エピソード 145
「最初に確認しときたいんですけど、カミサマはどんなお願い事でも叶えてくれるんですよね?」
宙に浮いた雛人形カミサマに確認する。
「ええ。キトルが全ての石を元の状態に戻し、この水の濁りも無くなったので、今ならどんな願いでも叶えられるでしょう。もちろん、滑稽無糖なものは無理ですが」
ふむ。じゃあここからは日本語で・・・
『さっき、ここを離れることは出来ないって言ってましたけど、それはこの水を流し続けなきゃいけないからですよね?』
カミサマ自身に関する事はデリケートだから、一応わからないように話さなくちゃね。
『そのとおりです。根や花びらから私の力を分け与え、山から流れ落ちた水を地中に浸透させる事で、この大陸全体へと行き渡らせているのです。ここに私がいなくなれば、この水は腐るか枯れてしまうでしょう』
ふむふむ、なるほど?
『ちなみに今のカミサマのその可愛らしい姿って、本体がここにあるから作れたんですよね?』
『まあ、可愛らしいだなんて。そうですね、初めて作ってみましたけれど、この樹とこの身体は一心同体。おそらくこの島からは出られないでしょう』
にゃ~るほどね!オッケーオッケー!
「よし!決めました!って言ってもまだどうなるかわからないけど」
「わからない?」
小首をかしげるカミサマ。小さなお顔がコテンと斜めになって愛らしいことこの上ない。前世の子供の時にお人形遊びしたなぁ・・・。
「はい!で、お願いなんですけど・・・お願い事を、三つにしてください!」
デデン!と右手の指を三本立てて、カミサマの顔の前に出すと、小さな顔の、大きなお目目がさらに大きくなる。
ちら、と従者達の反応を見ると、右からモルチは神様と同じように目を見開いて驚き、ナイトはニヤニヤ顔、ヘブンは・・・よくわかってなさそうだな。
「・・・それは、一体何故かしら。キトルの事ですから、きっと何か考えがあるのでしょう?」
「はいっ!」
んふ~!ニッコニッコでお返事。
「まず一つ目は、モルモルがいつか死んだら、テリーナさんの元に送ってあげてください。約束したんで」
「お、お前、ちゃんと覚えててくれたのか・・・ありがとう、ありがとう・・・」
モルチがグスグスと泣き出す。忘れてないっての。泣き虫モルチめ~。
「ええ、賜りました。彼女のすぐ近くへと転生できるよう手を尽くしましょう。『運が良ければ、彼女の子として生まれ変われるかもしれませんよ』」
えっ?!後半の日本語に驚いて神様の顔をジッと見ると、うふふ、と上品ないたずらっ子の様に口元を隠して笑う。
・・・上品ないたずらっ子って何だろ。でもそんな表現がピッタリなんだよねぇ。
「二つ目は、えっと、試してみたい事なんですけど」
「試したい?」
「はい!カミサマの・・・枝を、一本貰ってもいいですかっ?!」
「え、枝、ですか?」
「はいっ!」
おぉ、何事にも動じなさそうなふんわり上品で穏やかなカミサマが狼狽えたえてる。
「え、ええ、構いませんが・・・一体枝をどうするのですか?」
「ちょっとやってみたい事があって。じゃあ、ちょっと失礼しますね!ナイト!」
「へいっ!」
呼ばれるのが分かってたのか、ナイトがすぐに寄って来る。
「えっとねぇ、そうだな~この辺の・・・この枝のここを、こう、斜めになるように切ってくれる?」
「俺の剣大丈夫っすかね?」
「大丈夫っしょ~!何事もやってみなくちゃわかんないさ!」
「神様の一部を切る羽目になるとは思ってなかったすね~・・・っと、へい、切れましたよ」
パシッと一瞬軽い音を出し、切った枝を地面に落とさず器用に受け止める。
「オッケ~ありがと!んじゃお次はぁ~」
ん~何かちょうどいい物は・・・カバンの中に手を突っ込んでガサゴソ。
何を入れてたかわかんないけどシミのある汚い袋・・・は流石にダメだな。うん、やっぱり飲み水を入れてた革袋にしよう。
「キトル様~ちゃんとカバンの中整理しなきゃダメっすよ」
後ろから覗き込むナイトにチクチク言われる。ナイトママはうるさいなぁ。
「キトル・・・?」カミサマが不思議そうにしてるけど、ごめんね、今ちょっと忙しくて。
革袋の中身を、捨てるのはもったいないから一気飲みして湖へと近付く。
前の使徒様達は入って渡ったんだろうし、私は平気なんだろうけど、一応そっと指を浸けてみる。うん、やっぱり私は大丈夫そう。
そのまま手に持った革袋ごとザブンと手を入れ、水を掬ってみる。が、革袋がみるみるうちに爛れて破けてしまった。
「あ~ダメか~」
そっか~それじゃあ・・・
「その水は、私やキトルの様に強い力を持ったものでないと耐えられな」
「いでよっ!ミニパクちゃんお花だけバージョン☆桜の花コラボ!」
ん?カミサマが何か言ってたけど無視しちゃった。
目の前に出来たのは、ピンポン玉より一回り大きいくらいのコロンとした球体。表面には薄いピンク色の桜の絵をあしらっていて、その球体の一部には例によって白いタラコ唇。
手に持ってフニフニと握ると、白お口がパクパクと動く。
それを拾ってザブンと湖に沈めて取り出し、ジッと注意深く見てみる。・・・うん、大丈夫そうだね!
「ナイト」「へい」
後ろを振り向かずに出した手に、ポンと先ほど切った枝が乗る。
枝が分かれて細くなった先でさらに分かれに分かれた細くてたおやかな桜の小枝。それを~
「はい、ミニパクちゃん、あ~ん」
ブスッ!
切った枝の部分を、咥えさせ・・・いや、ほぼ刺してみる。最初はムニュムニュと動いていた唇も、数秒待つと動きが止まった。
「おっ、イケそうだね!じゃあ、カミサマ、はい!どうぞ!」
「キトル、これは・・・?」
カミサマにミニパクちゃん付きの小枝を手渡す。
「じゃあ、ちょっとあの階段のとこまで行ってみてください」
「で、でも、私は」
「いいから、いいから!試してみて!」
おずおずと、カミサマが階段の方へとゆっくりと浮遊していく。こちらを不安げに振り向きながら、小島の上を出て、私が作ったツタの橋の上を通り、階段の上まで到達する。おっ!行けそうだね。
「キトル・・・!これは・・・!」
勢いよく振り返り、そのまま私達の方へと飛んで戻って来る。
「カミサマ、ホントは私達の代わりに自分が行って、ついでに現地を見て回りたいって言ってたじゃないですか。だから、何とか出来ないかな~って。『そしたら、わざわざ向こうの世界から無理に呼ばなくてもいいし、あとさっき戻りたいって人達の話をした時、カミサマ寂しそうだったから。』まぁ私がやりたかっただけなんで行かなくてもいいですけど、行ける手段があったら便利そうでしょ?」
途中はちょっと日本語で。
桜の樹を持ち運べれば、雛人形カミサマがそのまま動き回れるんじゃね?って思ったんだよね。キトルちゃん大正解!
「アナタという子は・・・っ!神と呼ばれる私の事まで考え、こんな事までしてしまうとは、なんて子でしょう・・・!」
あら、これは喜んで、って言うより、感激してくれてる?桜の小枝を持ったまま、着物の両袖で顔を隠してフルフルと震えている。
んふふ。可愛い子が喜ぶと嬉しいのは、カミサマであっても同じだねぇ。
それじゃあ最後のお願い、聞いてもらおうじゃないの!