エピソード 134
ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・
「なんだ、何の音だっ?!」
「爆弾よ!もう終わりだわ・・・」
「ち、違うぞ?!地面が揺れている?!地震だ!」
違うよ~!キトルちゃんの仕業だよ~!
口に出して言いたいけど、今はちょっと無理かなっ?!なにせ、塔の先端にある爆弾の実が魔道具とぶつかって大爆発を起こす前に止めなきゃだからねっ!
両手を秘学塔の根元に向けて、力を込める。
ガガガッ!!
大きな轟音と共に、秘学塔の周りの石畳から五本の巨大な芽が突き出した。
それらは凄まじい勢いでらせんを描きながら塔に巻き付き、成長と同時に壁の崩落を防ぐよう、隙間を緑で覆い隠していく。
ぐんぐんと伸びる蔓が間もなく塔の先端へ到達しようとした時、その五本の先端が塔の窓から内部へと滑り込んだ。
ガタガタと揺れる塔の壁は既に先端付近にまで到達し、その中では爆発を起こそうと魔道具が昇っていくのがわかる。このままでは爆発が起こる!と全員が思った、その瞬間。
「いでよっ!パックン君!」
塔の頂上より数メートル下、空中に突如として現れたのは、赤地に大きな白い水玉、そして太い白縁をぐるりと囲んだ大口を持つ巨大な球体の花。その口の中には、天を向いた鋭い三角の牙がぎっしりと並び・・・
パックン!
爆弾もろとも、塔の先端をひと噛みで飲み込んでしまった。
そのまま大きく頬をふくらませ、もごもご、もごもごと噛み砕く。やがて・・・
ドンッ!
口の中で爆発が弾け、白い唇の隙間から黒い煙がもれる。
「ゲェッフゥ」
と大きなゲップと共に、真っ黒な煙を天高く吹き上げるパックン君。
うんうん、良い働きじゃ。ゲップはお下品だけど。
爆発の煙が風に流され消えたあと、そこに残ったのは塔より一回り太い茎を持つ、大きくてポップなカラーのパックン君なフラワー。
「パックン君、なんすか?パッ君、じゃなく?」
眉間にシワを寄せたナイトが聞いてくる。
「そう、パックン君!パッ君だと、ダッ君と聞き間違えそうでしょ?」
「ぼ、ぼ、僕ですかぁ?!」
いつの間にか近くまで走ってきてたダッ君が膝に手をついて息を整えている。カバンからナイトが水を取り出しダッ君に渡しながらこちらに顔を向けた。
「キトル様、あんなにデカいの作って大丈夫っすか?眠くなりません?」
「あ!そうそう、なんかもう寝なくていいらしいよ!どれだけ力使っても大丈夫なんだってさ~」
「え、ズルッ!」「すごいですねっ、キトルさま!従者として鼻が高いです~!」
「な、な、な・・・おい!貴様!何が、どうなって・・・」
せっかく従者ズと楽しく話してたのに、モルチが大声出して割り込んで来た。
ネバ網の下では皆さん静かに放心気味だってのに。
「は・・・?失敗、なのか・・・?何故・・・あれほど長き時をかけて・・・」
呆然とした様子で独り言のようにつぶやき続けるモルチ。その瞳には涙が浮かんでいる。
「モルモルさん、アナタは、千百年前の緑の使徒、テリーナさんの従者のモルチさんで間違いないですね?」
さっき、テリーナ様って言ってたのが聞こえてた。親しげに名前を呼ぶモルチって名前の人なんて、その従者以外にいないしね。
「なんでまだ生きてるの?従者だから?でもテリーナさんは亡くなってるんでしょ?」
「わたしは、また・・・1人で、孤独に、待たねばならぬのか・・・?」
むっ。聞いてないな?仕方ない、アレを作るか。
茫然自失のモルチの目の前に、赤黒い巨大な花が咲く。
まるで肉の塊を思わせる色彩、厚くぬめった花弁の表面には白い斑点が無数に散り、五枚の花弁が重たげに開くと、そこから放たれた異臭がモルチの鼻を突き刺した。
そう、かの俺様ドラゴンも鼻をしかめた、デカくて超臭い花、ラフレシア!その花の中心を、モルチの顔に、ド~ン!
「ぶふっ!な、なんだこ、ぅおえぇっ!臭いっ!おい、これを、おえっ、どけろっ!」
「戻ってきた?じゃ、お話聞かせてね?モルチさんは、千年前からずっと生きてるわけ?」
ラフレシアを消してあげると、少しせき込んで大きく息を吸い、観念したように声を出した。
「・・・そう、だ。千と百余年。わたしはこの世から離れておらぬ」
ざわっ
大人しく話を聞いていた網の下の群衆がどよめく。
「なんで?」
「・・・かみ、の、おえっ、みを、食べたのだ」
まだちょっと気持ち悪そうにえずきながら続ける。そんなに臭かった?今度ちょっと離れた場所から匂ってみようかな。
網の下では「ヒィッ」とか「なんと罰当たりな・・・」「神殺しか」という声も聞こえる。
「老いず、傷つかず、呼吸を止めようと首を落とそうと、死ぬ事も飢える事もなく生き続ける・・・それが神の力を手に入れたわたしなのだ」
「それは単に死なないだけでは?」
「神の力だ!前の使途が遺した花も果物も、テリーナ様の遺した植物ですら、わたしにかかれば思いのままにその性質までも変えられるのだ!」
「え?使徒の皆が作ったのを変えられるだけ?自分で生み出せないの?」
「・・・その必要がないから、わざわ」
「な〜んだぁ、神の力でもなんでも無いじゃ〜ん!」
「キトル様、あんまり言うと流石に可哀想っす」
あ、モルチってばまた涙目。悪いやつのくせに打たれ弱すぎない?と、完全に私がいじめっ子と化したその時。
「モルチ様・・・」「様・・・」
おずおずと、進み出て声をかけたのはダッ君にカゴから出してもらったドワーフ兄弟。
「僕らを助けてくれたのは、何故だったんですか?沢山の人を殺そうとしたのに・・・なんでなんですかっ?!」「ですかっ?!」
涙を浮かべた兄弟と目を合わさず、モルチが口を開いた。
「お前達が、テリーナ様の弟達に似て・・・いや、生まれ変わりかもしれないと、そう思ったのだ」
ポタポタと涙を落としながら続ける。
「わたしは、テリーナ様にもう一度会いたかったのだ。ただ一緒に過ごし、笑顔のテリーナ様を見たかった・・・ただそれだけだったんだ」
やっと、本音らしい本音を語ったね。
「テリーナ様が、神に願いを叶えてもらうと聞」「わ〜っ!わ〜っ!わ〜っ!」
ダメでしょ?!それ言ったら!!あれ?!いいのっ?!
いやダメでしょ!!多分!多分ね!!
ちょっと、続きは別室で詳しく聞かせてもらおうじゃないのっ?!




