エピソード 129
「別にややこしくないでしょ」
わぁ~お、バッサリ。テレビショッピングの包丁でトマト切った時ぐらいバッサリ。
ここはドワーフ兄弟二人の村を出てガタゴトと揺れる馬車の中。結局村の人達の証言は「どんな人か思い出せない」以上の情報が得られず、すぐに出発する事になったのだ。
で、今日も元気に宣伝してくれてる馬車に乗り込んで、ナイトに「大神官が変装したモルチなんて、ややこしい事になって来たね」と言ったら真っ二つに切られちゃった。
馬車の中には私とナイト、それに若見え神官のダッ君の三人。他の人達は一緒に来ることになったドワーフ兄弟と、村で調達した本物の馬の馬車に乗り込んで最後尾を走っている。
「でもどの人がモルチかわかんないんでしょ?」
「認識阻害の方を使ってればすぐにわかると思うんすよ。アレは子供には効かないんで」
なんでそれでわかるんだろ。首を傾けると「キトル様も子供っすよ」と言われてハッとする。
そっか、私が見てドワーフが居ればそいつがモルチなのか!
「なるほどね、そういえば私子供だったね」
「どんな会話なんですか・・・。でもナイトさん、僕らが大神官様達の顔を思い出せるって事は」
「そうっすね、神殿では認識阻害じゃなく幻影系の魔道具を使ってるんでしょう」
ダッ君とナイトがなんかよくわかんない会話してる。
「ねぇ、ゲンエーケイって何?」ごく当たり前のことを聞いたつもりだったんだけど、ダッ君はキョトン顔。
「キトル様知らないんですか?幻影系の魔道具っていうのは、身に着けるとその人の姿を変えて見せる魔道具なんですけど」
「あ~キトル様は生い立ちが複雑なんで、色々知らない事が多いんすよ」
うん、まぁそれはそうなんだけど、そう言われるとムッとしちゃうぞ。
「じゃあそのゲンエーの魔道具を使ってたら結局誰かわかんないって事なんじゃないの?」
「実はその幻影系の魔道具にも欠点があって、変えられるのは神の色や目の色、顔つきや輪郭なんです」
「・・・つまり、どういうことだってばよ」
全然わからん。結局誰かわかんなくない?
「あっ!なるほど、そう言う事ですね!」
一人置いてきぼりにされたみたいでム~ッとむくれてたら、ダッ君に笑われた。
「神官にとって使徒様は雲の上の存在だったんですけど、キトル様ってそういうの感じさせませんよね。・・・ナイトさんが言ってるのは、幻影系の魔道具では身長は変えられないって事なんです。モルチはおそらくドワーフなので」
「あっ!やっとわかった!大神官の中で背が低い人がモルチかもしれないって事ね!」
「そういう事っす。」
「大神官様達の中で背が低い方は何人かいた気がするんで、その中の誰か、って事になりますね」
ダッ君が思い出すように宙を見る。
「もちろん、警戒すべきはモルチだけじゃなく信者にも注意が必要です。なので、おそらく大神官達はすぐに挨拶しに来ると思いますけど、対象の大神官を近づけないようにしてください。で、とにかく急いで最終地点である神の扉、でしたっけ?に向かいましょう」
「え、でも私モルチに会いたいんだけど」
「そうですね、じゃあ僕らは・・・えぇぇぇぇっ?!」
え?
ダッ君が超驚いてるんだが?あれ、ナイトも驚いてない?
「え、でも先に使徒の使命を終わらせてからの方が良くないっすか?セイクリッド山から下山した後にモルチを捕まえれば・・・」
「そ、そ、そうですよ!神の使命は使徒様にしか果たせないんですよ!最後までお役目を果たせなかった前使徒様の事もありますし、とにかくまずは使命を果たしてもらわなくては・・・!」
ダッ君が必死に訴えてくる。ん~でもねぇ。
「やる事はちゃんとやるよ?でもあの子達にも、モルチが良い奴なのか悪い奴なのかちゃんと調べるって言っちゃったからさぁ」
「で、ですから、使命を果たされた後にそのような些事は片づければよいのでは・・・」
「え~やだよ!だって山登った後どうなるのかわかんないんだよ?もし草生やせなくなってたらどうするのさ!」
ナイトが私の言葉を聞いて、はっ確かに!みたいな顔してる。その可能性を考えてなかったのか。
「モルチがすごいパワー持ってるやつだったら、皆やられちゃうじゃん。もし悪い奴ならお仕置きしてから登った方が良くない?」
ダッ君、すごいビックリしてるんだけど、そんなに驚く?
一緒に驚いてたナイトが、ふぅ、とため息をついて前を向いた。
「すいません、ダビオさん。キトル様がそうするって決めてるんで、先にモルチの方を片付けてからになりますね」
「さっすがナイト!わかってるぅ~!」ひゅ~う、と両手で指差してみせる。
「えぇ・・・そんなとこまで神の使いっぽくないんですか・・・」と頭を抱えるダッ君。
「ナイトさんもキトル様が言ったら従ってるし・・・いや、こうじゃないと従者は務まらないのか・・・?」
下を向いたままなんかブツブツ言ってる。と思ったら、バッと顔を上げた。
「も~、よし!わかりました!使徒様の言う事は神の言葉ですもんね。じゃあまずはモルチを捕まえる方向で考えましょう!後ろの皆にも伝えてきます!」
そう言うと、ひょいっとドアを開けて上半身を外に出し、そのまま馬車の上部を両手で掴むとグルンっと鉄棒で回るように一回転して馬車の上に乗った。
「えぇっ?ダッ君すごい!」
「ダビオさん、斥候とか情報収集って言ってたし、あの身のこなしだと密偵みたいなこともしてるんじゃないっすかねぇ」
密偵・・・スパイ?!ひょ~カッコいい!スパイのダッ君!・・・うん、コレは止めとこう。
馬車の上から後方へと移動してる気配がする。あの鳥カゴの上走って行ってるのかな。すごいや。
「いや~しかし、キトル様の無茶ぶりには慣れてますけど、先にモルチ捕まえるんすね~」
「捕まえる・・・そうね、見つけて問いただす、かな?」
ドワーフ兄弟が言ってる事が嘘だとは思えないし、世界を破滅させようとしながら子供を助ける矛盾について聞いてみたいな。ただの気まぐれかもしれないけど。
「じゃ、皆にモルチ発見大作戦を考えてもらおうじゃないの!」




