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エピソード 140

「これは・・・確かに他のトコから登ろうとは思わないっすね」


ナイトの目線の先にそびえるのは、ほとんど切り立った崖のような山。地面に見えるのはつるりとした岩肌ばかりで、手をかける場所ひとつない。


そういえばアルカニアの王様が、誰も登れない山って言ってたな。普段は霧がかかってるから登れないんだろうけど、そもそも見えててもコレは登れないでしょ。


でも問題はそこじゃない。


地面からそり立つ絶壁も山の中腹まで。そこから先は、緩やかな斜面が山頂へと続いているのが見てとれる。ただその中腹までもかなりの高さがあるのは、離れたこの場所からも明らかにわかる。首を反らせて霧が晴れたその斜面を仰ぎ見れば、その頂は遥か高みに霞んでいる。


つまり、めちゃくちゃ高い山。


・・・いや、デカすぎるって!これ、富士山より高いんじゃないの?!


「こ、こ、これ登るの・・・?」


「そうだ。山道に慣れた人間なら、丸一日もあれば着くだろう」


「ヤバぁ!無理だって!こう見えても私八歳だよ?!」


「どこからどう見ても八歳っすよ」


ナイトが余計なツッコミをしつつ続ける。


「生まれて初めてセイクリッド山見ましたけど、思ってたよりデカいっすね」


あ、良かった、こっちの人の感覚でも大きいのね。異世界だとこれが普通なのかと思っちゃった。


「でもまぁ一日で着くんならさっそく出発しましょう。キトル様も疲れたら俺とヘブンで交代して抱えますんで」


前言撤回、なんでそんなに軽く言えるんだ。


「そうですねっ!私も山に登るの初めてですし!キトル様、私の上に乗ってくださいね」


ヘブンまでやる気満々。むぅ、覚悟を決めて登るしかないのか・・・。


しかしよくよく見ると変な形してる山だなコレ。スポンジケーキの上にジャストサイズのプリン乗せたみたい。・・・お腹空いてきたな。


「階段だから、抱えると逆に歩きにくいような気もするが。まぁフェンリルならば乗せてもらう方が良いかもしれんな」


モルチが踵を返して歩きながら言う。


「階段?階段があるの?ってかモルモルどこ行ってんの?」


「なんだ、それも書いてなかったのか?神殿の扉から真っすぐ山に向かうと、道があるのだ。山の中腹からは階段になっているので、そこを上れば頂上に着く」


あっ!そうだった、何かそんなこと書いてあったようななかったような・・・


「俺は覚えてましたけどね」


ナイトがふふん、と笑いながら追い越していく。あの顔は絶対嘘だな!


「わたくしは思い出してないだけで覚えてましたよ!」


同じく私を追い越していくヘブンさんよ、それは忘れてたって言うんだよ?


ご主人様のキトルちゃんを置いて行く従者達を追いかけながら、早めにヘブンに乗せてもらおう・・・と足を速めた。







「ヘブン!ゆっくりっ!ゆっくり行って!」


「え~キトルさま、さっきも言ってましたけど、もっとですか~?」


だって角度が!!


山のふもとに着くと、確かに切り立った崖と崖の間にまあまあ広めの坂道があり、上の方には階段があるのがうっすら見えた。ホントにうっすら。そしてその坂道の角度は・・・何度よこれ。四十五度?それは言い過ぎか。とにかくめっちゃ急角度。超坂道!


最初は頑張って歩いてたんだけど、滑ってコケて、また歩いて滑って、を三回繰り返した所で諦めた。


テリーナさん、これよく登れたね・・・。


で、ヘブンに乗せてもらったんだけど、いかんせん角度が急で背中に掴まっててもひっくり返りそうになる。


「キトル様〜そんなゆっくりじゃ着かないっすよ」


どうやってるのか、スタスタと前を歩くナイトが振り向く。


「だって落ちそうじゃん!」


「神の山でその神の使いが怪我をしたんじゃ笑い話にもならん。ゆっくり行くしかない」


モルチがため息を吐きながら後ろを歩く。多分、落ちたら怪我しないように受け止めてくれるつもりなんだろう。本人は怪我しても治るしね。


「あっ!じゃあこうしましょう!」


ヘブンが良い事思い付いた!と言うので、その通りにしたら。


ヘブンの上に、私。その後ろにナイト。さらに後ろにモルチ。


「おい、ヘブン・・・これじゃむしろ一番後ろのモルモルが落ちるだけなんじゃねぇの?」


ナイトまでモルモル言うようになってるんだが。


「これからですよっ!」


張り切った声でヘブンが言うと、ムクムクムク・・・と目線が上がってくる。


ヘブン(中)がヘブン(大)になってる!


「お、おい!、崖に付きそうだぞ?!」


モルチの声で横を見るとモフモフの毛が切り立った壁に付きそうになってる。


大変だ!私のモフモフが剃られてジョリジョリになっちゃう!


ピタ。


と突然ヘブンの巨大化が止まる。


「あれ?ヘブン・・・前はもっと大きかったよね?もしかして・・・」


「はいっ!途中で止められるようになったんですよ~!」


「え~っ?!すごいすごい、いつの間にっ?!偉いヘブン~!最高~っ!」


「えへへ~実は夜寝る前に毎日少しだけ練習してたんです!お役に立てて嬉しいですっ!」


「役に立てるどころじゃないよ~!可愛いし強いし可愛いし~!」


手元のヘブンの毛を思いっきりモフモフしてあげてると、頭上からナイトの声が降って来る。


「二回可愛いって言ってますよ。よしヘブン、次は人型になるの目指そうぜ」


「お前たちは一体何を目指しているのだ・・・」


呆れた声のモルモルを振り返ってこっそり見てみると、フェンリルの背中に乗るのは初めてなのか手のモフりは止まらないご様子。わかる、わかるよモルモル。


「じゃあこのまま駆け上りますね~っ!」


「え、駆け・・・?」


ブワッ!


跳ねるように走り出したヘブン。そうなると、その背中に乗ってる私たち三人も同じく跳ねる訳で。


「っぎゃ~っ!助けてぇ~!」


「ヘブン!おい止まれっ!こらっ!」


「・・・っ!!!」


ピョンピョンと走って数百メートルくらい進んで止まるヘブン。


「あ、もしかして走らない方が良いですか?」


「ふ、普通によろしく・・・」


「当たり前だろっ!・・・あれ?!これ、モルモル息してますか?!」


「い、一応な・・・わたしは殺しても死なんはずだが、死ぬかと思ったぞ・・・」


瀕死のモルチも含めて、なんとか落ちずに済んでよかった。


皆に怒られて、仕方なくポテポテと普通のスピードで進み始めるヘブン。うん、このくらいの早さなら落ちないし歩くよりは断然早そう!


よ~し、このまま程良いスピードで一気に頂上まで行っちゃおうじゃないの!

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