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緑の手のキトル〜極貧で売りに出されたけど、前世の知識もあるから全然生きていけます〜  作者: 斉藤りた
フロストリア王国編

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エピソード 117

大きく息を吸って、吐く。


上に乗ったまま、しゃがんで石に手を付ける。


うん、やっぱり温かい水を感じる。


前々使徒のテリーナさんの壁画には確か『セイクリッド山からから流れてきている、花の形をした石にせき止められている水』って書いてあったんだよね。


山の上から流れて来てるんだ。セイクリッド山、聖なる山や神が住まう山、だっけ。


この水を大陸中に行き渡らせれば、全ての緑が癒される。この石が、その水をせき止めてる。


・・・でも、触れてるからわかる。この石、せき止めてるって言うか、スポンジのようにお水を含んでる感じ。だって、せき止めてるんならもっと植物が枯れてるはずだし、この中に感じる温かさもないだろう。


この水が流れてくるお水を調整してるとか?それが時間と共にお水を含みすぎてて壊れちゃってる。だから、力を込めて直してあげるとまたお水が流れ出して、石が小さくなる!・・・違うかな?


答えのない問題を解いてる気分になってきた。やめたやめた、昔っからテストでも答えのないのは苦手なんだし、今は目の前のことに集中しよう。


手の平に感じる温かな水をフロストリア全体に行き渡らせるイメージ。


ここにお水はあるんだもん。そんなに難しい事じゃない。


国中に行き渡れば、ルノちゃんの村のように魔力が枯渇して倒れる人や雪花樹がないせいで吹雪が起こる事も減るだろう。


そうすれば、人が行き来しやすくなり、王様同士が仲良くなったんだからドラヴェリオンとの国交も盛んになる。


きっと、どちらの国にも笑顔が増えるだろう。ドラヴェリオンでは種族間の結婚も出来るようになるから、もしかしたら獣人とアイスエルフのハーフの子なんかも生まれるのかもしれない。


・・・何て素敵な未来だろう。


そのきっかけを私が作るんだ。作り上げるのは私じゃない、でも、その礎を作るんだ。


この国を、癒すんだ!


お腹の底から湧いて来る力が、手の平から力が溢れ出す。


石を通して水が流れ始めたのが感じられる。いけ~!どんどん流れて行って、国中に行き渡るんだ~!


ふ、と自然に手が石から離れる。


うん、もう大丈夫そう。地中深くを流れる水は、もう留まっていない。


足元を見ると、ゆっくりと私が乗る石が縮んできている。


おっと、このままじゃせっかくお仕事こなしたのに最後の姿が片足立ちになっちゃう。


皆の姿を探すと、石が縮んだのも相まって遠くなったように見える。


「ねぇ!降りるから、手を貸して!」


この石ちょっと高さがあるんだよね。


「へいっ!」「お疲れ様です!」すぐさま走り寄って来るナイトとヘブン。エルヴァンさんは少し遅れて歩いて来る。あれは泥はねを気にしてるな?


「お疲れ様です、キトル様。どうぞ」と差し出される両手。両手?


「ん?」と言うとナイトも不思議そうな顔。う~ん、前に私中身は大人だって言ったはずなんだけどなぁ。


まあいいか、今は子供だし。


ぴょん!とナイトに飛びつくと、当たり前のようにふわりと抱きかかえられる。ふむ、さすが力持ちだね。


「あらヤダ、キトルちゃんってば。アタシの胸に飛び込んでくれてもいいのにィ」


「エルヴァンさんだとそのまま倒れて泥だらけになっちゃいそうですし・・・」


それはごめんこうむりたい。


「まっ!やぁねぇ、こう見えても意外と筋肉質なのよっ!ほらっ!」


右腕で力こぶを作って見せてるみたいだけど、着てる服がヒラヒラし過ぎててわかんないってば。


「ワタクシもっ!ワタクシも受け止められますよ!」


ナイトの足元でヘブンがチョロチョロと走り回る。


「ヘブンはそのサイズじゃ難しいかな~?元のサイズならモフっと受け止めてくれそうね」


「えぇ!次はワタクシがキトル様を全身で受け止めますっ!」


「あっ!!」


エルヴァンさんが突然大きな声を出す。


「ポッちゃん!アタシ、ポッちゃんが大きくなったのまだ見てないわっ!」


「へ?よく元に戻ってるじゃないっすか」


私を抱っこしたまま、泥の少なそうな場所へと歩き出すナイト。


「馬鹿ねっ、違うわよ。もっと大きくなれるようになったって言ってたじゃない!ね、ポッちゃん、大きくなってアタシたちを乗せてってくれないかしら?三日間もカエル地帯を歩き続けるなんてしんどいもの」


はっ!それもそうだ!三日間ずっとカエル地獄を見続けるのは嫌だ!!


「ヘブン!私からもお願い!!巨大化しちゃえば一気に抜けられるんじゃない?!」


「え~そんなに見たいんですか~?仕方ないですねぇ~」


そう言うヘブンの尻尾は勢いよく左右にフリフリ。もうヘブンってば、頼られて嬉しいのね。


ナイトの提案で一度元のサイズに戻ったヘブンに、私、ナイト、エルヴァンさんの順番でまたがる。一気に巨大化されると乗るのが大変そうだからね。


「いきますよ~」ヘブンの声と同時に、視線が高くなっていく。


「わ、わ、わ!すごい!すごいわ、ポッちゃん!アナタってばなんて凄い子なのかしら!」


地上五メートルほど、マンションの三階くらい?まで高くなった視界の下から「そうですか~?えへへ」とヘブンの照れ笑いが聞こえてくる。


「よ~し!ヘブン号、発進!」「はいっ!」


私の声でヘブンが歩きだし、段々とスピードを上げて走り始める。


風に当たる風が気持ちよくて思わずジェットコースターに乗った気分で両手を上げてみる。


「っひゃ~!すご~い!!はや~い!た~のし~い!」


「うわっ!暴れないでくださいよ。あんまり暴れると落ちますよ、エルヴァンさんが」


「なんでアタシが落ちるのよ!アンタが先に落ちなさい!」


後ろでワチャワチャしてる気配がする。眼下ではカエル地帯に入ったのか、ミルドロッグがピョンピョン跳ねてるけどこれだけ高けりゃ流石に襲われることもない。


顔を上げると、遠くの方に白い木々が見え始め、近くの泥の中からも緑の芽が出始めているのが見える。


「緑の絨毯の向こうに見える雪花樹の花。これが拝めるのは従者の特権ね。何度見ても美しい光景だわ・・・」


エルヴァンさんの声が耳に心地いい。ヘブンの走るリズミカルな振動と、頬を撫でる涼しい風でうつらうつらしてきた。これは力を使った反動というより、単純に眠たいだけな気もする・・・。


「キトルさま、寝ていいっすよ。ヘブンが小さくなってもカエル見るの嫌でしょ」


それはそう。とても嫌です。


じゃあちょっと寝かせてもらおうかな。もし起こすんなら、カエル地帯を抜けてからにしてもらおうじゃないの・・・。

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