エピソード 2
ブランを落ち着かせて寝かせた後、こっそり家を抜け出した。
あ、逃げる為じゃないよ。
今逃げたら私の代わりにブランが奴隷になっちゃうもん。
とりあえず今は緑の手が何を出来るのか調べなきゃね。
月明かりの下、家から見えないようにこっそり畑まで出て来た。
畑には所々に萎れた草が生えてるだけで、野菜らしき物は見当たらない。
「緑の使い手様が居なくなって土地が枯れた」って言ってたよね、確か。
って事は、土地とか植物に関する力なのかな?
自分の手をじっと見てみても、何も起こらない。
とりあえず・・・畑の土を触ってみる。
土の良し悪しなんかわからないけど、全然収穫が出来ないって言ってたから栄養がない土なんだろうなぁ〜。
じゃあこの土を栄養たっぷりにする力とか?
でもそれなら茶色の手だな。
って事は、植物を育てる力?肥料的な?
そういえばこの世界でちゃんとした野菜とかって見た事ないなぁ。
もし今ここで農業やるとして、作るなら何が良いんだろう?
とにかくすぐに収穫出来て、お腹いっぱいになる物がいいよね。
じゃあ主食になってるもの?
本当はお米食べたいけど、収穫までに時間かかるよね。
お水もいっぱい必要だし、今は無理だな。
麦も今作ってるけど、あんまり収穫できてないんだよね。だから私が売られるんだし・・・。
あと主食になりそうなのっていうとお芋?
ん?
こっちに生まれてからの記憶でも、お芋系の食べ物食べた事ない気がする。
お芋って収穫までも早くて痩せた土地でも育ちやすいって聞いた事あるけど・・・じゃがいもとかって無いのかな?
じゃがいも良いよね。
一個あれば増やせるし、茹でても揚げても蒸しても焼いても美味しいし・・・あぁダメだ、お腹空いてきた。
考えながら畑の中をウロウロしてたら、畑の端っこまで来てた。
ダメだダメだ、お腹は空いたけどまずはこの力の使い方を見つけなきゃ。
トボトボと最初に土を触ってた場所に戻ると・・・
「あれ?」
さっきは無かった苗?草?が生えてる。
畑にある他の野菜は萎れてるのに、これだけイキイキとしてるし、葉っぱもツヤツヤだ。
「これは・・・アレだな。私のおかげだな!」
だってどう見たって違和感のある綺麗な緑の存在感。
間違いなく私のおかげでしょう!
でも、私ってばどうやってこれを生やしたんだろう?
手を畑にかざして声を出してみる。
「はぁぁぁぁぁぁぁ」
・・・何も起こらないよね、そりゃ。
「もぉ〜どうやるのさ〜・・・」
しゃがみ込んで頭を抱え、横の苗を見る。
あれ?この葉っぱ、何か見覚えが・・・
何だっけ、何か前に冷蔵庫の野菜室の奥で、放置してたやつ・・・
「あ〜!」
思わず大声が出て手で口を塞ぐ。
じゃがいもだ!
袋から転げたやつが冷蔵庫の奥に残ってて、気が付かないウチに発芽して葉っぱまで生えてたんだっけ。
・・・いやズボラだな、前世の私。
まぁそれはいいや。
って事は、じゃがいもの事考えてたからじゃがいもが生えてきたって事?!
恐る恐る、苗の茎を持って上に引っこ抜こうとするが、なかなか抜けない。この身体栄養足りてなさそうだもんね。
今度は両手両足を使って上に引っ張る。引っ張・・・
ズボッ
抜けたぁ!
抜けた苗の根っこには、芋、芋、芋、芋・・・え、こんなに出来るもんなの?スキル使ったから?
わかんないけど、めっちゃ出来てる!
やっぱりじゃがいもだ!
すっご!!15個くらいはありそう。
小さいのも数えたらもっとあるんじゃない?
え、って事は?
すぐ食べられる野菜!なんだ?!えっと、えっと・・・ミニトマト!!
両手を畑にかざして強く願う。
スキル!出ろ!私はお腹が空いてるんだ!!
ぎゅっと閉じた目をそっと開けると、土の中から可愛い双葉がピョコっと顔を出した。
「うはっ!」
変な声が出ちゃった。
みるみるうちに本葉が出て、ニョキニョキと空に向かって成長する。
待ち遠しいと思う間もなく、目の前にはプルンプルンの真っ赤なミニトマトが沢山。
「はわわわ・・・」
そんな声出ないと思うじゃん?
ホント、極限までお腹空いて目の前に美味しそうな食べ物が出てきたら、変な声が出ちゃうんだって。
もうね、そこからは無我夢中。
両手でちぎって、右手で食べながら左手でちぎって、左手で食べながら右手で食べて、の繰り返し。
気が付いたらミニトマトの実は無くなってた。
「はぁ〜っ・・・」
お腹いっぱい、とまではいかないけど、大満足!
全身にリコピンが駆け巡ってる気がするわ。リコピンが何か忘れたけど。
しかし、考えたらその植物が出てくるのかぁ〜。
便利だね。
ブランが聞いたみたいに、世界中がこの畑みたいな痩せた土地ばっかりなら、この力はすごく役に立つだろうな。
でもまずは目下の問題。
売られて奴隷になるのを阻止しつつ、ブランが売られるのも避けなきゃ。
どうしようかなぁ〜・・・
まずはこの力の事は黙って、売られてここを出て行くのは決定だな。
この力が父母にバレるのは絶対ダメだ。他の人の事とか考える余裕も無さそうだし、自分達の為だけに使わせようとするだろう。
コツ、と足にじゃがいもが当たる。
そっか、バレちゃダメならこのじゃがいもはどうしよう。
何とかしてブランにあげたいな。
朝こっそり渡してみようかな。
で、明日奴隷商?に売られたら、多分どっかに運ばれるよね。
私一人だけって事はないだろうし、他の人もいるなら逃げてもバレにくいかもしれない。
よし、そうしよう!
力の事は黙って、ブランにこっそりじゃがいもあげて、売られて、途中で逃げる!
スキルもあるからきっと大丈夫。
無事に逃げ切ってやろうじゃないの。
アドバイスをいただいたので、読みやすいように行間を開けてみました。