エピソード 128
「神官様やったのは覚えてんねやけど、どない人やったのかまでは覚えてまへんねぇ。アンタ、覚えてるか?」
「いやぁ、覚えてへんなぁ、どやったやろか?」
・・・これ、何弁?関西弁?
ドワーフ兄弟との出会いの後、私達は前日に泊まった村へと引き返してきた。
兄弟が「モルチ様はいい人なんだと証明してみせる!」「みせる!」と協力してくれることになったので、どうせならもうすぐ聖都に着くのだし、モルチについての情報をまとめよう、という事になったのだ。
ドワーフ兄弟へや捕らえたモルティヴァ信者への聞き込みは情報収集が得意な少年神官のダッ君の担当に。「僕にかかれば父親のスリーサイズまで吐かせてみせますよ!」って言ってたけど、それ知ってる人いるんだろうか?
で、とりあえずその辺に居た村人AとBに聞き込みしてみる事にしたんだけど。
「アレ頼まれたのって誰やったんかいな?村長か?せやけど村長去年死んだしなぁ」
「確か金貨くれてお願いされた~言うて空き家に家具まで付けたってんな」
「せやせや、まぁ子供だけで暮らしてくなんて大変やし、スレイガーもマルゲンもええ子やしな。んで、俺らもそれなりに仕事頼んだりするようになってんな」
ダメだ、関西弁が気になってあんまり内容が入ってこないぞ?
ん~っと、多分直接頼まれた村長はもう亡くなってて、兄弟は空き家に家具付きで暮らしてて、村の人にも良くしてもらってる、と。
何よ、良い人達がそばにいてくれてるんじゃないの。実の親が生きててもアレだった私よりマシだぞ?
「使徒様、あいつら、なんぞ失礼な事でも・・・?」
私が黙ってたもんだから、おそるおそる聞いてくる村人A。
「ううん!お世話になったモルチさんって人に恩返しがしたいみたいなんだけど、一緒に来た神官さんはその人を知らないって言うから、どんな人か覚えてたら教えてもらおうかと思って」
「あ~、せやったら村長の娘さんがあっちの家にいはるんで、行ってみたらどないでっしゃろ」
どないでっしゃろ?どないでっしゃろ・・・
「うん、行ってみるね・・・」
ドナイデッシャロが頭の中で繰り返されてるまま教えてもらった家に歩いて行く。
「キトル様、通り過ぎてますよ」
「はっ!そうでっしゃろ!」
「・・・また変な事言い出した」
「いやナイト、あれはあの村人Aが悪いでっしゃろ」
「何言ってんすか?」
真面目にツッコんでくれなくなったナイトが、ちょっと戻った一軒の家のドアを叩いた。
「あぁ、覚えてんで!スレイガー君とマルゲン君が来た日の事やろ?アタシがお風呂に入れたげてん。ま~可哀相な身の上やし、しばらくうちで面倒見てあげようと思っててんけど、迷惑かけれません言うてね~。ええ子たちやし、村には今小さい子もおらんから、みんなで気付かれん程度にお世話してんのよ」
娘さんって言うから若い女の子を想像してたら、見事な大阪のおばちゃんが出てきた・・・。
そうね、無くなるような年齢の村長の娘さんだもんね。そりゃあそうよ。早とちりした私が悪いわ。
「して、あの兄弟を預けた神官らしき人物について教えていただきたいのですが」
セリオスさんがしびれを切らした様子で尋ねる。ちなみにこの娘さんのお家に来てからかれこれ三十分。ずっと喋るし話が脱線するしでなかなか本題まで辿り着かないのよこれが。
「あらまっ!アンタえらい別嬪さんやねぇ!どっかの王子様なんちゃうん?!キラッキラやないの!ま~アタシがあと二十年若かったらねぇ~!え?相手にされんって?!何言うてんのよ~これでも若い時はブイブイ言わしてたんやで?あっはっは!」
この調子で話があっち行ったりこっち行ったり飛び跳ねたり。いや~見習いたい、そのメンタリティ。
あっ!セリオスさんがプルプルしてる!さすがに怒っちゃうかも!
「神官さんだったんですよね?この人みたいにイケメンとか、背が高いとか、何か覚えてる事ありませんか?」
「え?あ~そうねぇ・・・確か・・・」
慌てて身を乗り出して聞いたから、セリオスさんのプルプルは止まったみたい。良かったぁ。
「あれ・・・?おかしいわね」
さっきまで饒舌だった娘さんが、口よどんでいる。
「何でもいいんです、どこの所属とかまで分かればありがたいですけど」
「違うのよ、思い出せないのよ。『なんにも』」
「こちらも同じでした。モルティヴァ信者はモルチに会って直接話をしたことがある、とは言うのですが、みなその姿かたちはおろか、声や人種すら思い出せないそうです。しかし、『それこそが神である証だ!』という始末で・・・」
「何言ってんだか!そんなもん神でもなんでもねぇ、単純に魔道具を使っただけでしょう」話を聞き出したダッ君の成果にナイトがプンスカしてる。
「まぁ十中八九そうでしょうね。認識阻害の魔道具か何かでしょう。ユニコーンの角から作る魔道具でそのような効果の物があったはずです」
眼鏡のないインテリ神官のナーさんが相変わらずエア眼鏡をクイクイしながら分析する。
「って事は悪コスが使ってたのと同じ?だとしたら、子供には効かないんじゃ・・・」
同じ事を思ったのか、全員が一緒にダッ君の方を向く。
「と思いましてぇ。スレイガーとマルゲンから、ちゃんと上手い事聞き出せましたよ~」
にま~っと笑ってピースサイン。んも~、お茶目な子だなぁ。
「まったく、お前は回りくどい言い方をして・・・それで、彼らは何と言っていたのでしょう?」
ため息をつきながらセリオスさんが聞くと、ちょっと曇った表情になるダッ君。
「それが・・・ドワーフらしいんですよ」
「ドワーフの神官か、その情報だけでもかなり絞り込めるな」ナーさんのエアクイクイが止まらない。
「ただ問題が、その神官は、僕らと同じ神官服じゃなかったらしくて」
・・・?どういう事?
「一体どういう事なんだ、ハッキリ言わないか」
「僕らじゃなく、セリオス様と同じ神官服、つまり、大神官以上のドワーフらしいんですよね」
「・・・は?」
おぉ、セリオスさんのアホ面は初めて見たぞ。じゃなくて。
「どういう事か、私達にもわかるように説明してくれませんか?」
「えっとですね、ここ十年ほどは大神官以上の地位にドワーフ出身者はいないんです。でも、数年前にここに来たモルチはドワーフで、大神官以上しか着れない服を身にまとっていた。つまり、今いる大神官のうちの誰かは姿を変えたモルチって事になるんじゃないか、というわけなんです」
・・・えぇ~っ?!な、なんか、私の苦手なややこしい話になってきちゃってるんじゃないのぉ?!




