エピソード 12
「あ~た~らし~い~あ~さがきたっ♪」
「もう昼っすよ」
ナイトはうるさいなぁ、こういうのは気分なの、気分。
ダンディな公爵さま達を見送った後、私たちは伯爵家で準備を整えてさっそくお屋敷近くの畑のあるエリアに向かっている。
伯爵家のお屋敷があるのは伯爵領都、と呼ぶほどでもない小さな街の中心部。
畑があるのは街の端っこらしいから、お昼ご飯を食べてから出たけど夕方には戻れそう。
近場だし、ヘブンは昨日頑張ったから伯爵家でお留守番~。
「そういえば、さっき公爵さまに何かお願いしてなかった?」
男同士の約束的なことしてたよね?
「あ~・・・キトル様のお兄さん、見つけてもらおうかと思って」
「お兄さん?ブランの事?」
「ばあちゃんが居た小屋のある森の道、道に出た時にどっちから来たのかもわからないって言ってましたよね。でも、奴隷を売るとすれば西の国境方面には向かわないんすよ。そっちに行っても奴隷を売れるような大きな街はないし、国境を越えちまうと奴隷制度がないんで」
あ、奴隷がダメな国もあるんだ。
「家の方を探すのはさすがに分かれ道もあるし、そもそも聞く感じ集落から離れて暮らしてるっぽいから探しようがないんで難しいんすけど、奴隷商の方だったら探せるかと思って」
奴隷商のオッサンを?
「どうやって探すの?」
「あの森から行けて、食べ物を高い金出してまで奴隷には与えないだろうから馬車で二日か三日程度。その範囲内にある奴隷を売れる程度の大きい街で、奴隷商を探してもらうようお願いしたんです」
「でも、奴隷商の人ってよくいるようなオジサンだったよ?」
「いえ、奴隷商というか奴隷商の馬車っすね。何か作って逃げたって言ってたじゃないっすか」
あ~苺ね。馬車の中苺だらけにしたわ。
「でも、苺の実は全部女の子たちが食べちゃったかもしれないし、残った葉っぱなんかも抜いちゃってたらわかんなくない?」
「キトル様といたら感覚おかしくなるんすけど、今新鮮な野菜や果物ってほとんど手に入らないんすよ。あってもそんなに質が良くないんです。でも、キトル様が作ったんなら、どうせめっちゃ元気な草なんでしょ?」
どうせって何よ、どうせって。
「だから、毒がないなら食えるんで売ると思うんすよね。もしかしたら馬車ごと売るかもしれないし。まぁもちろん抜いて捨ててる可能性もあるんで、絶対とは言えないんすけど」
・・・すごいね、ナイト、探偵みたいじゃん。
「兄さんの事、真剣に考えてくれてくれてたんだね」
「・・・俺、親は早くに死んじゃってるんすけど、ばあちゃんや集落のみんなが飯も食わせてくれたし世話もしてくれたんすよ。だから、俺も自分が腹減ってても子供には食わせるのが当たり前なんです。なのに、キトル様の親は飯食わせねぇわまだ七歳なのに売るわで・・・絶対許せないし、そんな所にまだ子供がいるってのも嫌なんです」
いいやつだね、ナイトは。
こんな世界でも真っすぐに育って、一緒についてきてくれるってんだもん。
幸せ者だね、私。
「ふふふ。ありがとう。逃げて最初に会えたのがおばあちゃんとナイトで、私ラッキーだね。実は公爵さまの騎士さんも、行けるなら自分も~って言ってたけど、あんまり大所帯になってもって思って断ったんだよね〜」
「はぁ?!あいつら、そんなこと言ってたんすか?!油断も隙もねぇ・・・ダメっすよ!使徒様の従者の座は絶対俺だけのものっす!」
・・・こらこら、あいつらとか言わないの。
喋ってるうちに畑が見えてきた。多分あれだよね。
そういえば石畳の街中やお屋敷の中だとモーリュ草生えなかったけど、この辺は土の道だからか歩いてきた道にも草が生えてる。
土を豊かにする力だから、無意識で生えるのは土の所だけなのかな。
まぁお屋敷が草だらけになったら嫌だしね・・・。
畑のそばにある家から、子供が飛び出してきた。
キョロキョロしてこちらを見ると、駆け寄って来て・・・目の前でコケた。
「あの!助けてください!お母さんがっ・・・!」
お?どうしたどうした。
膝すりむいてない?
「お母さんが倒れて・・・!」
・・・この子、ナイトに向かって言ってるな。
まぁそりゃそうか。この子、私と同じくらいの年っぽいもんね。
「ナイト、GO!」
「それはヘブンに言ってくださいって!」
言いながらもちゃんと走り出してくれるのがナイトのいいトコよね~。
「大丈夫?」
女の子、かな?
痩せてるけど、髪の毛はきれいに整えられたショートヘア。
お母さんからの愛情を感じるね。
座り込んでるのを立たせ、一緒に家に向かって走り出す。
「す、すいません、貴族の方でしたよね?」
「あぁ違う違う、貴族じゃないから大丈夫だよ。普通に喋って大丈夫」
「でもさっきの人が・・・」
「あ~えっと、ちょっと事情があってね・・・」
「キトル様!早く来てください!」
行ってる行ってる。
ナイトが足早いだけでこれでも急いでるのよ。
家の中に入ると、食卓のそばに女の人が倒れて、口から泡を吹いてる。
こりゃ一大事だ。
サスペンスドラマならジャジャーン!って音が聞こえてきそう。
「息はしてるけど声かけても反応がないのと、口の泡が紫っぽく固まってきてて酸っぱい匂いがするんで、多分ゲトン草の毒だと思います」
ナイト、従者や傭兵より探偵になった方が向いてると思うわ・・・。
ゲトン草、が何かはわからないけど、とりあえず毒草って事ね。
「そのゲトン草ってどんな症状が出るの?」
「食べたらこんな感じで泡吹いて意識がなくなって倒れます。で、三日以内に死にます」
おいおい待て待て、すごい猛毒じゃん。
「お、おかあさんっ・・・!」
あ~あ、女の子泣いちゃった。
「大丈夫だよ、助かるから」
私がいるからね。
今入ってきたドアを出て、すぐ横の土に手をかざす。
お薬お薬・・・毒って言ってたし、毒消し薬!の実!
あ、でも意識がないから、実や種じゃ呑み込めないか。
液体タイプで花の蜜みたいにしてもいいけど、泡吹いて固まってるって言ってたから飲ませるのが難しいし、点滴なんかも無理だし・・・
そうだ、前世で使ってた花粉症の薬!
点鼻薬だ!!
「いやぁ・・・キトル様・・・ほんと奇想天外っすよね」
生やしたのは、しずく型の実がなった草。
その実のとんがった方を鼻に入れ、ぎゅっと押したらお薬が出るってわけ。
最初、意識のないお母さんの鼻に正体不明の実を突っ込んだ時は二人がかりで止められたけど、説得して薬を注入して、今お母さんはベッドで寝息を立てている。
「緑の使い手様だったなんて・・・本当に、ありがとうございます」
「いいえ~タイミングが良くてよかったよ」
三日以内に会えてなかったら危なかったね。
「畑にはもうずっと何も出来てなくて・・・食べるものも買えないから、畑のそばに生えてた草を食べてたんです。でもまさか、毒草だったなんて」
走りながらチラッと見た畑は確かに何もないただの土、って感じだった。
畑もだけど、その周辺にも草があんまり生えてなかったんだよね。
あれは食べてたからなんだ。
「ゲトン草はその辺の雑草に混じって生えるんだ。森の近くに住んでるとよく見るが、街に住んでたんじゃ知る機会もなかっただろうし、運が悪かったな。いや、キトル様がちょうど来たから運がいいのか・・・?」
いや別にそれはどっちでもいいよ。
「ねぇ、普通はどうやって解毒とか治療ってするの?ポーションみたいなのがあるの?」
ゲームや漫画では怪我や病気の時はポーション飲んで治してた気がする。
「ポーションはありますけど、最近はポーションの材料もあんまり生えてないんで、値段が高くなってて品薄なんですよ。貴族でもなかなか手に入らないって話なんで、大体は水とか飲んで寝るしかないっす」
水飲んで寝る?!
「それだけ?!」
「それだけです」
そんな何を当たり前のことをって顔されても・・・
そうか、お薬とかないのか。
なら、決まりだね。
「・・・せっかく伯爵領を回るんだし、何か名産品があるといいなって思ってたんだよねぇ?」
ナイトがうわ~って顔してる。
んふふ、わかったみたいだね。
この伯爵領、お薬の名産地にしてやろうじゃないの!
アドバイスをいただいたので、読みやすいように行間を開けてみました。




