エピソード 127
「フラグ立てちゃったかな~?とは思ったけどさぁ」
どうもどうも、フラグ立て屋さんのキトルちゃんです。
これ以上襲われないように~とかまだまだ増えそう~なんて考えはしたけども。
セラフィア聖神国に入ってもう二週間くらい?途中途中の村に寄って寝たら早朝に出発し、途中で襲われてカゴに捕らえて、を繰り返して。
派手な使徒カーの後ろに付けた鳥カゴも、今作ってるので四つ目。馬車の後ろに繋げるのももう限界では?電車みたいになってるし。五両編成、的な。
何人入ってるんだ?ひい、ふう、み、よ・・・
「キトル様、途中の村で馬買いません?ヘブンがこれ全部引っ張るの大変じゃないっすか?」
水色の鳥カゴを乗せた荷車を紫の鳥カゴの荷車の後ろに取り付けてるナイト。ピンク、黄色、紫ときて今は水色。せっかくだし違う色にしたんだよね。可愛いし。
「大変じゃないですよっ!このくらい余裕ですっ!」
休憩中のヘブンが口の周りに着いたリンゴの欠片を飛ばしながら答える。
「それにモルティヴァ信者の襲ってくる頻度も増えてますし・・・」
「それは聖都が近いからでしょう。使徒様が聖都に入られ神の扉を開ければ、誰であろうと手出しが出来なくなります。それまでに何とかキトル様を止めようと向こうも必死なのでしょう」
セリオスさんが馬車から降りて隣に立つ。
神の扉???あ、アレか。前々使徒のテリーナさんが壁画に書いてた、山に登るにはここからしか行けないっていう神殿の奥にあるやつ。ま〜分かりやすい名前が付いてんのね。と、その時。
「緑の使徒はどこだっ!」「どこだっ!」
馬車の前の方から幼い声がした。なんだなんだ?
ナイト達と前の方へ移動すると、男の子が二人、ブルブルと震える両手で握りしめた短剣をゴッさんに向けている。髪の毛爆発してるし、子供だけどズングリムックリな体型・・・ドワーフ?
「こら、そんな物を振り回すと危ない。コチラによこしなさい」
「ダメだっ!緑の使徒が居なくならないと、モルチ様が困るんだっ!」「るんだっ!」
モルチ?あの子達、モルチって言った??
「ゴッさん、この子達から話聞きたいからちょっと下がってて」
「あ、しかし、キトル様!刃物が・・・」
制止しようとするゴッさんを無視して近付きながら人差し指を出し、男の子達に向けてクルクルと指だけで円を描く。
両手を縛るようにスルスルと細いツタが巻きついて短剣の先端まで包み込んだ。
「・・・失礼致しました」
ゴッさんが手をクロスして私の横で膝立ちになり頭を下げていると、後ろから来たダッ君とセリオスさんが驚いてる男の子達を捕まえた。
「あっ!今の私、めちゃくちゃ魔法使いっぽくなかった?!」
バッとナイトの方を振り向くと、ハイハイ、とまたおどけたポーズで肩をすくめる。くそぅ、今のは超カッコいいと思ったのに!
「お、お前が緑の使徒かっ?!」「かっ?!」
小さい方の男の子はお兄ちゃんの真似してるのか?
「そうだよ〜。君たちはどこから」
「まだ子供じゃないかっ!」「じゃないかっ!」
・・・子供に言われちゃったよ。後ろでナイトが笑いをこらえてる気配がする。
「モルチ様が言ってたんだ、神の使いには美しい女性しかなれないって!お前は偽物だろう!」「だろう!」
このやろうモルチめ。何吹き込んでやがるんだ。後ろでは「ぐっ、ぐふっ」って声が聞こえる。
「美しい女性になる予定だからいいの。それより話を」
「嘘つけ!お前は偽物だ!」「だ!」
「話を・・・聞きなさ〜い!!」
馬車の上に咲いてるちゅーリップちゃんから水弾を飛ばし、二人にぶつける。
「ぷわっ!」「わっ!」
どうだ、頭冷えただろう。ってか、私の頭のてっぺんも少し濡れたのだが?
ちゅーリップちゃんを見やると明後日の方向を向いて器用に口笛を吹き出した。何だあれ、誰が教えたんだ?私か。
「キ、キトル様・・・」「こういうのは先に言っといて下さいよ〜」
男の子達を捕まえてた神官二人も慣れちゃった。まさに水も滴るいい男。
「あっ!ごめん!」
ミニちゅーリップ君を作って二人に渡す。ミニちゅーリップ君の口からは温かい風。所謂ドライヤーね。
「普通に魔道具でいいんすけど〜コレ見た目がちょっと・・・」
「ダビオ、何を言う!キトル様が神の御技を自分の為だけに行使してくださるこの幸運に対し何たる」
「頭冷えた?ちょっとお話し聞きたいんだけど」
ドライヤーなんて要らなさそうなセリオスさんは無視して男の子達に話しかける。
「はい・・・」「い・・・」
ビショビショになった濡れタワシのような頭を撫でてあげた。
「俺ら、バラグルンから行商で来たんだけど、崖から馬車が落ちて父ちゃんと母ちゃん、姉ちゃんが死んじゃって、孤児になったんだ」
「たんだ」
ドワーフ兄弟の名前は兄がスレイガー、弟はマルゲンというらしい。歳は十三と十一。やっぱり私が一番歳下か・・・。
「ショックで弟はちゃんと喋れなくなるし、身寄りはないし、困ってた時に助けてくれたのがモルチ様なんだ。村の人達に頼んで俺らの居場所作ってもらって・・・だから、モルチ様が困ってるならって思って」「思って」
勝てないと悟った兄弟二人が大人しくなったので、馬車の横でヘブンにあげてたリンゴを一つずつあげたら食べながら話し始めてくれた。
ヘブンさんや、アナタは沢山リンゴ食べたんだから、物欲しそうな顔しないの。
「その者はどんな風貌をしていましたか?神官?」
セリオスさんが前のめりに尋ねると、チラ、と見てプーイと顔を反らせる。
「それを言うと、モルチ様を捕まえて罰を与えるだろう。だから言わない」「ないっ!」
「んなっ・・・こら!モルチとやらは大罪人の可能性が高いのです!罰しない訳にはいけません!」
セリオスさんは怒ってるけど、まぁそりゃそうよね。この子らにしてみりゃ恩人なわけだし。
「ね、お父さんとお母さんは、君達が悪い事したらめっ!って怒らなかった?」
「怒ったよ。けど、姉ちゃんの方が怒ると怖かった」「かった」
「モルチって人も、アナタ達には優しかったけど、悪い事をしたかもしれないの。だから、悪いことをした分だけ、怒られなきゃいけないんだ」
お兄ちゃんの方は理解してるのか、下を向いてぐっと唇を噛み締め、弟はその袖を持ってる。
「約束するよ。本当に悪い事をしたのかちゃんと調べるし、悪い事をした分しか怒らないって。もし何もしてなかったら、罰も無し。ね?」
「お前、神の使いなんだろ?神に誓うか?」「か?」
「キトルだよ。うん、誓える。ね、ナイト」
「キトル様がもし約束破ったら、俺がゲンコツしてやるよ」
うわ〜痛そう。破らないけどさぁ。
兄の方はビックリしてたけど、弟はひひって子供らしく笑う。なんだ、真似以外も出来るんじゃん。
さてさて、自分でハードル上げちゃったけど、これはしっかり調べる必要があるんじゃないの?




