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緑の手のキトル〜極貧で売りに出されたけど、前世の知識もあるから全然生きていけます〜  作者: 斉藤りた
フロストリア王国編

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エピソード 118

ピチチチチ・・・と小鳥のさえずりが聞こえる。もう意識はあるけど、トロンとしたまどろみの中をまだ漂いたくて、重いまぶたを持ち上げるのにはもう少し時間がかかりそう。


と、そこに女性のささやき声が耳に入ってきた。


「こら、ダメよ」


「お姉ちゃん、まだねんね?お腹イタイイタイなの?」


「違うけど、お姉ちゃんは使徒様だから色々あるのよ」


「シトサマだとイタイイタイのは頭?」


「違うってば・・・あ、ルノ、登っちゃダメ!」


小さくて柔らかな冷たさがおでこに当たる。


「ママ、大変!お姉ちゃん、お熱だよ!」


「それは貴女がアイスエルフで使徒様は人間だか」


「でゅふっ!」


笑いが堪えられなくて気持ち悪い声出ちゃった。


さっきより軽くなったまぶたを開くと、愛らしい天使が目の前で満面の笑みを浮かべている。


「シトサマのお姉ちゃん起きた~!」


「ご、ごめんなさい、ルノミアーリィが会いに行くって聞かなくて・・・」


ベッドの横ではエルフママさんが恐縮していらっしゃる。どちらかと言うとこんな美人母子にズタボロな寝起きの姿を見せてしまって、こっちこそごめんなさいだけど。


「いえいえ、もう起きなきゃだったから助かっちゃった。おはよう、ルノちゃん」


「お姉ちゃんおはよ~!あのね、ルノね、お姉ちゃんにプレゼント作ったんだよ!」


「えっ?!アナタ昨日渡すまで内緒にしててって言ったじゃない!」


「あっ!ん~と、お姉ちゃん、内緒にしててね?」


「贈る本人に言ってどうするのよ・・・」


「んふふ。楽しみにしてるね」


周りを見渡すと、やっぱり氷のお城のお泊りさせてもらった部屋だ。結局戻ってくるまで寝てたんだね。


カエル地獄の途中で目を覚まさなくて良かった・・・と安堵してたら、ドアが開いてナイトとミニヘブンが入って来る。


「お、もう起きたんすね」


「キトルさま!おはようございますっ!」


「おはよ~、結局こっちまで戻って来れたんだね。私どのくらい寝てたの?」


「一日っすよ、何時間か前に着いたんで、俺らも仮眠して今湯浴みしてきたとこっす」


言われてみればナイトの髪もヘブンの毛もまだ湿って見える。というか。


「一日・・・?」


「そうなんすよ!すごくないっすか?ヘブンがキトル様が寝たからってすげえ飛ばして」


「大きくなってから本気で走るの初めてだったんですけど、身体が大きいとあんなに一気に移動できるんですねっ!」


「いや~、あれ速さだけで言ったらキョダイクくらいあったんじゃないっすかね」


げ、あんなに?また暴風変顔を披露してしまうとこだったし、寝てて良かった。


「ちなみにエルヴァンさんはまだ寝てますよ。お肌に悪いからって夜まで寝るっつってました」


「あら?国王陛下でしたら先ほど副王大臣様に引きずられて行きましたけど・・・」


エルフママさんが首をかしげる。うん、起きてるっぽいね。


ルノちゃんがギューッと布団ごと抱きついてて可愛すぎるし、あと半日くらいゴロゴロしていたいけど・・・。


「ごめんね、お姉ちゃんお出かけしてたから汚れてるんだ。お風呂に入って綺麗になってご飯食べたら」


バァンッ!!


「大変よっ!キトルちゃん、起きてちょうだ・・・あら、起きてるのね、ちょうどいいわ!今すぐに来て頂戴!」


「嫌です」


「んんんええっ?!何でよっ?!」


「・・・あんな泥だらけになったのに、まだお風呂に入ってないからですよ」


「あっ、そうね、そりゃそうだわ。女の子だもの、身支度が終わるまで待っ」


「陛下!なんでアンタは毎回勝手に行くんですか!」


ハアハアと息を切らせて気苦労の絶えない副王大臣のネルガスさん登場。目が合うと、慌てて身だしなみを整える。


「おぉ、失礼しました、キトル様もお目覚めですな。神の使いのお役目、大変ご苦労様でした。おかげ様で我が国でも雪花樹が芽吹いたり再生したり、その花を飛ばしているとすでにいくつか報告が上がってきておりますぞ」


深々とお手本のように綺麗なお辞儀をするネルガスさん。


それは良かった。ちゃんとお仕事出来てたみたいだね。


「それでですな、キトルさまに見て頂きたいものがございまして。よろしければ氷律の間、いわゆる執務室ですな、こちらにお越し願えればと」


「いやです」


「はっ、えっ、えぇ?な、何故で」


「お風呂に入るんです!もう!カエルと泥まみれだから綺麗にしたいの~っ!!」


私の叫びが、氷のお城に反射して首都に響き渡ったとか渡ってないとか・・・。






「は~スッキリした。で?どこに行けって言ってたっけ?」


お風呂に入って身支度を終え、廊下で待ってた従者二人と歩き出す。


「キトル様、そこはスッキリじゃなくサッパリしたって言いましょうよ。スッキリしたって言うと溜まってたもん出したみたいすよ」


「ナイト、汚い!」


「キトルさまっ!兵士さんがこっちって言ってますよ~」


不毛な話を切り上げ、兵士さんの後を歩くヘブンに付いて行く。


着いたのはシンプルだけど所々に氷の文様や美しい幾何学模様のデザインが施された部屋。


「失礼しま~す・・・あれ?」


職員室に入るみたいな挨拶で中に入ると、中に居たのはこの部屋の主のエルヴァンさん、多分実際の主のネルガスさんと、何故か首都に来る途中で魔獣を狩ってる村に居た・・・


「え~っと、若エルヴァンさん!」


同じような顔の二人が「「はっ?!」」とハモり、顔を見合わせる。


「ぶっ・・・ぶはははは!!若陛下!確かに顔つきが似てますな!!」


こんなに大爆笑してるネルガスさん初めて見た。何がツボだったのかわかんないけど、ウケたみたいでちょっと嬉しい。


「キトル様、確かフィリオーン様ですよ」


「そうそう、フィリオーン様!」


「ははは!はい、フィリオーンと申します。緑の使徒様にまたお会い出来て光栄です。ぜひ僕の事は気軽にフィリオーンとお呼びください」


わ~お、ちょっと若いエルヴァンさんの顔で爽やかなんて、非の打ち所がないのでは?


「ふんだ、若さなんてアタシ美貌の前じゃ塵芥よ、部屋の隅っこの埃よ!」って一番偉いはずの王様がイジケてる。


「で?何か見せたいんでしたっけ?」


イジケ王様を無視してネルガスさんの方に向きなおると、こちらです、と出してきたのはなんか小汚い・・・カバン?


「あ、ドルコスのっすか?」「ご名答。落としたと言っていた場所から近かったので、フィリオーン殿に連絡を付けてお願いしたのです」


ナイトとネルガスさんが話してると、悪代官と越後屋みたいだな。悪だくみしてそう。


そっか、あの時手配するって言ってたの、フィリオーンさんにお願いするって事だったのね。


「そしてこちらから出てきたのが・・・」


「あっ!待って!アタシが!アタシが言いたい!」


「うわ、何ですかいきなり!あっ!こら陛下!バッグを返しなさい!」


突然バッグを取り上げたエルヴァンさんと、取り上げられたネルガスさんがワチャワチャし始めた。なんで急いで支度してきたのに、おじさん達がいちゃついてるのを見せられてるんだろう。


・・・もう私、部屋に戻ってもいいんじゃないの?

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