エピソード 18
「ごめんなさい!」
地図が見つからないというので公爵様が探しに行っている間、パールちゃんにお屋敷の中を案内してもらっている。
庭園に出てきてあまり咲いていないお花を紹介してもらっていたら、突然謝られた。
「貴女が私の代わりに婚約者になっちゃうと思って・・・睨んだりしてごめんなさい。淑女のすることじゃなかったわ」
しゅ~く~じょ!淑女ですって!
王子様と結婚するって、こんな歳からそんなこと考えなきゃいけないの?!
大変なのねぇ。
「何の事ですか?公爵様の世迷い事に振り回されて、お互い困ったもんですよね」
可愛い女の子の可愛いヤキモチなんかに目くじら立てたりしないさ~。
パールちゃんは大きな目をさらにちょっと大きく見開いて、ふふっとふんわり笑った。
あぁ~やっぱり笑ってるとか~わいぃ~ねぇ~。
「キトル様、顔ゆるみすぎっすよ」
「・・・うるさいなぁ。いいの!女の子は綺麗なのと可愛いのが好きなんだから!」
「好きなのはいいっすけど、人前ではもうちょっと使徒としての品格というか」
「なにさ。私の心からの笑顔には品格がないってか」
「ないっすね」
ムキ~!
パールちゃんがクスクス笑ってる。
「仲がよろしいんですね」
「あ、敬語使わなくていいですよ。歳も近いでしょうし、気楽に話してもらえると嬉しいです」
「まぁ!じゃあ使徒様も普通に話してくださいな」
「はい、じゃなくて、うん。じゃあ使徒様じゃなくてキトルで!様付けもやめてね?」
「じゃあ、キトルさん?・・・キトルちゃん?」
「ちゃんでお願いしまぁっす!」
「うるせっ」
おいナイト、可愛い女の子の集いに混じるんじゃない。
私に睨まれたナイトが少し距離を取ったのを確認して、パールちゃんが小声で話しかけてきた。
「ね、キトルちゃんはあの従者の方の事が好きなの?」
うわぁ~お母さんと同じく良い匂い~。
・・・じゃなくて。
「ナイトを?!ないない!」
ないトだけにね!ってセリフはかろうじて呑み込んだぞ。
「好きは好きだけど部下というか・・・弟とか家族みたいな・・・う~ん」
何かしっくりこないな。
「あ!仲間、かな?うん、それが一番ピッタリかも」
「仲間?」
「そうそう、仲間。一緒に支え合いながら目的に向かって頑張る、って感じだね。でもたまに弟っぽくもあるんだよね~。本当の兄さんはいるけど、兄さんより子供っぽいとこがあるし」
「あ・・・実のお兄様とは離れ離れになってしまったのよね?」
お兄様ってなんかブランには似合わないな。
「うん。でも公爵様も探してくれてるらしいし、どっかで会えるから大丈夫って気がするんだよね。ヘブンは使徒の勘、みたいなこと言ってたけど」
「でも、淋しいわね。・・・私でよかったら、お兄様の代わりにはなれないかもしれけど、頼っていいからね?」
なぬ?
「じゃ・・・じゃあ、パールお姉ちゃん、なんて呼んじゃったりしても・・・」
「まぁ!もちろんよ。嬉しいわ」
うひょ~!転生して、一番うれしいかも!
世界中のみなさ~ん!私に、美少女のお姉ちゃんが出来ましたよぉ~!
「・・・キトル様、気持ち悪いっす」
いつの間にか近くに来てたナイトが心底嫌そうな顔してこっち見てる。
「何よ、楽しくお話してるんだからいいじゃん」
「地図が見つかったらしいっすよ。戻りましょう」
はいはい、あと数分だけ待っててね。
お庭の花々を満開にしてパールお姉ちゃんを大喜びさせてから、応接室に戻ってきた。
いや地図小さくない?
応接テーブルが大きいのもあるけど、王様見えなくてテーブルに上半身乗っちゃってるよ。
「もう少し大きいのはなかったのか?」
「それが大きなものが見当たらず・・・簡易的なこの地図しかなかったのですが、話が進まないのでひとまずと思いまして」
ホントだ。細かい地形や地名なんかは書かれてないね。
・・・っていうかこの形って・・・。
「大雑把に書かれてはいるが、これが世界地図、つまりこの大陸が描かれているものだな。もちろん小さな島などは点在するが、まあ今は必要ないだろう」
お花?!お花だ。デフォルメされたお花の形。
大きな花びらが5枚。
花びらの根元は繋がってるから陸続きなんだろう。
その真ん中に小さな二重丸がある。
子供が描いたお花の絵みたいだな。
「花のような形をしているだろう?この花弁の一つ一つがその土地の特徴を持った大国となっておる」
あ、みんなも花に見えてるのね。私だけかと思った。
花びらは五つ、つまり大国は五つあるのね。
「我が国はここで、今いる公爵領はこの辺か」
王様の指が左下の花びらの、真ん中より少し左上の方、二重丸に近い場所を指す。
「これは何なんですか?」
真ん中の二重丸。明らかに変な形。
「これはセイクリッド山、聖なる山や神が住まう山、と言われている場所でな。その頂には大きな湖があり、湖の中心には小さな島があるそうだ」
「山?湖?」
「そうだ、だが、誰も登ることは叶わぬ山でな。・・・高さはそれほどでもないという話だが、普段は湖から発生するという濃い霧に覆われていて、山のふもとまでしか見れぬ。登ろうとしても迷ってしまうのだ。神の隠れ家とも呼ばれているな」
「変な山ですね」
はっ!いかん、本音が。
「はっはっは。神の使いならば許されよう。だが、ここからが本題でな」
お?なんか王様が真面目な顔になったぞ?
いや今までもふざけた顔してたわけじゃないけど。
「王家に伝わる伝承では、緑の使徒は五つの世界を豊かにし、旅の終わりにその山に登る事でその偉業を成し遂げ、千年続く花を咲かせるのだという。つまり、千年続く平穏をもたらせなかった我が曾祖母は、この山に登っていないという事だ」
「要は、世界中に草生やしてもこの山登らないとゴールにならないって事ですか?」
「・・・身も蓋もない言い方だが、そういう事だ」
なんだぁ。真面目な顔で言うから何事かと思ったわ。
「あれ?でも霧が酷くて山には登れないんじゃないんですか?」
「そうだ。だが、緑の使徒が五つの世界を豊かにすると、山の霧は晴れセイクリッド山はその姿を現すとされている。どのような仕組みなのかはわからぬが・・・」
ふうん?
「まぁ別にどっちでもいいですよ。やることは変わらないんだし」
「しかし、曾祖母が伝承通りにすべての国を回り山を登っていれば・・・」
「いやぁ、今更そんなこと言ってもしょうがないでしょう。大おばあ様、恋に落ちちゃったんでしょう?」
「こ、恋に・・・?まぁ、そう、なんだろうが・・・」
「じゃ~仕方ないですよ~。ねぇ、パールお姉ちゃん?」
突然話を振られたパールちゃんはビクッとすると、見る見るうちに顔が赤くなる。
「もうっ!キトルちゃんってば・・・!」
んは~かわよいね。
「ゴールがわかったのはありがたいですけど、それだけですよ。別に誰も悪い事なんてしてないでしょう?そもそも、私の目的はみんながお腹いっぱい食べられる世界にしたいだけなんですから!」
目的のために、出来ることをやる、それだけだよ。
でも・・・せっかく教えてもらったしね。
旅の最後は山にも登って、完璧に終わらせてやろうじゃないの!