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緑の手のキトル〜極貧で売りに出されたけど、前世の知識もあるから全然生きていけます〜  作者: 斉藤りた
フロストリア王国編

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エピソード 122

「キトルちゃん、アタシも協力しといて今さらだけどォ・・・本当にコレで行くの?」


「そうだよ~!私が乗ってるってすぐわかるでしょ?」


雪と氷の国、フロストリアの首都にある氷のお城の前。不安げなオネエ陛下が見上げている、私達の目の前には大きな馬車。


エルヴァンさんに協力してもらって、フロストリアの首都まで乗せてもらった氷のソリを馬車の形で作ってもらい、その周りに大量の草花をまとわせたのだ。


元々何もついていなかった窓にはお城を作ってるのと同じ氷のような石のフロスライトを薄くしたものをはめ込んでもらったので、ほぼガラスの窓となっている。これなら襲撃されても外の様子が見えるので、私が馬車の中から何かしらの手を打てるってわけ。


見た目はメルヘンチックな緑と色とりどりのお花の馬車、その骨組みはエルヴァンさんに出来るだけ溶けにくい氷の馬車を作ってもらったので、もし襲われても氷が弓や剣も弾いてくれる。


そして馬車の上の四隅には、前に作った喋るピンクのお花の大きくてピカピカ光るバージョン。ヒマワリと同じくらいの大きさに作ったから、見た目はど派手に光るスピーカー。そのお花からは・・・


「神の使い、緑の使い、皆様の味方、ご存じ緑の使徒でございます。緑を癒し世界を救うため、やっとここまでやってまいりました。皆様の生活を支えるべく歩みを進めてまいります。どうか道を開けてくださいますよう、よろしくお願いいたします」と大音量で同じ音声が流れ続けている。


「何て言うか、緑の使徒様って突拍子もない事思いつくのねぇ。セレナちゃんも変わった子だったけど、キトルちゃんにはもっと驚かされてる気がするわ」


「そうっすね。あとこのセリフ、何か地味にムカつくんすけどなんでっすかね?」


おい、ナイトってば前世の選挙カーに失礼だぞ。


ホントはラッパみたいな花も咲かせてパラリラパラリラ鳴らしてやろうかと思ったんだけど、ちょっとイメージ悪くなりそうだからやめたのにさ。


「キトルさまが乗ってるってわかりやすくてとてもいいと思いますよ!ワタクシも従者として鼻が高いですっ!」


馬車を引く予定のヘブンも胸を張っている。いや、ヘブンが引くんだし犬車?フェンリルだしフェン車?


「何も悪い事してないんだから堂々と行けばいいよ。私がここにいるってわかれば悪い奴は寄ってくるだろうし、下手に周りも巻き込まなくて済むでしょ?」


また黒い種爆弾や毒ブドウみたいな事されたら嫌だもん。私に向かってくるなら返り討ちに出来るしね。


「これは素晴らしい考えですよ・・・善良な民にとって緑の使徒様は自分たちを救ってくれるお方で、その救世主を害するような者は民達にとっても敵という事。注目を集め緑の使徒様が乗っていると一目でわかる仕様、これに乗っている以上人の目がある所では行動を起こす事が出来なくなりますし、夜はどこかの集落に身を寄せれば襲われる心配も減るでしょう。・・・キトル様のその独創的な発想力と聡明さには、ただただ感服いたします。わたくし、その着眼点と頭脳の冴えには、舌を巻く思いで」


暑苦神官のセリオスさんはまだ何かつらつらと褒めたたえてくれてるけど熱気がすごいし放置しとこう。


「でもやっぱりアタシの氷じゃなくてフロスライトで作らせた方が良かったんじゃないかしら・・・途中で溶けてなくなっちゃったら襲われた時が不安だわぁ」


「大丈夫でしょう、陛下が念入りに魔力を込めたんです、一年とは言いませんが数か月は持つでしょう。聖都に着くまでに溶けるような事態にはなりますまい」


自分の事じゃないのに誇らしげなのは副王大臣のネルガスさん。なんだかんだ言ってもエルヴァンさんの事が大好きなんだよね~。


「でも数か月かかったら溶けちゃうじゃない?やっぱりアタシが一緒に行って・・・」


「何を言うとるんですか、国王のアンタがいきなり行ったら国際問題になるでしょうが!ここでお見送りするんですよ!」


「え~でもォ」「うるさい!」


結局夫婦漫才みたいになっちゃった。


「お姉ちゃん、また来てくれる?」


エルフママさんに抱っこされて涙目なのはアイスエルフの天使、ルノちゃん。ん~!危険じゃなければ連れてっちゃいたいっ!


「うん、また遊びに来るよ!ルノちゃんにプレゼント貰っちゃったし、今度はお姉ちゃんがお土産持ってくるね!」


「うんっ!ルノ、イイコで待ってるね!」


「キトル様、色々とありがとうございました。道中お気をつけて行ってらっしゃいませ」


エルフママさんが深々と頭を下げる。なんだか久ブルに常識的な対応をされた気がしてちょっとアワアワしちゃうぜ。


「じゃあそろそろ行きましょうか」


ナイトが声にこえをかけられ、ば・・・フェン車に乗り込む。


「ポッちゃん、またね!アタシが生きてるうちにまた会いに来て頂戴」


「もちろんですっ!エルヴァンさんはあと五百年位生きそうですしね!」


なんかあんまり淋しくなさそうなお別れの挨拶してるな。


「じゃあ皆、行ってくるね!終わったらまた来るから、元気でね~!」


入り口から顔を出し、皆に手を振る。


クリスマス仕様の可愛い街並みを抜け城門を出て雪道に出ると、首都に来た時とは違う風景が広がっていた。


「うわぁ・・・!すご~い!キレ~!」


遠くまで見える雪道の左右には雪花樹の森が広がり、雪を象った可憐な花々が枝先にほころび、絶えず風に舞い上がり、空気をほのかに輝かせる。


「は~綺麗っすね。これが雪花樹・・・確かに雪の形してますね」


肩に乗った小さな花を見ながらナイトが呟く。


「つい最近までフロストリアでは国中に北からの風が吹き荒れていたそうで、わたくしがこちらに向かっていた際もそれは酷い吹雪に見舞われていました。ですが、突然風が止み、空は晴れ、木々が一斉に芽吹き、北風を受け止め、遠くまで見渡せていた寒々しい雪原はこのような幻想的な風景へと変わったのです。キトル様のお力が、このように美しい景色を作り出されたのですよ」


えへへ。そう言われると嬉しいねぇ。ヒラヒラと舞う小花を手の平に乗せてみる。


この力を持っててもお花の気持ちなんてわからないけど、なんだか喜んでくれてる気がするや。


ふっと吹いて、空へと飛ばしてあげる。


「よぉし!お次は最後の国、セラフィア聖神国に行ってみようじゃないの!」

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