エピソード 121
「聖神国からアルカニアに戻りキトル様がすでに旅立たれてしまったと聞いて絶望した日々もありましたが、コレも神のお導きと涙を飲んで堪え忍んだ甲斐がありました。キトル様のこの神々しいお姿をまた拝見できる幸運をお与えくださった創造神に感謝を・・・。あぁっ、しかし、何とお美しい姿なのでしょう。以前の素朴なお姿でも隠し切れなかったその煌めきが、神の使命を果たされて行く中でさらに洗練されているではありませんか。ましてやそのように着飾られてしまっては、眩い光そのものとなった輝きにわたくし目を開ける事もままならず・・・」
長い長い。そして神官なのに暑苦しい。暑苦神官。
膝をついて手をクロスさせたまま恍惚とした表情で語り続ける超美形の大神官、セリオス・セラフィアさん。
この人、アルカニア王国で私を誘拐しようとしたからお仕置きしたら改心した・・・んだけど、ちょっと真逆に振り切っちゃった感は否めない。
「ねぇ、この子何なの?アタシとキャラが被ってるんだけど」
エルヴァンさんが囁いてくるけど、被ってないよ。ロン毛美形が同じにだけで、オネエ陛下は唯一無二だよ。
「で、何の用ですか?本当に私のお迎えに来ただけですか?」
出来るだけ冷ややかな声を出して聞いてみる。
キラキラした目で私を見てたけど、スンッと一気に真面目な顔になる。
「大神官がキトル様の安全な入国を補佐する・・・という名目の使者ではあります。もちろんわたくしがキトル様に一秒でも早くお会いしたかった、というのも本音ではありますが」
うん、そんな事は聞いてない。
「しかしお恥ずかしい話になるのですが、我が国内で使徒様に対する不敬な動きがありまして・・・出来る限り安全にお招きできればと思い、まずは既にお名前で呼ぶことを直接許可していただいたこのワタクシが!単独でお迎えにあがった次第であります」
別に誰に名前呼ばれても気にしやしないけどさ。
不敬な動きとな?思わずエルヴァンさんを見ると、軽く頷き口を開いた。
「それは、モルティヴァ信者の事かしら?」
「・・・もしや、既に何か?」
綺麗な形の眉毛が寄る。国同士で連絡とか取らないもんなのかな?自分の国の人が犯罪しました〜なんて言いたくないか。
そんな事を考えてる間に、ナイトがドラム=カズンの地下神殿での出来事やドラヴェリオンでの悪コスによるテロ騒動、毒ぶどう事件などについて説明する。
「やはり、モルティヴァ信者による妨害活動が活発化しているようですね・・・これは、キトル様を我が国にどのようにお連れするか考え直さねばなりませんね」
「あとその悪コ・・・ドルコスというモルティヴァ信者が言っていた事なのですが」
ナイトが聖神国内にモルティヴァ神と名乗る人?がいるらしい、と告げるとセリオスの顔がサァッと青くなる。
「そのような、まさか我が国に・・・そ、それは本当なのでしょうか。その者が嘘をついていた可能性など・・・いえ、愚問ですね。わたくしがここに来たのも、聖神国内に怪しい動きがあったからこそ。創造神アルカスの国とも言える我が国に、創造神様以外を信じる者がいるなどと誰も思わない、常識の裏をかかれたのでしょう」
「森を隠すなら木の中って言うしね」
「・・・キトル様、木の中に森は隠せなくないっすか?」
ナイトが不思議そうな顔をして私を見る。
「あっ、逆、逆!木を隠すなら森の中ね。信心深い人が集まってるなら、他の神様やその信者が紛れてても目立たないしね」
間違えたのが恥ずかしくて早口でまくし立ててちゃった。
が、セリオスさんはまたキラキラした目に戻ってこっちを見て、感動した顔で口を開く。
「なんとわかりやすい例えでしょう・・・!キトル様のありがたい御言葉の通りです。もし神の真似事をしているような者がいるとすれば、大神殿のある聖都でしょう。地方と違い、聖都は大陸中から信者が訪れる場所なので、人の出入りが激しく怪しい者も違和感なく紛れ込めます。とすると、途中の道のりはもちろん、聖都に入ってからは特にキトル様の御身に危険が及ばぬよう細心の注意を払う必要がありますね」
「それはもちろんです。これまでもこれからも、キトル様をお守りするのは従者として当然の事ですから」
「その通りですっ!悪いやつがいたら、わたくしが噛みついてやりますっ!」
剣に手をかけるナイトと牙を見せるヘブン。う~ん、やっぱり過保護。自分の身くらい自分で守れるんだけどねぇ。
「もちろんわたくしも大神官という身分にいる者として、神の使いであるキトル様をお守りする栄誉を誰にも譲るつもりはありません。全身全霊をかけ」
パチン!
エルヴァンさんが両手を叩いて血気盛んな三人を落ち着かせる。さっすが年長者。
「アナタたちがキトルちゃん大好きなのはわかったから。それより、具体的にどうするか考えましょ!目的地はあの大神殿の奥にあるから、まずは聖都に入らなきゃでしょ?でも、ここから聖都に向かう道って限られてるから、こっそり向かうのが難しいわよね。しかも大神官のアナタが来てるわけだし、途中で誰にもバレずに行くってのは難しいんじゃない?」
「そ、それはそうですね・・・」
ちょっとしおらしくなるセリオスさん。何となく部屋の温度も下がった気がするぞ。
「セリオスさんは有名人なんですか?」
「大神官って、国内を頻繁に回って地方で困ってる人達を聖神力で助けて回ってるのよ。まあそのお礼にお布施という名の税金も貰ってるからある意味お互いさまではあるんだけど。それなりに大きな集落だと知らない人はいないと思うわよ」
ほえ~、大神官って国の仕組み自体に組み込まれてる役職なんだ。宗教国家だけど、地方を巡業して回る貴族みたいな感じか。巡業貴族。
「で、では大きな街道を外れて進めば・・・いえ、そのような人目を避けるような真似をキトルさまにさせてしまうのは・・・しかし・・・」
「二手に分かれて行けばいいんじゃないっすか?俺らとセリオスさん。セリオスさんに目が向いてりゃ俺らがこっそり進んでもバレなかったり」
「イヤですぅっ!せっかくっ、せっかくキトルさまに早くお会いできるよう他の大神官たちを押しのけてこのお役目を勝ち取ってやっとのことでお会い出来たのに、別行動なんて絶対イヤですぅ~!」
途端に涙目になってイヤイヤと首を振るセリオスさん。また室温上がった気がするんだけど。
「ん~っていうかさ」
皆の視線が私に集まる。
「飛んで火に入る夏の虫に、しちゃえばいいんじゃないの?」




