誇張が入っているようにも思うが、そのようだな」


「あの騎士さん、何かギラギラしてたんだよねぇ」


黒髪美人姉さん改めアミルさん、人を見る目ありそう。


しかし・・・


「私の親は犯罪者かもしれないんですね」


「あ、いや、まぁその可能性もあるが・・・神の使いとなったキトル様にはもう関係ないというか何というか」


公爵様、歯切れ悪いね。


「使徒になってなくても、親は親、子は子ですよ。私もそうだし、兄のブランも、親とは全く別の人間ですから」


むしろあんな母親がそこら中にゴロゴロいるような世界じゃなくて良かったよ。


犯罪者だから酷い人間だったんだ、って思う方がまだ気持ち的に納得出来る。


「・・・その通りだな。いや全く、使徒様は七歳とは思えない考えを持ってらっしゃる」


「子供だし先入観とかないですからねぇ」


「それで?あたしはここで雇ってもらえるのかい?」


アミルが会話をバッサリ切る。


この子、いいキャラしてるなぁ。


「ちょうどメイドが数人辞めたところでな。まずは見習いからだが、いかがだろう?」


「やった!奴隷や貴族のおっさんの妾になるよりよっぽど良いさ!イイ男も多そうだしね」


「・・・本人達がいいなら禁止はせぬが、ほどほどにしてくれよ」


「は~い!」


う~ん、たくましい。


メイド長がアミルを連れて行ったあと、ナイトが切り出した。


「じゃあ、結局お兄さんの行方は分からないままなんすね」


「そうだな、申し訳ない」


いやいや、公爵様が謝る事じゃないでしょ。


「ちゃんとあの家から逃げてるってわかっただけでも良かったです!」


「そうっすね、辺境ら辺は森も枯れて魔物も減ってるんで、それほど危険もないですし」


「念のため、王都から辺境までの大小さまざまな街にキトル様の存在と、兄君を見つけたら公爵家にお招きするよう通達してある」


何か指名手配みたいな事になっちゃってるな。


「家を出る前に、大きな街で伝言残すねって言ったんで、もしかするとすぐ気が付いてくれるかもしれませんね。あとジャガイモ売りに来たりするかもしれないし」


「「・・・ジャガイモ?」」


「あ、そうそう。家出る前に、ジャガイモっていう根菜を作って渡してて。両親には渡さないように言ったから、あれ持って逃げてたらどっかで売りに」


「なんで先にそれ言わないんすか!そっちの方が見つけやすいじゃないっすか!」


「ジャガイモ、ジャガイモだな。後でその見た目や特徴を教えてくれ。私は先に魔法鳥で各街に伝令を飛ばそう」


あれ、そうなの?


ごめ~ん・・・。


話してたつもりだったんだよ。


このお詫びは、しっかりさせて頂こうじゃないの。

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