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緑の手のキトル〜極貧で売りに出されたけど、前世の知識もあるから全然生きていけます〜  作者: 斉藤りた
フロストリア王国編

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エピソード 120

「一体どういう事なんだろう・・・」


借りてる客室のベッドの上、セレナさんの遺した手記とメモ帳を横に置いてゴロンと寝転ぶ。


手記はあの一目惚れで恋が大爆発した続きで、前半は王子様に対する恋心を全力でぶつけた真っピンクな内容、後半はアルカニア王国のお花の形をした石を探して力を注いだ時の事について書かれている物だった。


簡単に言えば新しい情報は無し。王子様の事が大好きって事が胃もたれするほどよ~く分かったくらい。


ただ、メモ帳の方は違った。これは聖神国に入った時に使っていたらしい。


走り書きで色んな神官の名前がナントカ・セラフィアさん、と沢山書かれていたのに、途中から面倒になったのかナントカ・セみたいに野球のリーグみたいに書かれててちょっと面白かった。


それはいいんだけど。


気になったのは、途中の一ページにだけ書かれた『戻れる?』『願い』『さくらさん』の単語と・・・『モルチ・セラフィア』の文字。


確か・・・モルチって、前々使徒のテリーナさんの従者の名前だよね。たまたま?


ガーデリオンにモルティヴァ神の話をした時の反応を思い出す。千年前には居なかった神様で、千年前の髪の使徒の名前がモルチで、似た名前のモルティヴァって神様が生まれて、今現在も聖神国にいる。


切り離そうとしてもなかなかは消えてくれない考え。まさかね。その神様と、千年前の従者が同一人物なんてことは・・・。


「キトル様?」


すぐ横で声がして飛び起きる。横になったまま数センチ浮いた気がするくらいビックリした。横を見ると、いつ入って来たのかナイトとヘブンが心配そうな顔してる。


「もう皆さんもお待ちで食事も運ばれてますよ。大丈夫っすか?」「キトルさまお腹空いてませんか?」


窓の外がいつの間にか薄暗くなってる。あのままウトウトしちゃってたのか。


「ううん、大丈夫、行こ!」


食堂に向かって歩きながら、ナイトに聞いてみる。


「ねぇ、ドワーフの・・・色んな種族の寿命って何年くらいなの?」


「え~っと、そうっすねぇ、俺とかキトル様・・・は使徒様なんで分かんないっすけど、普通の人間は大体七、八十年くらいじゃないっすかね」


うん、前世と同じだね。こんなファンタジーの世界でも人間の寿命は一緒なんだ。


「あとドワーフが確か二、三百年くらいでエルフがそれより長い四、五百年って聞いた事ありますけど、人によっては+百年位生きてるって聞いた事もあるんで、その辺は個人差なんじゃないっすかね。あと獣人族は魔獣や動物の性質を持った人間なんで、人間とほぼ同じっす」


「ちなみに、ドワーフが千年以上生きてたりなんてことは・・・」


「あり得ないっすね。いや、少なくとも俺は聞いた事ないんですけど、エルヴァンさんなら何か知ってるんじゃないっすか?」


「知らないわよ」


真後ろで声がして、ナイトと私が飛びあがる。やたら驚かしてくるの何なの?!


「遅いからお迎えに来てあげたのに、なによその反応。ところで、何の話してたの?」


周囲を見渡して人が居ないことを確認し、歩きながら小声で二人にメモ帳の中身について説明してみる。


「モルチ・セラフィア・・・覚えてないわね、そんな奴いたかしら?あの国、やたら使徒様だ神の使いだってアタシやポッちゃんとセレナちゃんを引き離したがってたのよね。だから、多分その書き留めた部分はアタシが居ないところの話よ、きっと。セレナちゃんはもう大きかったから大丈夫だったけど、アンタはキトルちゃんと離れないようにしなさいよ?」


最後の方はナイトに向かって言い、ナイトも「もちろんです」と深く頷いている。二人とも過保護だなぁ。


「でもドワーフが千年も生きるなんて聞いたことがないから、そのモルチってやつは前々使徒様のモルチって従者とは別人だと思うわよ」


やっぱりか。まぁそりゃそうよね。


「そもそも聖神国の神官にドワーフっているんすか?」


「いるわよォ、当たり前じゃない。人間もドワーフもエルフも獣人もいるわよ~。人間が多いけど、そもそも創造神アルカスを信仰してれば誰でも神官にはなれるからね。種族よりも信仰心の方が大事なんですって」


ふぅ~ん、そういうので差別しないのは良い事だね。宗教って聞くとどうしても身構えちゃうんだよな~。


「もうっ!三人とも、早くしてくださいっ!ワタクシお腹がペコペコなんですっ!」


前を歩くヘブンに怒られ、思考を止めて慌てて食堂に向かて駆けだした。






「は~お腹いっぱい・・・ルノちゃんにもプレゼント貰っちゃったし、幸せぇ~」


ボフ~ンとベッドに飛び込んで、片手を上げる。


手首にはお城の壁と同じ素材、氷のような石を砕いたものがいくつも編み込まれたブレスレット。ホントは髪飾りらしいんだけど、今日は手首に付けてもらった。


ルノちゃんとママさんが「これからの旅路が良いものになりますように」って一緒に作ってくれたんだって。か~わい~いなぁ~。


「またドレスのまますぐ横になって・・・またシワになりますよ?あ、ヘブンまでいつの間に」


気付いたら私の横で同じくゴロリンチョしてたミニヘブンのお腹を撫でながら、ナイトに切り出した。


「ねぇナイトママ、明日の朝くらいに出発しようか。次は聖神国だよね」


「誰がママっすか・・・そうですね、そろそ」


ドンドンドン!


激しいノックの音と共に兵士さんらしき人の声がする。


「使徒様、恐れながらお休み中のところ失礼いたします!先ほどセラフィア聖神国より、使徒様をお迎えに上がったという大神官の使者がご到着されたとの報せが入りました。ご準備が整い次第、氷晶の間へお越しくださいませ」


起き上がり、ヘブンとナイトを見る。


「使者、って言いました?」


「聖神国からわざわざキトル様を迎えに来た大神官っすか」


「なんか嫌な予感がするんだけど・・・」


気乗りしないままベッドを降り、軽く髪とドレスを整え廊下に出る。


アルカニアでパールちゃんに絶対必要だから!と押し付け・・・用意してもらったドレス、持ってて良かった。この装いで氷のお城を歩くとちゃんとして見えるんだよね~。と、はたと足を止める。


「ひょうひょうの間ってどこだ?」


「氷晶っす、ひょうしょう」


「あ、こちらでございます!」


廊下の角で待ってた兵士さんに付いて歩いて行く。


着いたのは一枚の大きな水晶を掘って作ったような細かい模様の入ったドアの部屋。


「緑の使徒様をお連れしました!」


兵士さんが大声を出すと、ゆっくりとドアが開き、その向こうで薄明りに照らされていたのは・・・


「あぁっ!キトル様!やっとお会い出来ました!!この日をどれだけ待ちわびたかっ・・・!」


と膝立ちで両手をクロスさせ肩に置いた、中性的な超美形のセリオス・セラフィア大神官。


「ですよね~!!」


って思わず両手で指差しながら大声出しちゃったけど、これは仕方ないんじゃないの?

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