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緑の手のキトル〜極貧で売りに出されたけど、前世の知識もあるから全然生きていけます〜  作者: 斉藤りた
セラフィア聖神国編

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130/147

エピソード 130

「事前にしてもらう事は色々ありますけど、向こうについたらキトル様は好きに動いてください」


聖都到着を控えた最後の村での作戦会議中、何故かナイトに釘を刺された。


「俺らは色々考えて動きますけど、もし最悪の場合・・・モルチが本当に神のような力を持ってて世界の破滅を望んでるとしたら、最後はキトル様に頼るしかないんす。だから、余計な事は考えず、思うがままに行動してください」


「ナイトさんの言う通りです。キトル様の言葉も行動も、それが神のご意思なのです。我々のような矮小な人間の考えに神の使徒様を従わせるなど、神職者にあるまじき冒涜です。キトル様はそのお心の赴くがままに。それが何よりも最上の結果を生む事でしょう」


ナイトとセリオスさん、二人がかりの放任主義。うん、まぁダメって言われたって好きに動くんだけどさ。


「とにかく神殿まで邪魔されずに行くってのと、神殿で働く全員、特にモルチが隠れ蓑にしている大神官たちと、その手下がいるであろう秘学神官たちは全員大神殿の前にある広場に集めるというのが最初の目標っす。そこまでキトル様はヘブンと隠れててください」








ピョ~イ、ピョ~イ、と空高くで鳥が鳴いている。変な鳴き声・・・と窓から空を覗くと、ナイトが「あれは聖都にしか生息しない鳥っすね。聖都が近い証です」と教えてくれた。


窓の外の進行方向には、大きな建物がいくつも立ち並ぶ街が遠くに見える。全て真っ白な建物。宗教的な意味合いがあるんだろうけど、汚れが目立ちそうだなぁ。


最後の村でセリオスさんと交わした会話を思い出す。


『聖都には街を囲む壁や城門などはありません。生まれや種族などに関係なく、全ての者に信仰は与えられるという神の意志を表しているからです。その分魔獣の危険に晒されやすいので、その脅威から信者を守るために秘学神官が存在するのですが・・・』


説明していたセリオスさんが口ごもる。秘学神官もモルティヴァ信者の可能性があるんだもんね。セリオスさんの様子を見たナーさんが話を続ける。


『聖都の中でセイクリッド山に一番近い場所にある、ひときわ大きな建物が大神殿です。大神殿を正面に見た時に右側にある高い塔が秘学塔になります。大神官様達は神殿の中に住居となる部屋を持たれておりますが、もしモルチが逃げ込むとすればそちらではなく秘学塔でしょう。様々な魔道具が保管してあるのは秘学塔になりますので』


ナーさんは感情を込めずに淡々と話を続ける。


『秘学塔に逃げ込まれてしまうと非常に危険なので我々では手を出せなくなります。なので、その前になんとしても捕らえなければ』


ガタン!と地面が石畳に変わった揺れで現実に引き戻されると、馭者席に座ったナイトから声がかかった。


「ヘブンとキトル様は隠れて、顔を出さないようにしてくださいね」


「はいっ!」「はぁ~い」しばらく私がやる事はなさそうだし、ミニヘブンを抱っこしたまま馬車の床に座り込む。


街に入ったのだろう、わぁ~!と歓声が聞こえてくる。キトルちゃん宣伝カーの声が届いてるみたいだね。


「ここから分かれます!」


ナイトが叫んだ。


ナイトにバレないようにこっそり窓の外を覗くと、ピンクの鳥カゴを後ろに取り付けた宣伝馬車が違う道に入って行くのが見えた。その横の脇道には、同じく黄色の鳥カゴを取り付けた宣伝馬車が。


そう、街に入って大神殿までの道のりで気を付けるべきなのは大神官よりモルティヴァ信者だから、目くらましをすることにしたのだ。


カラフルな鳥カゴを後ろに取り付ける為の宣伝馬車を追加で作り、それぞれにセリオスさん、ダッ君、ナーさん、ゴッさんを馭者に据え、私が乗る馬車にはナイトが。最後の村で調達した馬に、神官服を着たナイトが馭者席に座ると、パッと見ではどれも同じに見える。鳥カゴの色は違うけど。


ただ私が乗る馬車には鳥カゴがなかったので、それはもう一つ追加で作ったんだけど・・・。


「よし、何か仕掛けられる前にこのまま一気に神殿まで行きます!」


小窓からナイトの声が聞こえ、ガタゴトと馬車が激しく揺れ始めた。


神官の四人も違う道を通って大神殿に向かう予定。


う~ん、隠れてて外の様子が分からないし、ちょっとドキドキしてきたぞ。


えっと、この後どうするんだっけ。


大神殿に着いたら、ナイト達が神殿にいる人たちを馬車が到着する広場みたいなところに全員集めるから、それから・・・


「キトルさま、大丈夫ですかぁ?」


気付かないうちにヘブンを抱く腕にも力が入ってたみたい。


「うん、ここが最後なんだもんね、頑張らなきゃ」


自分自身に言い聞かせるようにつぶやくと、ヘブンがコテンと首を傾げた。


「お役目はこことお山で終わりですけど、行ってない場所とかまた会いに行く所が沢山ありますから、まだ最後じゃないですよ?」


真っ黒の毛の中でクリクリとした真っ赤な瞳が正面から私を見つめてる。


炎を閉じ込めたガラス玉のような瞳には、もう見慣れたキトルの顔が、いつもと違って緊張した様子で映ってる。


・・・そうだね、そうだった。ここはまだまだ旅の途中だよね。


モルチなんて通過地点に立ってるだけのオッサン(?)なんだし、そんなに気張る事ないんだよね!


「えへへ~ヘブンありがと!大好き~!」


ムギュ~ッとモフモフに顔を埋めると「えへへ、わたくしもキトルさま大好きですぅ~」と返事が返って来る。


ん~堪らないねぇ。


「ヘブン、キトル様、そろそろ着きやす。セリオス様が先に着いてもう人を集め始めてるみたいっすね」


ナイトの声が聞こえてモフモフから顔を上げる。


うん、大丈夫。いつも通り。私は私に出来る事をしたいようにすればいいだけ。


いっちょやってやろうじゃないの!

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― 新着の感想 ―
とあるサイト『マ◯スタ』にて教えて頂いた者です。 人違いなら申し訳ありません。 ですが、大変面白く読ませて頂きました。 コミカルで活き活きした主人公がとても魅力的です。 久しぶりに自分好みの小説に出会…
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