エピソード 16
うわぁ〜・・・ヤバい、ビックリなんですけど。
少し前に到着した公爵領の領都は高い壁に囲まれた大きな街で、伯爵領都よりはるかに広くて。
門兵さんに伝えてから中に入ったからか、中心地にある公爵家のお屋敷に着いたらすぐ門が開いて、お屋敷の前で公爵様一家が待っててくれて。
それはもう和やかな雰囲気で歓迎されたんだけども。
「緑の使徒様、初めまして。わたくしキルエン・フォン・ダンデの妻、ルビィ・フォン・ダンデと申します。以後お見知りおきを」
「娘のパール・フォン・ダンデです。よろしくお願いします」
へぇ~ダンデさんキルエンって言うんだぁ~。
フォンってなんだろ?ミドルネーム的なやつ?
でも今はそれどころじゃないかなぁ~。
つやっつやの栗色をした髪の毛は上品に巻かれ、優雅に揺れて。
まつげがバサバサ羽ばたいてる垂れ目はいかにも優しそう。
白くきめ細やかな卵肌と口紅の控えめなピンクがまたお似合いですこと!!
それはもぉ~!とっても美人さん!!
前世の部屋に貼ってた、雑誌の広告のモデルさんみたい!
それでまた、娘のパールさんも見事な美少女!
歳はブランと同じ十歳くらいかな?
髪の色はお母さん譲りで、意志の強そうな目と筋の通った鼻はお父さん譲りだねぇ。
か〜わい〜い!
「公爵さま・・・奥さんと娘さん、美人過ぎません?」
「ん?そうだろう?自慢の妻と娘だからな!」
さては自慢したくて呼んだな?
「まぁそんな・・・。使徒様こそ、こんな可憐な少女とは思いませんでしたわ」
はぁ~ん!超キレ~!!
ルビィさんの手を取る。
「どうぞ、私の事はキトル、とお呼びください、奥様」
心の中でキリッと効果音付けてみる。
「あら・・・ではキトル様、我が公爵家はキトル様を歓迎させていただきますわ」
うわぁ~!めっちゃいい匂いするんですけどぉ~!
「キトル様、私の時と反応が違いすぎませんか・・・?」
「俺とヘブンに対しても最近雑っすもんねぇ」
「キトルさまは最初っからワタクシの事可愛がってくださってますよぉ~!」
外野、うるさいよ。
案内されて歩き出すと、パールちゃんと目が合う。
ニコッと笑って見せると、ジロッと睨まれた?
あら?気のせいかな?
でも、睨んだような顔も可愛いねぇ〜。
いかんな、デレデレしてたら威厳がないな。
七歳児に威厳が必要かどうかは別として。
案内されたのは応接室。
質素に見えるけど、家具の一つ一つは高そうだし、なかなかいい趣味してますなぁ。
「さて、キトル様。約束通り来ていただき感謝する。さっそくだが、まずドルムンタ伯爵についてだ。予想していた通り失爵し、伯爵家は取り潰しとなる」
でしょうね〜。
面倒そうだから巻き込まれたくなくて聞かないようにしてたけど・・・
ロンドさんが見つけた帳簿の税の収支が合わない問題から始まって、国から支給されたお金の使い込みとか、有力貴族への賄賂とか、ま〜色んな余罪がザックザクだったらしいね。
緑の使徒、つまり私への妄言アンド反撃で監禁されたお陰で、現代風に言えば家宅捜索?使用人の人が探して見つけたから違うのかな?まぁそれでお縄に出来たって話は、避けてたのに小耳に挟まってきた。
「先代がもし存命ならばまだ本人の除籍と処分だけで済んだのだが、当主がそのような大罪を犯していたという事でな・・・。まぁ伯爵家の縁者は他家に嫁いだり亡くなったりして、誰もいなかったのはまだ幸いか」
あ、やっぱり独身だったんだ。
迷惑かかる人が最小限でよかった。
「緑の使徒様のお怒りを鎮める為にも死刑にという声が多かったのだが、キトル様はそのような罰は」
「いや、いいです!寝覚め悪いし、死ぬほど働いて世の中の役に立ってもらった方がエコでしょ?」
「エ、エコ?・・・まぁとにかく、そう言うだろうと思ってな。奴隷の中でも特に厳しい犯罪奴隷として代官と共に生涯労役に就く様になった。痩せて檻から出て来た後で、だが」
あれ?公爵様ちょっと笑ってない?
ゴホン!と一声。咳払いして誤魔化したな?
「伯爵領領主の後任については、表向きはまだ検討中だが、おそらく我が弟の侯爵家の次男がなかなか優秀でな。男爵として封爵するという話が内定しておる。甥だが身内の欲目を抜きにしても、アヤツならば疲弊した領民の助けになるだろうと自信を持って言える男だ。安心して欲しい」
ふぅ〜ん?そこまで言うなら信用してもいいのかな?
「抜き打ちで突然行くかもしれないから、よろしくお伝え下さいね」
ニヤリと笑って言うと、公爵様もニヤリと笑って。
「そう言ってもらえる方が緊張感があって良いというものだ。必ず伝えておこう」
んふ。そこまで言うなら大丈夫そうだね。
あ、そうだ。
「使用人の方達についてなんですが、私達もお世話になったんで」
「あぁ、わかっている。元々侯爵家から独立する形だからな。使用人も数人付いてくるだけだろうし、そのまま雇うよう計らわせてもらう」
ホント?!
「伯爵はどうでも良いけど、ロンドさん達の事は気になってたから良かったぁ」
「どうでも良かったんすか?」
ソファの後ろで立って空気を読んでたナイトが一歩前に出て来て口を挟む。
「私にしようとした分はもうやり返したもん。領民のみんなに対してとか、脱税とかの処分はあたしがする事じゃないでしょ?」
そこまで関わると貴族の何やらかんやらに巻き込まれちゃうよ。
「ま、それもそうっすね」
ナイトが元の位置に戻る・・・あれ?
パールちゃんがナイトをじっと見てる。
ナイトが好みなのかな?
まぁウチのナイトはイケメンだからね!
でも、そんな表情でもないような・・・
知り合いとか?
ナイトの方をチラッと見ると、大人しく横にいるヘブンが目に入った。
そうだ!思い出した!
「公爵様、前に言ってたヘブンの、えっとフェンリルの絵についてなん」
バァーン!!
扉が勢い良く飛んだ、え、飛んだ?いや、開いた。
開いて跳ね返ったから控えていた使用人の人が慌てて止めた。
なんだ?
入って来たのは何か凄い豪華な服着たオジサン。
でもドルムンタ伯爵みたいな成金感はない。
気品というか高貴というか、そういう雰囲気。
「キルエン!まだか!何故ワシの話をせんのだ!」
・・・前言撤回。
あんまり気品は無かった。
「陛下、キトル様はお会いになりたくないと言われていたのですよ・・・様子を見て許可がもらえたら、と言ったでしょう」
陛下?!
このオジサンが?!
「だからそれを待っていたのだろう!もう良いのか?!」
「もう来てるじゃないですか!聞くのなら使用人を使ってコッソリ聞いて下さいよ!」
なんか、思ってたのと違うな。
でも公爵様と私以外はみんな片膝付いて頭を下げてる。
後ろを見るとナイトも。
ヘブンはキョロキョロして、とりあえず頭下げた。
う〜ん、私はどうしたらいいんだ?
よし、座ったまま腕組んでふんぞり返ってみるか。
「・・・キトル様、一体何をしているので?」
「偉そうにしてます」
「・・・え〜、こちらが我が国の国王陛下で、こちらが緑の使徒のキトル様です。キトル様、貴女は充分尊い立場ですので、ひっくり返る前に普通にされて下さい」
はぁ〜い。
「ナイト、ヘブン、普通にしていいよ」
「え、いいんすか?」
「私がいいって言ってるしいいんじゃない?そうでしょう?」
王様の方を見る。
「もちろんだ。ワシはこの国の王だが、緑の使徒様はこの世界の創造神の使い。誰もその行為を妨げる事などあってはならぬ」
よし、大丈夫だね。
これで立場がハッキリしたから、話もしやすい。
さて、王様?
何しに来たのか聞かせてもらおうじゃないの。