エピソード 124
「んむむむむ・・・」
「キ、キトル様・・・」
「ぐぬぬぬぬぬ・・・」
「あのぉ~・・・」
「・・・っぶはぁ!!何ですかっ?!」
「聖神力は力めば出るという物ではないのですが・・・」
弓矢で狙われた後の移動中の馬車の中。キトルちゃんは聖神力という名の魔法を使いたくて練習中。
あ、ちなみに捕まえた二人は、またチンピラナイトが尋問してモルティヴァ信者だって自白したので、ものすごく乗り心地の悪い荷馬車を作って乗せて、私達が乗る馬車の後ろに繋いでいる。
でもただ乗せてるだけじゃ面白くないので、アルカニアであのおデブ伯爵を捕まえた時に作った大きな鳥カゴに縛ったまま入れて、今度は金ピカじゃなくショッキングピンクの粉が出るタイプにしてみた。
チラ、と馬車にはめ込まれた氷の石の窓から後ろを覗くと、ガタゴト揺れる鳥かごの中でピンクの人達も激しく揺らされているのが見える。
「そもそも、キトル様には聖神力なんていらないんじゃないっすか?」
馭者席に座ったナイトが小窓から声をかけてきた。馬車はヘブンが引いてるから馭者は必要ないんだけど、大きな魔獣が引いてる馬車なんて見た目的にアウトな気がするので一応形だけ座っているのだ。
ちなみにそのナイトは私と私の熱狂的ファンのセリオスさんを二人にしたくないらしく、馭者席の小窓を常に開けてちょいちょい話に参加している。
「ワタクシもそう思うのですが・・・キトル様は神の御業をお使いになれるのですし」
「だってなんかカッコいいじゃん!ザ・魔法って感じで!すごい強そうだし、使ってみたいじゃん?」
「は?」
あん?なんだその何言ってんすかみたいな顔は。
「何言ってんすか?」
あ、ホントに言いやがった。
「キトル様の使ってる力より強い力なんてどこにもないっすよ?」
「ええ、ええ。従者殿の言う通りです。我々の使う聖神力が神の力の一部を借りて一瞬使わせていただくものだとすると、キトル様のそれは神の力そのもの。我々が出来る事でキトル様が出来ぬ事など何もないのですよ?」
うんうん頷きながら、何故かまた両手をクロスさせて話すセリオスさん。そのポーズ、もう癖なのでは?
「え~?でも手を光らせたりさぁ」
「キトル様、光る苔生やせるじゃないっすか。手に苔生やせばいいんじゃないっすか?」
何言ってるんだコノヤロー。ナイトの頭光らせてやろうかしら。
ものすごく眉間にしわを寄せた私を見てセリオスさんが馬車の床に膝をついた。
「キトル様、我々神官は大陸中を回り各地で聖神力による奉仕活動を行っております。しかし大神官の立場を以てしても、出来る事と言えば先ほどのように紐を強くしたり病人の体力を回復させたり、痩せた木々をしばしの期間回復させる程度・・・今既にここにあるものを強化する、それだけなのです」
うん?そうなの?
「われわれは祈る事で神の力の一部を使わせていただき、エルフや魔獣など魔法を使う者は自身や空気中にある魔力を変化させて使います。しかし、無から有を生み出すキトル様のお力は唯一無二。まさに神の御業そのものなのです。我々の聖神力など遠く及ばないほどの高みにキトル様はいらっしゃるのですよ」
う~ん、そう言われると聖神力を練習してること自体がすごく無駄なことに思えて来たぞ・・・。
「じゃあ、私が聖神力を使うのは無理って事?」
「無理・・・かどうかはわかりませんが、神の御業ではなく聖神力を必要とする状況、というのが存在しないかと」
「ヘブンが『小指サイズの火を出せたらカッコいいですね~!』って言ってるようなもんっすよ。デカい方がいいに決まってるじゃないっすか」
いや、その例えだと小さい方がいい時もあるから違う気もするけど・・・。前の方からヘブンが「何ですか~?」って言ってる。
「そっかぁ・・・まぁじゃあいいや。諦めるかぁ・・・」
しょぼんとしてたらセリオスさんがソワソワしてる。慰めようとしてくれてるのか?
ん?でも、その使い方だと・・・
「じゃあ、魔道具はどんな風に作ってるんですか?あれは魔法じゃないんですか?」
「あぁ、魔道具は魔法を使う魔獣の素材を使って作られているのですよ。例えばわたくしや皆様が付けているこの常春バングルは、大陸中を巡る渡り鳥のオルニステルという小型の魔獣の皮を使用して作られています。オルニステルは魔法により常に一定の体温を保っているので、それを応用しているのです」
へぇ~そうなんだ。小窓からナイトも「ほ~」って言ってる。知らなかったのか。
「ん?じゃあ前にセリオスさんが使ったあの青い花は?」
「はっ・・・!!そ、その節は誠に申し訳ありませんでした・・・。このセリオス・セラフィア、この生を終えるその時までこの罪を背負う覚悟で」
「いやいや、それはもういいですって。ちゃんと反省してるんならそれでいいですよ」
「キ、キトル様・・・何と寛大な」
「でも、あの青い花、あと黒い種と毒ブドウも悪コスのカバンの中にあった除草剤も全部、同じ嫌な感じがしたんですけど・・・あれも魔道具で作ったんですか?」
「毒ブドウとジョソウザイ?は存じませんが、わたくしが持ち込んだ花と呪毒の黒種は魔獣の討伐の為に我が聖神国で開発されたものですね。ただあれは」
セリオスさんの動きが止まる。
「・・・モルティヴァ神を自称する者が渡したとされる毒物と、同じ感覚があったのですか?」
「うん。だから、何か特殊な魔道具を使って作ったのかな~?って。その魔道具を持ってる人を探したらモル神様も探せそうだし」
セリオスさんが口を押さえて考え込んでる。
美形だから真面目な顔してると迫力あるなぁ。なんとなく黙って待ってると、セリオスさんがその重い口を開いた。
「もしかすると・・・いえ、憶測にすぎませんが・・・神殿の中に秘学塔という場所があるのです。そこでは特殊な聖神力を持つ秘学神官と呼ばれる神官が、人々を救う魔道具や植物の研究や開発を行っております。しかしその特殊な聖神力は人体に悪影響が出る事があるため、秘学神官以外の出入りが禁止されていて・・・」
「じゃあそこに自称神様が隠れてんじゃないっすか?」
小窓からナイトが軽く言う。まぁ、今の話の流れだとそうなるよね。
「し、しかし、そこは大神殿の中心部にあるのです!神聖な創造神アルカスの御心を受け取る場所に、破壊と再生の神を自称する者が出入りできる訳が・・・!」
「でもセリオスさんもそうかもしれないって思ってんじゃないっすか?」
ぐっ、と言葉に詰まる。なんかナイトがイジめてるみたい。
「まあまあ。本当にいるかはわかんないけど、可能性がある場所ってだけでもいいじゃん!それに、私なら入っても大丈夫そうじゃない?」
「も、もちろんです!神の使いたるキトル様が入れない場所など、このセラフィア聖神国にございません!」
「じゃあ決まりっすね。聖都に着いたら、そのナントカ塔に行きましょう」
ナイトが目的地を明確にする。そうだね、そこを目指して行こう。
「もしそこにモル神様がいたら、速攻でとっ捕まえてやろうじゃないの!」




