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緑の手のキトル〜極貧で売りに出されたけど、前世の知識もあるから全然生きていけます〜  作者: 斉藤りた
セラフィア聖神国編

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エピソード 132

チャリーン!


「ぬおっ?!」


突然頭の中に鳴り響くあの音。


思わず出ちゃった変な声が静かな広場に響き、ナイトが怪訝な顔でこっち見てる。


『スキルレベルが上がりました』


こ、このタイミングで?確かに今芝桜咲かせたトコだけどさぁ。


まぁいいや、次は何がどうなるんだ?


『レベルがマックスとなりました。強制スリープモードが解除され、スキルの制限がなくなります』


・・・ん?


どゆこと??なに?私ってば最新家電か何かだったの?


強制スリープモードが解除・・・制限がなくなる・・・


・・・つまり、どれだけ力を使っても、前みたいに眠くならないって事?!


マジデまじでMAJIDE~?!


すごい!無敵じゃん?!じゃあ力使い放題って事?え~ヤバ、どうしよう。何からやろうかなぁ~。


はっ!


一人で百面相してたけど・・・球場サイズの広場に集まった白装束の観客が、全員こっち見てる。


「・・・キトル様、大丈夫っすか、頭」


うん、今回ばっかりはナイトにそう言われても仕方ない気がするよ・・・。


「キトル様、あの者がそうなのですね?」


広場と馬車の間に立ったセリオスさんが、頭上に浮かぶグルグル巻きのツタをチラリと見て私に問いかける。


「うん、間違いないよ」


こればっかりは絶対にそう。あれがモルチじゃなけりゃ逆に何だってのさ。


セリオスさんが広場の方に向きなおり、大声で経緯を説明し始める。


うん、ここはセリオスさんに任せよう。大神官で、人の前で喋るのに慣れてて、説明も上手いしね。


決して私が楽したいからとかじゃないよ?ほら、私ってば神の使いらしいし、ちょっと偉そうにしといたほうがいいしね?


せっかくだし、馭者席に座ってふんぞり返ってみる。視線が上を向き、宙に浮かぶモルチで止まる。


口までツタで巻かれた姿は、どう見ても高齢のお爺ちゃんそのものだ。


薄くなった頭に残る髪の毛は真っ白で、その額と目じりには年齢を感じさせるシワが浮かんでいる。


魔道具か何かで姿を変えてるんだろうけど、ドワーフじゃなく人間だよねぇ。


その瞳はまっすぐに私を見てるけど、何を考えているのか偽物の目からは読み取れない。


「セリオス卿!それだけでは、マルティス老がモルティヴァ神を名乗る者だという証明にはならんぞ!」


最前列にいるゴリラっぽい大神官が叫ぶ。モルチの偽名、モルチ・スローっていうの?変な名前だな。


「そ、それは・・・」


セリオスさんがチラチラとこちらを振り返り、目で何か訴えてる。


あ、そうか、モルチってわかったのって、私がコイツだ!と思ったからだもんね。


スッと立ち上がり、ゴリラ神官の方を向く。


「私がそうだと感じたからです。それ以上の理由が必要ですか?」


あれ、何か思ったより怖い感じになっちゃった。私、悪役みたいになってない?


「し、しかし、マルティス老はその生涯を神に捧げ、創造神アルカスの教えを広め数多くの人々を救う事に尽力されたお方です!かのような悪しき者ではありません!」


むむむ。ゴリラ神官め。まだ言うか。


「このモルチ・スローは」


「マルティス老です、キトル様。マルティスに老人の老」


横からナイトの訂正が入る。なんだ、ゆっくりなモルチじゃないのか。


「このマルティス老は、仮の姿。姿を変えているんです」


そう言って、片手を上げる。


ん~っと、魔道具を何か身に着けてるんだろうから、ツタで振り回せばその魔道具も外れるかもしれないけど・・・絵面的にお爺ちゃんを振り回すのは何となく嫌だなぁ。


うん、何か作っちゃえばいいか!


魔道具の効果を無効化するやつ・・・魔道具を身に着けてるとしたら服の下だろうから、お水みたいなのぶっかけたら染み込むしいいんじゃない?


あ、ちょっと粘っこければすぐに乾いたりしなくていいかも!


よ~し、じゃあ・・・


グルグル巻きのモルチの上に、ポンッと細い花びらが密集した黄色の花を咲かせる。


と、見る見るうちに枯れ、その根元がグングンと膨らみ丸々とした実になり・・・


パンッ!


と弾けると、中に詰まっていたたっぷりの蜜がモルチの頭からシャワーのように降り注いだ。


「ん~っ!ん~っ!」


ここにきて、初めてモルチが抵抗らしい抵抗を見せるけど、もう遅いもんね~っだ!


顔を伝って体の中にまで蜜が染み込んでっているから、そろそろ魔道具の効き目が切れるはず・・・


「わ~っ!何だこれは!」


ほらね、やっぱり。と声が上がした方を見ると・・・んんっ?


「だ、大神官様!神が!じゃない髪が!髪の毛が!」


「み、見るな、見ないでぇ~!」


キラリと光る頭を洋服で隠すように抱えて騒いでいる大神官と、そのお付きの人。


あ~・・・位置的に魔道具無効化の蜜がかかって、フサフサの頭に偽装してたのにピカピカの頭ってバレちゃった感じ?


うん、なんか・・・なんかごめん。


「貴様・・・これまでの苦労を水の泡にしおって・・・」


おっそろしいセリフが降ってきた方へ顔を上げると、白髪のお爺ちゃんが居なくなってる。


ツタに巻かれているのは、モサモサの黒い髪の毛、三つ編みにされた顎髭に、筋肉質な体は明らかに人間のそれより小さい。


ドワーフだ。ドワーフの、モルチ。自称神様。


身体はまだツタに囚われてるけど、元の姿に戻ってサイズが変わり、口元が出たから喋れるようになったのか。


広場に集まる人達から、小さな悲鳴や息をのむような音が聞こえる。


「初めまして。モルチさん?モル神様?なんて呼べばいい?」


「モルガミ・・・?そのような奇怪な名を付けた覚えはない。崇敬と畏怖の念を込め、モルティヴァ神様と呼ぶがいい!!」


「・・・その格好で偉そうにしてたら首痛くない?」


「きっ!貴様!不敬だぞ!」


空中でグルグル巻きにされてるのによくまだ吠えれるなぁ。


「キトル様にかかるとどんな相手も三流になっちまうな~」


「そこがキトルさまの素晴らしい所なんですよっ!」


従者ズが好き勝手言ってら。


「ふん、この偽物め!おい!この偽物を捕らえろ!」


「まだ言って・・・」


ナイトの言葉を止めるように、広場で立ち上がる人影。


「え」


全体の数からするとそれほどではないけど、百人くらいの人数がまばらに立ち上がり、動き出す。


「きゃ~っ!」「やめろっ!」「戦え!」「捕まえろ!」


至る所から上がる叫び声、中央付近では小さな爆発、奥の方では火の手が上がる。まさに阿鼻叫喚。


「はははは!さあ!誰がこやつを捕まえ、神を救い出すのだ?!」


う~む、これは私じゃないと止められないやつだよね。


スキルアップしたキトルちゃん、さっそく力の見せ所なんじゃないのっ?!

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