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緑の手のキトル〜極貧で売りに出されたけど、前世の知識もあるから全然生きていけます〜  作者: 斉藤りた
セラフィア聖神国編

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エピソード 138

「この国では、神の扉の向こうにあるぞ」


何を今さら、とでも言わんばかりのモルチの顔。


「え?!そうなの?!」


「お前は前の使徒の手記を読んだのではないのか?あの、小さな本のような」


「読んだ読んだ。でもあれメモ帳だから、単語がバラバラに書いてあるだけだったし。モルモルの事もモルチ・セラフィアって名前しか書いてなかったよ」


「あぁ、そういえばあの頃はそう名乗っていたな。あの手記は前の使徒らがフロストリアへと向かう前に荷物から抜き取ったのだ。私には読めぬが、何かの役に立つかと・・・。あの娘も山には登れなかったが、神の扉の向こう側には行っていたのだぞ」


あら、そうなんだ。


「そもそも、どの国においても神の力を与える場所というのは神々の山に一番近い場所にあるのだ。人々が聖なる山に近い場所で神の力の恩恵を受けようと集まり、首都となった。だから首都からセイクリッド山に向かえば必ず辿り着く。・・・そういった歴史は、前の使徒やテリーナ様も親から教えられて知っていたはずだが」


ん~と・・・なんて言えばいいのかわからなくて、チラ、とナイトの方を見る。


「少なくともアルカニアではおとぎ話に近い感じで伝わってますね。なので、首都の成り立ち自体は一応子供でも知っています。ですが、キトル様は親に虐待に近い扱いを受け、社会と断絶された環境だった為、基本的な常識をご存じではありません」


「!!」


驚くモルチと大神官の皆様。久しぶりだなぁ、この反応。


「それは・・・」


「あ、もう気にしてないから大丈夫だよ。色々あって肥溜めに落ちたらしいし」


「こ、肥溜め?」


あ、端折り過ぎた。


「まぁそれはもうどうでもいいよ。とりあえず、扉の向こうに行けばいいって事ね。じゃあ、今日はもう休もうよ。神様に会うのなら、お風呂入って綺麗にしてから行きたいし」


「それもそうっすね。腹も空きましたしね」


おい、さっき私の分のヨーカンも食べたやつが何を言うか。


「綺麗にする必要は・・・まぁ良いか。では明日出発だな」


ん?なんだ?


モルチの含みのある言い方が気になったけど、セリオスさんの「キトル様のお部屋にはヨーカンを多めに準備させておきますね」の一声で全部吹っ飛んでった。やったぁ!






「キトル様、我ら神官一同、無事のお戻りをお待ち申し上げております。神のご加護がありますように」


モルチグルグルドッカン未遂騒動の次の日。セリオスお母ちゃんにあれやこれやと色々持たされてカバンに詰め込んだ後。


大神殿の中をウロウロして大神官さん達に見送られ、一番奥にある部屋に入った。


四、五階くらいの高さまでの吹き抜けと、正面と左右全体に広がるステンドグラスのような壁。そして正面のステンドグラスの中央にはとても人の手では開けられなさそうなドデカイ扉。扉・・・?


「コレ、ほとんど門では?」


「サイズ的には門っすね」


「わたくしは来た事あるような無いような・・・」


「『創造神アルカスを祀る大神殿の最奥に、聖なる霊峰セイクリッドへ通ずる唯一の扉あり。その扉は、千年を経ようとも決して人の手には開かれぬ。神の御心に触れし緑の使徒こそ、その扉を動かすことを許される』古くから伝わる伝承だが、聞いた事はないのか?」


私達の後ろに、縛られてないモルチが遅れて合流した。部屋に入る時まで警戒してたセリオスさん達に、ドアが閉まるまで深々と頭を下げてたみたい。


「ないっすね。俺ばあちゃんに育てられたんで色々昔の話は聞いてますけど、全く」


「そうか・・・時代と共に忘れられてゆくものなのかもしれんが、こういう伝承くらいは残っていて欲しいものだ」


そう言うと、私の方へと向き直る。


「この扉は誰が何をしようとびくともせぬ。この大きさ通り、重く動く気配すらない。だが、緑の使徒であればいとも簡単に動かせるのだ。さあ、手をかけるといい」


モルチに促され、扉の前に立つ。見上げると、それはそれは大きくて、圧迫感すらある。扉表面には読めないけど文字のような文様が刻まれ、金と白銀の装飾が荘厳な雰囲気を醸し出している。


その巨大な扉と比べると、とても小さく見える穴に手をかける。


グッ・・・!


力いっぱい引いてみるけど、動く気配がない。もう一回・・・!持ってない方の扉に右足をかけて、思いっきり引っ張る。


「っぷはぁ!え?動かないんだけど!」


「押してみたらいいんじゃないっすか?」


「あ、それは・・・」


モルチが何か言いかけたけど、ナイトに言われた通り肩も使って押してみる。


「ッダメだぁ~!動かないよ?!なんで?!」


モルチが口を開いて閉じ、また開いた。


「一度通った私がどこまで教えて良いのかはわからないが・・・その扉の文字を読んでみると良い」


文字?目の前にあるミミズのダンスみたいなやつか。


「ナイト、読んで」


「へい。え~っと・・・『かの国の古き様式をもって、戸を引きて開けよ』ってありますね」


引きて?


もう一度穴に手をかけ、横に引っ張ってみる。


ススゥ~ッ。


和室にある軽いふすまのように、大きな扉が滑らかに横へと動いて行く。


「なんっじゃこりゃ!引き戸かよっ!」


「ヒキド?・・・うわっ、俺が押しても全然動かねぇ」


ナイトが開いた扉の隙間に身体を入れて押してみるけど、これっぽっちも動かない。


これ、誰が作ったんだ?引き戸って・・・


・・・あ、でも緑の使徒が日本から転生してきた人だけなら、このヒントで分かるのか。


「なるほどねぇ~」


「あっ!思い出しましたっ!前の使徒さまも横に動かして、なるほどねって言われてました!」


ヘブン君や、ちょっと遅かったかな~?


「あっ!ちょっとっ!キトル様っ?!これ閉まって来てませんっ?!うわっ!ちょ、助けてっ!」


ゆっくりと閉じて来てる扉の隙間でナイトが挟まりかけてる。これ放っておいたら、スプラッターナイト?ホラーなナイトになっちゃう感じ?


「も~何やってんのよ」と言いながら閉じて来てる扉を開けてあげる。


モルチがくっくっくと笑いながら「万が一にも無関係な者が通る事が無いようにだな。まさか従者が挟まるとは思わなかったが」と肩を震わせている。


全くもう、カッコつかないったら。でも、これが私達らしいっちゃらしいよね。


さてさて、じゃあ最後の石の元に向かおうじゃないの!

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