エピソード 139
「ね~モルモル~ホントにこの辺なのぉ~?」
巨大な神の引き戸を通ると、目の前には何故か枯れ野原が広がってて、モルチ曰く「ここのどこかに石があった」のだそう。
見渡す限りの原っぱは、枯れた芝生のような草が生い茂っていて黄褐色。その中で、私が歩いたところだけ鮮やかなピンク色の芝桜が咲いている。そして、神殿に通じる扉から半円状に数百メートルくらいは真っピンク。つまり、もう近場は調べ終わってるって事で・・・。
「一回戻って休憩してからまた来る?」
「・・・それはちょっとカッコ悪くないっすか?」
ナイトめっちゃ嫌そう。まぁ確かに、ちょっと休憩しに戻ってきた世界を救う神の使徒って親近感ありすぎるね。
「お前は何か感じないのか?テリーナ様は石に近付くとわかるとおっしゃっていたが」
遠くを見ていたモルモルが上半身だけ振り向いた。
「ん~今の所何も・・・ってかこの辺はもうお花咲いてるし、咲いてないトコ行こうよ」
「でも神殿の扉から離れたら、現在地が分からなくなりません?目印になりそうなもんもないっすよ」
と言うとナイトが扉を見る。確かに扉が見えなくなったら戻って来れなさそう。
「あっ!じゃあこういうのは?」
そう言うと、神殿の扉の近くまで歩いて行って手をかざす。
出したのは、モルチの顔にぶつけた超絶臭いと評判のキモクサデカ花、ラフレシア!
ちょっと鼻を近づけてみると・・・んぐぇっ!くっっっっさい!何この臭い!腐った肉と夏の外回りを終えたサラリーマンの靴下をミキサーにかけて三日常温放置したみたいな香り!ぐぇぇぇぇぇ・・・。
「今代の緑の使徒は、変な趣味でもあるのか・・・?」
「なんで嗅いでんすか・・・うえっ、臭いこっちまで来た!」
「キ、キトルさまぁ・・・わたくし鼻が利くので辛いですぅ~」
三人にドン引きされて、すぐにラフレシアを消す。
「ぷはぁ~っ!は~っ・・・いやね、遠く離れても、強い臭いがあればヘブンが分かるかな~って思ったんだけど」
「・・・出所がわかっても、そんな臭いの方には行きたくありません!」
そうだね、そりゃそうだ。身をもってわかりました・・・。
「というか、音とか光とかでいいんじゃないっすか?それならヘブンだけじゃなく俺らでもわかりますし」
「それだ!」
びしっ!とナイトを指差して、そのままのポーズでくるりと神の扉の方を向く。扉近くの地面からニョキニョキと出てきたのは・・・
「じゃ~んっ!スピーカーのお花、ミラーボールバージョン!お花の中心にあるスピーカーを発光させ、花びらをミラーボール仕様にすることで光を分散させたこのお花、光と音の相乗効果で聖神国へと向かう気持ちをよりいっそう盛り上げてくれることでしょう!」
どやぁ!と胸を張って見せる。ギラギラと光るお花の中心からは「ウェルカム・トゥ・大神殿!レッツ・ゴー・トゥ・ザ・神の国!」と軽快な音楽とアナウンスが繰り返し流れている。
「どう?!わかりやすいし、良くない?!」
「・・・こいつはいつもこうなのか?」
「まぁそうっすね。常に新鮮な気持ちでいられますよ」
「キトル様はいつも楽しそうですよね~」
なんだいなんだい、盛り上がって行こうぜ?
何故か盛り下がった従者たちを連れて、ミラーフラワースピーカーから離れるように歩き出す。
「こっちでいいんすか?」
「ん~何となく!違ったら、お花が咲いてないところしらみつぶしに探し、て・・・」
「キトルさま?どうしました?」
ヘブン(中)が鼻先で頭をフンフンするから、鼻息で浮かんだ髪の毛が目にかかる。
「こっち・・・あった!わかる!こっちだよ!!」
何度目かのあの感覚。その感じが強くなる方へと走り出す。あっちじゃない、こっちだ、と目をつむって集中しながら探し回っていると。
「あっ!」
「キトル様!大丈夫っすか?!」
「・・・いったぁい!!」
感覚だけを頼りに走ってたら、足元見てなくて大きな石に躓き、思いっきりコケちゃった。起き上がると、探していた石の上に乗っている。
「あったぁ!ね、ほら、見つけたよ!最後の石!」
「はいはい、それより、怪我無いっすか?」
ナイトに脇を抱えられ立ち上がると、ヘブンが今度は心配そうにフンフンと体中を匂って血が出てないか確かめてる。
「大丈夫!私も強くなったしね!」
むんっ!と力こぶを作ると、ナイトがブハッと吹き出した。
「そうっすね、初めてばあちゃんの所で会った時はガリガリでしたしね」
「これからはムチムチになるからね!やっぱり神様に、ついでにムチムチもってお願いしてみようかな」
「やめてくれ、それは自力でするんだろう?それよりも、ここでこの大陸全てに神の力が行き渡るんだ。離れるぞ」
そう言ったモルチがナイトとヘブンに目配せし、三人が後ろの方へと下がっていく。
ここで最後かぁ。確か、ここの石に力を込めると、山にかかった霧が晴れるんだよね。
そういえば大陸をぐるっと回ってきたけど、山って見えなかったな・・・。霧がかかってるって言っても、そんなに見えないもん?
まぁいいや。考えても仕方ない事は時間の無駄だ。やる事やってりゃ見えるしね!
しゃがみこんで、石に手を当てる。大きいのは大きいけど、他の国よりは小さい気がする。やっぱりこの国にまだ緑が残ってるから?
でも、所々に緑が残っていたとはいえ、馬車から見える色は枯草色や土色が多かった。
泊めてもらった村の人達や神官の皆、この国の人達には、あの芝桜の丘がよく似合う。
神様に祈りを捧げ、真面目に生き、人を助け、子を育む。そんな人たちの瞳に映るのは、鮮やかで美しい色であって欲しい。
その為に、この石の中を流れてる温かな水を国中へと送らなきゃ。
温かな水が大地に染み込み、そこから小さな芽が出て一気に芽吹く芝桜。その美しさは土地だけじゃなく人々の心も癒してくれるはずだ。
敬虔な神への祈りを捧げる人々。祈りの声は天へ、花の彩りは地へ。皆の心に応えるように、この清らかな花を!
パッと目を開けると、飛び込んできたのはピンク、ピンク、ピンク・・・。
「っひゃ~!すご~い!きれ~!」
私の声が聞こえてすぐに走り寄って来るナイトとヘブン。
「キトル様、お疲れさまでした」「お疲れさまでしたっ!」
「うん!・・・おっと」
乗っていた石が小さくなっていて、私の足はほとんど地面に立っている。
「ここの石は隠さなくても良いぞ。そもそもこの場所に来れるのが使徒様だけだからな」
とゆっくり歩いて来るモルチが、モジャモジャヒゲの顎でクイっと上を指す。
「ほれ、見えてきたぞ」
・・・うっわ・・・これ、ヤバいのが見えてきちゃったんじゃないの~?!